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wasting time?



別の人と会った


この彼ーYuーが
私にくれる優しさや
私に見せる
私への愛着や、執着、興味、誠実、
などのすべてを


この彼、ではなく
Sが
私にくれていたなら、と思うくらいに


彼は
とてもパーフェクトに
私に向かっていた


それは、Sのような
─リアルで会ったら連絡が激減する、
などの─
無礼や失礼のまったく無い


真摯で。
be最優先で。
男前で
カッコが良かった


166センチ。
小柄な君だ。


私は少しの気遣いで今日は
シューズボックスの奥に眠っていた
ローヒールを引っ張り出して
彼とのデートに向かった


私は
大きな男が好きで
これまでも
大きな男としか
付き合ったことが無く
好意を寄せた経験が無い



大きな男に感じる
大きな安堵
─その腕の中で
私は幼い少女のようになり
そこに鼻先をくっつけて
甘えられるような安息─は、
これまで、
私が男を選ぶ時の
大切な要素であったので


今日の彼の
まるで少年のような小柄さに
私は
今日一日ではとても
慣れることは出来なかったんだけれども





けれども
この人は
ーわたしの大好きなー
とても知的で
頭の良い男だった


話はとても楽しく
もう一度会いたい、
と言われた別れ際、
私はとても素直に
コクン、と頷いてしまった


ランチはイタリアン





イタリアンのあとは
彼が調べてくれていた
水族館へ行った


久しぶりすぎて
女性の扱いが分からない、と
照れて笑った


手も繋がずに1時間、
水族館をゆっくりと歩いた


“こんな可愛いお顔のカエルが
人を10人も殺せるような
毒を持っているのねー”とか

“水族館て、こんなに癒されるんだな”
とか。


その都度二人は
目を合わせて微笑み合い
二人は寄り添って歩いた。
恋人同士のように。



平日の午後のそこは
人影もまばら


薄暗い、青白いライトの当たる
とても涼しい異空間を


肩を並べて歩いた
今まで経験の無いくらいに
タイニーな彼と


次のデートの約束をした。
私はまた
この人に会うだろう。


そして
Sは。


”15日どこへいく?”と訊くので
”どこへ行きたいの?”と尋ねたら

”行きたいところは何処も無い”と
返事を寄越した


”行きたいところは何処も無い
秋になったら
紅葉を感じられるところに行きたいです”と。



行きたいところは何処も無い



それだけれども。
秋に紅葉は見たいのか、と思う


この人は秋まで
深まる秋のころまで
私といるつもり、
なのかしら、と思う


わたしは
どうなのだ、とも思う
深まる秋のころまで
この人といるつもり、
なのかしら


心はとても
宙ぶらりんだ



Sとの。
この気怠いニュアンス



彼らは同じ歳


同世代を生きても、
感性も、感覚も
女への振る舞いも
何もかもはあまりにも違っていて


私は二人を選べずにいる


けれども今は。
選ぶ用もないのではと思ってもいる


年末に
新居に引っ越す話をしたら


”手伝うよ
男手が要るなら言って”と言った
”車の塗装もプロ並みに上手いから俺
塗り直してあげる!”


こんなタイニーなこの人も。
男なのだな、などと
不謹慎なことを思って私は
エスカレーターを降りながら
振り返り
彼を見上げ
”うん、ありがとう”と、
心の底から彼に伝えた


繊細なYu
無礼なS


これは恋か
恋のような遊戯か
まやかし?
wasting time?


だとしても。
wasting timeの連なりこそが
生きることなのかもしなれない、とも思う


少なくとも。
秋が苦手なわたしの
今年の巡る秋が


少しでも。
実りある、優しい秋になることを
今の私は祈る想い。

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