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過疎地の復興はどこまでできるか

いつもの思い付きの書き散らしではなく、仕事でやってる領域のまじめな話。少し長くなるけど、時間があればぜひ読んでほしい。

能登の地震後、X上で過疎地を完全復興させるのでなく、移住を考えるべきだという主張が目立っている。発言者によって、その意図する「移住」のレベルは異なっているが、このような話を読む、発言する前提の知識として知っておいてほしいことがある。

地方自治体はそれぞれに都市計画マスタープランというものを持っている。それに付随して立地適正化計画という計画を策定しているところも多い。これは何かざっくりというと、自治体が、その都市機能を長期のスパンでどのような方向性で維持し、運営していくかを定めたものです。

特に立地適正化計画を策定している自治体では多くの場合人口減少してきたもしくはこれからする現状において、中心市街地の密度を高く保ち、都市機能や利便性を維持することを掲げている。これがコンパクトシティと呼ばれる方針であって、自治体単位でその中にある過疎地や限界集落を守っていこうということではなく、できるだけ集まって居住するよう誘導し、行政コストを抑え、生活の質を維持しようとするものです。

これは大枠でいえば過疎地は捨てて移住しろと言うかなり強権的な意見と同じところを目指しているが、やり方としては時間をかけて、住民が自ら集まるように規制やインセンティブによって誘導していくものであって、社会の動きと連動して長期スパンで人口や産業の変化に合わせ都市の形を整えていくやり方です。

例として、能登半島でいえば輪島市が分かりやすい立地適正化計画を持っていたので興味があれば確認してみてください。計画の最後のほうに居住誘導地域として、現在の市街地をさらに絞った地域を指定し、そこの密度を保つことを掲げています。

実効性をもって成果をあげられているかはともかくとして、自治体がそれぞれに平時から可能な範囲で行政コストを抑える方策を立て、消滅するその日まで何とか都市としての機能を維持しようとしていることを知ったうえで、外野である私たちがそれを論じるときには国家としての方針なのか、個別の自治体についての話なのかを明確にして発言する必要があり、読み手もそれを意識していないと、読み違えてしまう。

過疎地の復旧復興はあきらめろという話を、国家としての話であれば、復興予算をやたらと積むんじゃなくて出しすぎにならないように繊細に調整しろよという意見と読めるが、個別自治体に対しての意見としてみれば現在居住している住民に対し道路等のインフラを整備するなということになり、それは暴論というほかない。現に道路法上の道路である道路を、その道路がないと生活できない人がいるのに復旧しないとか、そんなことはできないのです。個別の話をするなら、2車線を1車線にして費用を抑えよとか、具体的な話でないと意味を成しません。

最後に私事ですが、私は地方公務員として都市計画にもかかわる仕事をしています。20年後、30年後の市の形を整えるため、私権を制限する法律で住民や事業者の皆さんの顰蹙を買いながら、必要なことだと思って業務にあたっています。行政の効率化のために強制移住だとか、そんなことはできないんですが、便利で安全な土地に住んでもらうように、地方自治体は苦心しているのだと知ってもらえれば幸いです。

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