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上機嫌

ようやくめぐりあえたよ ファム・ファタル
ほんとうにたまたまだったんだ
宇宙のかたすみの 偽物の星でぼんやり
ラッキーストライクを ふかしていたら
足もとに立っていたんだ まるい眼鏡をかけて
履いてた靴はぼくとおなじ マーチンの3ホール
でもぼくのと違って ちゃんと磨かれていたよ
なにかがはじまるような 気がして
煙草の箱を投げ棄てた ちょっと高いジッポも

苔生したような 思い出話も
とうてい理解できないような 思考回路も
ぼくのいない 未来の話も
うれしくて かなしくて ときどきさみしくて
はじめて人間に なれた気がした
またたく瞳 ふやけたえくぼ
つぎはぎしてきた こころのひびわれ
しろい しろい ミルクみたいにしろい
あかい あかい 夕焼けみたいにあかい
ぼくはいまだに 立ちあがれない
でもとても 気分がいいんだ

人間じゃない頃 いつも夢見た
はじめての鼓動 はじめての吐息
全部教えてくれた 全部かなえてくれた
ききたい音楽は なにかないかい
あかるいうたを いっしょにきこうよ
あの坂道を いっしょにころがろうよ
地獄のはてまで からまってゆこうよ

もうふりむかない だれもいらない
スカートのすそが 風にゆれてる
ぼくは動けないまま 上機嫌でいる
手足をもがれても 上機嫌でいる
耳がきこえなくなっても 上機嫌でいる
目がみえなくなっても 上機嫌でいる
こころをなくしても 上機嫌でいる
ぼくはぼくのまま 上機嫌でいる
おなじ姿の きみがいるから

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