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Awakening

季節はいつも黙って行き過ぎる
かわす言葉も誓う約束もなく
そこらの街角でふと交わるでしょう
そのときこんにちはもさよならも
ごめんねもありがとうも言わないでしょう
遅めの昼ごはんを静かに食べるでしょう
お腹がふくれたらようやく天気の話をして
つめたいんだかぬるいんだか
よくわからない潮風に吹かれて
だだ広い港をならんで歩くでしょう
アナウンスをきいていそぎ足で
遊覧船にのって海に出るでしょう
甲板にでてだいだいにゆれる世界をながめて
ホメオスタシスについて語り合うでしょう
互いの違う望みを思い知るでしょう
そばにいる孤独を思い知るでしょう
あの観覧車には乗らなくてもいいかな
地を這うふたりの姿を
てっぺんから見おろすのは
またこんどにしましょう
みんな指差してなにか言うから
陸に戻ったら誰もいない海に行って
岩と岩を飛び越えて靴を脱いで
浅瀬のちょっと先でデニムの濡れるのも
気にせず膝までつかりながら
バンザイ!と両腕をつき広げるでしょう
そんな姿を望遠鏡から覗く星みたいに思って
左ななめうしろからみていたけど
これからはそばに立って脚を濡らして
燃える水平に向かって力の限り叫ぶでしょう
届かない星に手を伸ばすでしょう
そしたら嬉しんでくれるかな
今日はじめての八重歯を見せてくれるかな
やっと気付いたんだね、って言って

なにものにもなれないでしょう
なにものにもならないでしょう
ただ愛してゆくでしょう
なにものかになろうとするその姿を
なにものかを愛するその姿を
ずっと愛してゆくでしょう
さみしくないよ

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