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大阪編:北浦酒店@天神橋筋六丁目


大阪の下町といえば北区界隈をさす。とある酒場の女将さんに教わった。
ならばと地下鉄駅で、バス・地下鉄・ニュートラムが850円で一日乗り放題の一日乗車券を購入。大阪の酒場巡り、町探訪には欠かせないアイテムで充分すぎる程、モトがとれてるが胃袋だけが心配だ。

地下鉄谷町線で天神橋筋六丁目にやってきた。
改札を出て地上へと向かう階段を上る。初めて見る町の風景がどんな様子なのか一歩一歩、期待と興奮がその踏み出す足を速める。

地上に上がるとこの日は雲1つない水色の空で太陽の日射しが眉間にシワを寄せさせる。
時計を見ればまだ時間は昼前の11時半だ。

適当に11番出口から出てると都島通、天神橋筋、本庄中道の交差点。回りはビルも建っていてサラリーマンも歩いている。
下町?と疑ったが、少し路地に入ると月島のような狭い路地に古民家が健在していた。

吸い寄せられるように路地裏の古民家を眺め歩いていると「北浦酒店」と書かれた横看板、外には瓶ビールのカラケースが積まれており、アルミサッシのドアが空いていて薄暗い中にはカウンターらしき所でおじさんが独り呑んでいる。

酒屋?立呑屋?角打ち?
一旦通り過ぎて再び戻り、店に入ってみた。

「す、すいませ~ん。大丈夫です?呑めます?」
かなり弱腰に伺う。何せ角打ちスタイルは四谷・鈴傳ならあるが、東京や大阪でも下町の地元のおっちゃんしかいない角打ちスタイルの店は初めてで、しかも大阪。いきなりどつかれでもしたら。。かなり小心者だが、酒が呑みたい!何せ喉が渇いてビールが早く呑みたいのだ。

エプロン姿のおばちゃんが「やってます~、どこでも好きなとこ座ってや~」
じゃテーブルで。3つあるテーブルの内店奥のテーブルにした。椅子はどれも一升瓶の空ケースに座布団が乗っかっている。座り心地も何故かしっくりきて何の違和感もない。

「飲み物何しましょ?」

「瓶ビール下さい。」

奥のガラスケースの冷蔵庫からアサヒビール。
「アテは冷蔵庫から好きなん選んで下さいっ」

おっ!いいねっ。
どれどれ。


四方ガラスで見える冷蔵庫には小鉢にマグロ刺身、きんぴらごぼう、鱧、ぬた、冷奴、パスタサラダ、うざく、ししとう味噌和え、魚肉ソーセージや、プロセスチーズに缶詰もある。
選ぶのが楽しい。

そして、選んだのが、パスタサラダときんぴらごぼう。
これが200円だから安い!

しかも安いからと言って、手を抜いている訳でなく、かなり美味いのなんのって。
ビールが大変進んで仕方がない。

目の前に立って呑んでいたおじさんが会計を済ませ店を後にすると次はグレーの帽子を被ったおじさんが入ってきて小さいL字カウンターの入口の席に腰掛け、それから自ら冷蔵庫からビールを取り出して呑み始めた。
椅子は昔のスナックにでもあったような四角い古椅子で店には不釣り合いなようだがしっくりは来ている。

酒も自分で取りに行くんだな~。
それにしても安い。
手書きの「立ち呑み値」
ビール大 400
ビール中 300
酒一パイ 300
ワンカップ 200
酎芋・麦 250
缶ビール500ml 370
缶ビール350ml 280
発泡酒500ml 270
発泡酒350ml 220
ワイン1パイ 350
水2l 300

生中400
生小250

それに品書きには
岩ガキ1ヶ380、剣やりいか下足揚、鶏ネギマ、砂ずり串、笹カレイ塩焼き、おでん、焼きそば、ギョーザ、冷奴、湯豆腐、きゅうりの古漬け。
岩ガキ以外は大体200円か250円らしく驚きの値だ!

当初は酒屋業だけだが(今でも息子さんが夕方まで配達などしている。)いつしかアテで酒を飲ませるようになった。
朝九時から夜十時まで、日曜祝日は朝十時から夕方六時まで。夕方からは70才くらいのおばさんから息子さんにバトンタッチするそうだ。だが、最近長い時間は辛いと一言溢した。

酒屋ならやはり次に日本酒が呑みたく、おばちゃんが選んでくれたのは南部美人の特別純米酒。
冷えていて旨そうだ。普通居酒屋なら500円から800円の値段で出されるがここは安心、300円。
安いよっマジで。

アテは、おばさんにギョーザを勧められたが、ししとうの味噌和えにした。
鮮やかな水色の大振りのグラスになみなみ注がれ、こんなに沢山と嬉しい喜びだ。

おじさんの座るカウンター前のおでんの舟には美味しそうな家庭的なおでんが沢山あり〆辺りにいいかも。
常連のおじさんはボトルキープ棚にあるプラスチックの駄菓子の串ものが入っていた容器の煎餅や 柿の種をアテに(値段は50か100)、おかわりした缶のハイボールでいい気分だ。

おばさんが常連のおじさんにスポーツ新聞を見て「〇〇さん、4・5・1な~、3万5千こんな配当ついて誰もこうてへんわ~」
と競馬談義。

ここは楽しい。安く、自分で好きな酒、アテを値段を計算しながら選んで取りにゆく。
まさに小学生の頃の駄菓子屋に通っていた頃の気持ちと全く一緒で、雰囲気も似ている。

常連の方とふと同じ気持ちになれた気がした。

「いやー、楽しかった~、また呑みに来ますねっ」

「また、きてや。おおきに」

あの頃の駄菓子屋にタイムスリップした気分を味わった。あれから二十年以上経ち、ファンタから酒に飲み物が変わったがハートは今でも少年時代なままだ。

■居酒屋ロマンティクス 2011年5月28日のblogより

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