見出し画像

浅はかで、いびつ




夥しい
愛の言葉をやり取りした
二人の
恋の初めの喧騒は
呆気なく去り


その後はおそらく、
この、
少し気怠い倦怠が
果て無く続き
いずれ二人はそれにさえ慣れてしまい、
生温い
さして刺激的でも無いような
長い怠惰の中に
溺れるだろう


溺れていることにも、
その生温さにさえも、
二人はいずれ気づかなくなり
会っては
当然の儀式のように肌を合わせ
やがてそれにも慣れ
それにも飽き
互いの陰部に触れながら
惰眠を貪るだろう


けれども可笑しなことにわたしは、
その歳下の君と
そんな時間を繰り返せたなら
それは至福に間違い無い、と
思っている
心底に。



夕べは寝付けず
-それは、初めての
喧嘩の夜の
寝苦しさに良く似ていて-
私は、狭く寝苦しいいシングルベッドの上で
のたうち回っていた


携帯が光る
そのたび、心は跳ね上がったけれども
それはどれも
-愛しの君、ではない-
他の若い男たちからのもので
それを知るたび私は
携帯をベッドに放り投げた


”君からの連絡”を
待っていたはずなのだったが
いつの刻からか私は
眠ることさえ許されぬまま
─”君からの連絡”などでは無くて─
”夜が明けるのを待っているだけ”だと気付き
明け方のベッドの上で愕然とした


言い聞かせていた
”彼は夜勤してるの
お仕事中なのよ”と。


朝は巡り
私はぼんやりとした思考のまま
ベッドを出て歯を磨き
愛しの君に連絡をした


”忙しかったの?
君が
足りないの”と。


すると
どうだろう


それまでは、
夕べ仕事終わりに送ったLINEに
既読すら付けずに放っていた
愛しの君から
矢継ぎ早に
言い訳めいた返信が送られてくる


”おはよう
そうだよね
連絡せずに
ごめんなさい”


”忙しかったの
タイムカードの
締めの仕事もあったし
昨日は、出勤時間ギリギリまで寝ていた”


”木曜も残業確定だよ
今日はこれで帰ります”


呆気にとられ
返信できずにいると


”15日どっか行こう
俺もbeちゃんも休みだから”


”嘘じゃないんだ
正直.出会ってから今まで
業務に支障出るくらい
beちゃんとLINEばっかりしてた。
言い訳に聞こえるかもしれないけど”


”一緒にいれる時に
たくさんお話しよう”


”ごめんなさい”


それで。
私は心の底から
この人のことを


”浅はかな”と思った。


思ったのだけれども
思ったその直後に
この、
浅はかささえもが
なぜこんなにも愛しいのだろうと
自問し、
この、愛しの君の
浅はかな言い訳さえもを
私は受け容れよう、などと
自答した




なので私は、ひとこと
君に返信した




”あ、そうなのね
これで日曜まで生きられそうよ”と



浅はか、
なのは
君か、わたしか
もはやそのボーダーラインなどは分からず


そしてけれども。
分からずとも良いと。
私は想っているの。



いびつな男が好きだ。

少し、心病みな男に
私はどうしても惹かれてしまう


この
愛しの君の
メンタルのいびつさは
またいずれ
書き残そうと想っている




少なくとも。
私は本日からは
日曜の、彼との逢瀬のために
息を繋ぐことにした



したんだけれども。
あすの休日は
愛しの君と同じ歳の
別の君に逢う予定の。


浅はかで、いびつなわたし。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?