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ケイネス先生の聖杯戦争 第九局面

  目次

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、宝石魔術の応用によって転写された書類を子細に読み込んでいた。

 間諜からの報告である。

 今次の聖杯戦争に参戦するマスターの情報だ。

 アインツベルンからはアイリスフィール・フォン・アインツベルン。どうやらホムンクルスをマスターに仕立て上げているようだ。錬金術の大家たる血統と技巧の精髄であり、魔道の探究者としても大いに興味をそそられる存在である。もしも捕らえることが叶うなら、是非とも解剖し、その神秘を解き明かしたいものだ。

 また、アインツベルンは他にも外来の魔術師を雇い入れたようだ。衛宮切嗣。政情の不安定な紛争地帯で相当に荒稼ぎしてきた魔術傭兵だ。彼の関わった案件では、高確率で魔術師が奇妙な失踪を遂げており、不気味の一言である。

 間桐からは間桐雁夜。出奔し、刻印も受け継がなかった半端者を強引にマスターにしたらしい。勝負を捨てたのか。あるいは何かあるのか。

 遠坂からは当主の遠坂時臣。知らぬ男ではない。極東の猿にしておくにはもったいないほど貴種としての立ち振る舞いを弁えた者だ。魔術師としても一流。資産も充実しているので半端な触媒など用意しないだろう。間違いなく強敵となる。

 どういうわけか聖堂教会からも参戦者がいる。言峰綺礼。教会と深い関りのあった遠坂時臣にいかなる経緯か弟子入りし、令呪の発現に伴って師と袂を分かったらしい。不自然な経歴だ。なぜ教会の代行者が魔術師に弟子入りなどするのか。裏に何かあるに違いない。

 そして、征服王イスカンダルのマントの切れ端を盗んでいった我が生徒、ウェイバー・ベルベット。間違いなく参戦してくる。断言してもいい。魔術師としては正直何の脅威も感じないが、持っている触媒が触媒だ。絶対に対策は考えておく必要がある。潜伏場所がさっぱり割れないのも不可解だ。

 そして、未だ正体を掴ませぬもう一人のマスター。あるいはこの六人目こそが衛宮切嗣なのかもしれない。つまりアインツベルン勢は、二つの陣営の連合である可能性が否定できない。当然、まともに勝負せず仲間割れに追い込むべきだろう。

 ――さて。

 以上を踏まえたうえで、いかなる戦略をもってことに挑むべきか。

 第一に情報戦を制し、敵サーヴァントの真名と性能を探ること。第二にキャスターの居場所を洗い出し、可及的速やかに討ち取ること。

 よほどの変わり種でもないかぎり、キャスターの英霊ならば工房を敷設し、地脈から魔力を取り出すなり、魂食いを敢行するなりで力を蓄え、何某か大きな企てを実行に移そうとするであろう。キャスターに時間を与えていいことなど一つもない。

 ただ、それ以降の戦略となると、今のところまったく立てることができない。とにかく情報が欲しいのだ。

 とはいえ――敵同士が潰し合ってくれるのを期待して穴熊を決め込むべきではないと直感している。戦況に対応するのではなく、主体的に戦況を構築し、常に主導権を握り続けなければ、到底かの征服王を相手に勝機を見出すことはできない。そんな気がしてならなかった。

 瞬間。

『我が主よ。使い魔千体、用意が完了いたしました』

 その念話が届くと同時に、ケイネスは立ち上がった。

「よろしい。では冬木に向かう」

 戦を制するのは巧遅よりも拙速である。

【続く】

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