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いなくならない母のこと

一人暮らしの排水口はよくつまる。

何も考えずにシャワーを浴びていて、ふと下を見ると足元に水たまりができていることがしょっちゅうある。その度に体から水を滴らせたままあわてて掃除をする。定期的に掃除すべきなのはわかってるんだけど、、、

一人暮らしの食事はいつもメニューが同じだ。買い物に行っても同じような食材ばかり手にとってしまうので、食卓に並ぶおかずもいつもだいたい同じだ。僕の場合のそれは野菜炒め。お肉と野菜を炒めるだけ。簡単、シンプル、はずれがない。

一人暮らしのトイレットペーパーは気付いたらなくなっている。あと一つしかない、とは毎回思うのだけど、買い物に行くのを忘れてしまう。バイト帰りに真横にドラッグストアがあるのに通り過ぎてしまう。


こんなときいつも、母のことを思い出す。


念願の一人暮らしだと喜んで実家から飛び出して来たけど、誰にも邪魔されずに生活できると思っていたけど、いつでも母のことが目に浮かぶ。

今まで排水口が詰まっていて水が流れないことなんてなかったし、食卓には毎日違うメニューが並んでいた。トイレットペーパーがなくてお尻がふけないなんて事態も起こり得なかった。

ああ、なんでもやってもらっていたんだな、と一人暮らしをはじめてやっと気付いた。専業主婦ではなかったので、昼間働いて、家に帰って来たあとにそういった家のことをやっていたのか、はたまた休日にやっていたのだろうか。僕は何も知らなかった。

朝は誰よりも早く起きて、洗濯をして、お弁当を作って、働いて、疲れて帰って来て、掃除をして、家族全員のご飯を作って、洗い物をして。

本当に頭が上がらない。高校生までの僕はそんなことには全く考えが至らなかった。快適にお風呂に入れることも、毎日美味しいご飯がでてくることも当たり前だと思っていた。

でもそれは、決して当たり前なんかではなかった。毎日毎日そういったことを全てやってくれていたから僕は何不自由なく生活できていた。

やっと、親孝行の意味が少しだけわかった気がする。


先日、母が誕生日を迎えた。

おめでとう。
気の利いたお祝いはできないけど、本当に感謝しています。これからもよろしく。

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