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ケイネス先生の聖杯戦争 第二十三局面

  目次

 といっても、大したことをしたわけではない。

 舞弥に命じて、使い魔を遠坂邸に突っ込ませただけだ。

 遠坂邸を調べようとした使い魔たちがことごとく殺されていることは把握していたし、それがアサシンによるものであることも推測できる。

 であるならば、アサシンが本業をすっぽかしてマスター暗殺という好餌に釣られている以上、遠坂邸の警備は手薄になっていると考えられる。

 今ならば遠坂邸に侵入できるのではないかと睨んだ。それで内部の備えを確認できればよし。できずとも魔術的な罠と警報が発動したことにより遠坂時臣がアサシンの独断専行に気づき、呼び戻す公算は高い。

 結果、見事に当たった。

 そして、二体ともがこの場より去っていったことを鑑みるに、あれらはアサシンの何らかの能力による分身や使い魔の類であろうという情報も得られた。

 だが、舌打ちが漏れる。

「……なぜ間桐雁夜はランサーとの戦いを放棄してバーサーカーをアサシンに向かわせたりしたんだ」

 その差配には何の合理性もなく、ゆえに切嗣には予測ができなかった。

 バーサーカーが己のマスターの近くに戻ってきてしまったために、「バーサーカーとランサーが戦っている間にマスター二人を射殺する」という切嗣の当初の作戦はご破算となってしまった。

 マンホール直下で待機している舞弥に無線を飛ばす。

「舞弥、君はケイネスの拠点に戻ってクレイモア地雷を撤去してくれ。あの流体金属の防護膜を突破するにはまったく足りない。侵入があったという事実を奴に知らせるだけだ」

『了解。C2爆薬でも仕掛けておきますか?』

 切嗣はC4やセムテックスを採用していない。それらには爆発物マーカーであるニトログリコールが配合されており、起爆前の発見が容易であるためだ。

「……あぁ、そうだな。家屋すべてを吹き飛ばすだけの分量を頼むよ」

 それでも確殺を見込むには不安が残る。もう少しあの魔術礼装の性能を観察したいところだ。

 だがまぁ、今日のところはケイネスが間桐雁夜を殺して終わりだろう。サーヴァント戦闘は完全にランサーの勝利と言っていい。これ以上は情報を抜くことはできそうにない。

 ……そう、思っていたのだが。

 ●

「……殺すのか、俺を」

 アサシンは去り、二陣営の主従は対峙していた。

 だが、どちらが優勢であるかなどその場の全員が理解していた。

 ダメージが嵩み過ぎたのか、バーサーカーはその場に崩れ落ちるように膝をつき、霊体化してしまった。

 一方、ケイネスの傍らに控えるランサーには、目に見えるような負傷はないし、息ひとつ荒げてはいない。呆れた継戦能力の高さだ。

 傷の回復のためにバーサーカーへ吸い上げられる魔力量が増大し、雁夜は身をよじって血を吐いた。

 その血の中には蛆虫めいたものが混じり、身をのたうたせている。

「あ……ギ……ッ」

「ふむ、特殊な調整の施された使い魔を疑似的な魔術回路として機能させているのか。興味深いが、非効率的だな」

「我が主よ、不用意に近づかれませぬよう。その御仁の目にはまだ闘志が宿っております。何をしでかすか……」

 だが、ケイネスは躊躇なく雁夜に近づいていった。

 緊張に身構えるディルムッドを尻目に、ケイネスは雁夜の胸板に掌を当てる。接触部が魔力の燐光を帯び、雁夜の病的な喘鳴は徐々に落ち着いていった。

「治療魔術を……? なぜ……」

「間桐雁夜。こっちを見ろ。遠坂時臣ではなく・・・・・・・・私を見ろ・・・・

【続く】

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