トドマツの原生林とそのポテンシャルを探る〜Be素材巡りの旅 in 北海道 道東地方 前編〜
株式会社Be、代表取締役の稲垣大輔です。
突然ですが、私は自分が住む日本という国が好きで誇りを持っています。
特に、生まれ育った北海道にはより強い郷土愛を持っていると思います。
そこで今回は、北海道の素敵な原料を調査するため、生まれ故郷である道東(どうとう※)に出張した際のことを書きます。
※道東(どうとう)とは、北海道の地域区分の1つであり、他に道央・道北・道南が存在する。有名な都市では、札幌市は道央、旭川市は道北、函館市は道南、網走市は道東に位置する。
今回の出張では、北海道を代表する樹木であるトドマツを含めた現地調査、精油製造工程などの視察、そしてワーケーションを実施するために、釧路~阿寒湖周辺に行きました。
北海道網走市出身の私にとって、同じ道東にある阿寒湖は小学校の校外学習で、釧路は修学旅行で行った懐かしい土地でもあります。
ここからは出張工程の順に、気付いたこと、強く印象に残ったことを振り返ります。
とても多くの感動と気づきがあったので、前半と後半に分けて書くことにしました。
この前半では主にトドマツについて、後半では主にワーケーションについて書きます。
【DAY1】
◆移動日(道東の秋は寒い)
出張初日は羽田空港で朝から夕方までガッツリ打ち合わせをし、終了後即北海道の「たんちょう釧路空港」へ移動。
羽田空港〜たんちょう釧路空港~レンタカーで移動~ホテルチェックイン~会食、を一気に行う怒涛のスケジュールでした。
【DAY2】
◆トドマツが秘める「大気汚染物質浄化機能」のポテンシャル(工場見学のまえに)
トドマツから樹木精油(以下、エッセンシャルオイル)を抽出する工場の見学に向かいました。
抽出工場で設備見学を始める前に、トドマツの研究背景をお伺いする時間がありました。
まだ設備を見る前ですが、トドマツ自体のすごさはもちろん、元エンジニアとして興味津々となる内容がたくさん!だったので紹介させてください。
私たちがトドマツのポテンシャルとすごさを理解する前に、一つの質問が投げかけられました。
「なぜ、(トドマツ原生林も含めた)森林の空気はキレイなのか?」
たしかになぜなのだろう思っていると、すかさず
「それを知ることが、トドマツのすごさを理解できる近道」
と教えてもらいました。
突然ですが、森林で空気がキレイになるプロセスを紹介します。
①植物(特に樹木)の枝葉から水蒸気とともに浄化成分が蒸散する
②浄化成分が空気中の窒素酸化物に取り付き、凝集する
③それらが大きな粒子を形成して、地面に落下させることで無害化する
なお、③で地面に落ちた窒素酸化物は、地中のバクテリアに生分解されて窒素化合物となります。
そして植物の根から栄養として吸収されます。
そうして森で植物が窒素酸化物を空気から取り除いて地面に落とすことと、植物のライフサイクルと合わさった好循環が生まれ、その結果として「森の空気がキレイ」な状態になるのですね。
ちなみに、植物には光合成に伴って二酸化炭素を吸収して酸素を出す機能もあります。
そう考えると、今回ご説明いただいた窒素酸化物のサイクルにまつわるものも含めた、植物や森が複合的に持っている「大気汚染物質浄化機能」と呼べる機能の偉大さを感じました。
では、同じ森でも、どの植物が一番空気をキレイにするのか。
この疑問を解消するため、2007年に産官学共同体制にてプロジェクトが立ち上げられました。
そのプロジェクトでは、約2年かけ、日本中の森の空気を調べました。
それは日本全国の森林をめぐり、森の空気を集めて分析するという地道な作業でした。
日本中の森で作業をした結果、トドマツ森林から採取した空気中の窒素酸化物量が一番少なく、極端に言えば一番空気がキレイになっているとわかりました。
これが道東のトドマツが秘めるポテンシャルに注目が集まったきっかけでした。
研究畑出身の自分としては、そのプロジェクトで実施した調査の方法、地道さも含めた、研究者の方々の情熱にただただ脱帽する思いでした。
そして、トドマツのすごさ、ポテンシャルを知ることができました。
◆トドマツエッセンシャルオイル抽出工場
説明を受けてから、トドマツからエッセンシャルオイルを抽出する工場に向かうと、入口から付近一端までトドマツの香りがします。
すーっと鼻に抜けるような、癒されるような香り。
私はトドマツの香りを嗅いで思わず「懐かしいな」「地元に帰ってきたな」と感じました。
というのも、北海道の人工林の約50%はトドマツ。
極端に聞こえるかもしれませんが、北海道の田舎に行くとトドマツの香りに囲まれて暮らしているようなものです。
道東出身である私はトドマツの香りは「懐かしい実家の裏山の香り」と感じたのでした。
トドマツのエッセンシャルオイルの製造工程について、流れを簡単に書くとこんな感じです。
・伐採~保存
・粉砕
・抽出
上記の抽出工程を経て、エッセンシャルオイルと樹木水、針葉粉体が出てきます。
それぞれの効果は以下の通りです。
・エッセンシャルオイル:空気浄化・ストレス軽減
・樹木水:消臭・リラックス
・針葉粉体:消臭・VOC(※)除去
※揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称であり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が含まれる(VOC:Volatile Organic Compounds)
◆抽出方法のこだわり〜より純粋なトドマツエッセンシャルオイルを得るために〜
通常の水蒸気蒸留ではなく、葉に含まれる水分を直接加熱、水蒸気化するところがすごいこだわりだと感じました。
この抽出方法によるメリットは以下のとおりです。
①外部から水蒸気などを全く加えないため純度が増す
②可能な限り自然に近い条件で抽出することで、高い鮮度が保たれる
私は特に、エッセンシャルオイルの純度と鮮度の高さ、それが空気清浄に結びつく意味を知り、深く感銘を受けました。
少し長いですが、なぜエッセンシャルオイルの純度と鮮度の高さが空気清浄に結びつくのかをまとめてみます。
前述したように、産官学共同のプロジェクトで、日本全国を廻り森林の空気を調べた結果、トドマツ森林から採取した空気中の窒素酸化物量が一番少ないことがわかりました。
その後、プロジェクトでは空気中の窒素酸化物を除去する浄化成分を特定するため、トドマツエッセンシャルオイルに含まれる300種類以上の全成分を分析しました。
しかし、どの成分が浄化に役立っているかの完全特定までは至らず、いくつかの成分にまで絞るに留まりました。
よって現時点ではトドマツが空気中の窒素酸化物を除去する成分だけを、科学的に再現できてはいないのです。
では森林が持つ空気をきれいにする機能をどう再現するのか。
その方法として「可能な限り自然に近い、純度が高い状態のトドマツエッセンシャルオイルを抽出し、そのまま使用すること」が有効と考えられます。
では、可能な限り自然に近い状態のトドマツエッセンシャルオイルを得るにはどうすればいいか。
通常の水蒸気蒸留法では、抽出の際に高温になってしまい、どうしても自然に近い状態から遠ざかりますが、こちらの工場で実践している抽出方法であれば、より自然に近い状態で抽出が可能になります。
とても考えられていて、理に叶っている、こだわりの抽出方法によって、前述の「キレイな空気」を再現するのにより近づけると考えています。
◆地球環境へのこだわり〜オーガニック・ゼロミッションへの取り組み〜
今回見学した工場は「オーガニック・ゼロミッション工場」を掲げています。
認証や受賞の経歴もあり、まさに自他ともに認めるゼロエミッションな工場でした。
認証:米国農務省(USDA)のThe National Organic Program(NOP)に基づく認証を受けています。工程すべてに農薬・合成洗剤等を一切使用せず、環境負荷が低いオーガニック製品製造工場であることを示しています。
受賞:過去に「北海道ゼロ・エミ大賞」を受賞しています。
廃棄物の発生・排出抑制、二酸化炭素の排出抑制に関する意識の醸成など、循環型社会の推進と地球温暖化防止に対して模範的な取組を行っている事業所に送られる賞です。
工場自体だけでなく、生産物でも「オーガニック・ゼロミッション」であることも驚きでした。
持続可能性を高める活動として、未利用資源であるトドマツ間伐材の枝葉を活用しています。
トドマツの森から枝葉を回収し、精油や樹木水を抽出するシステムがそれを支えています。
そうして抽出された精油・樹木水は、林地生産物として世界初となるEcocert(エコサート)によるCOSMOS認証を取得しています。
スキンケア、ヘア&ボディケアでエコサートCOSMOS認証を取得している弊社としては、馴染み深いですね。
※認証の説明はこちらを参照ください
https://note.com/be_inagaki/n/n5cf8e574ccde
また、新規事業(抽出)を創造し、地域雇用を促進して経済発展を促進しています。
工場そのもの、生産物、雇用、などさまざまな面でとても先進的で、挑戦的な姿勢も感じられて、とても刺激を受けました。
◆さらに広がるトドマツのポテンシャル
前出した通り、植物の働きによって大気中の窒素酸化物を回収する「大気汚染物質浄化機能」。
その解明から始まった森の空気の研究ですが、現在は様々な大学・研究機関が連携し、森の香りを軸にした「ヘルスケア機能」の解明も進んでいます。
参考まで、トドマツについて、これまでに発表されている研究の事例を簡単に紹介します。
・香りによるストレス低減効果
トドマツ精油の香りを嗅いだ際のストレスマーカーの挙動を検証し、香りがストレスを低減することを確認した。
・花粉アレルギー性低減効果の発見
「森の香り」が「花粉のアレルギー性を低減する」事を発見。
花粉抗原にトドマツ香り成分が凝集して表面をコーティングすることで、抗原抗体反応を約90%起きにくくする作用を発見した。
・認知機能への影響
トドマツ精油を用いて芳香療法の実験を実施した結果、認知機能改善効果がある事が示唆された。
・睡眠への影響
トドマツの針葉粉体が含まれている枕およびトドマツ精油の香りが、入眠に及ぼす影響を検証した結果、睡眠の質改善効果が示唆された。
◆トドマツの山林視察
昼からはトドマツがある山林を視察。
前述の通り、北海道にはいたるところにトドマツがあるので「山林と言っても、地元の裏山と大差ないだろう」と思っていましたが、足を踏み入れると想像とは全然違う世界が待っていました。
まずは山林に近づく道中でエゾシカやエゾリス、タンチョウを始めとする様々な自然動物のお迎えからスタートです。
そして入口付近には、なんと温泉が出ており「特に活用方法が無いのでそのままにしている」という、なんとも贅沢で豪快な状況が。
そんな中を進んでいくと、車の前をエゾシカの家族が横切るなど「大自然の中に自分がいる」というのを実感。
車を降りて、釧路湿原が一望できる場所まで徒歩で登る際には「ヒグマが出るから」と、定期的に警報を鳴らしながら歩きました。
「昔、知床の方へ渓流釣りへ行った時には、同じようにヒグマ対策をしながら山々を歩いたな~」と懐かしんでいると、そんな経験の無いスタッフにとっては、とても驚きで新鮮な体験だったとのこと。
百聞は一見にしかずという言葉がありますが、大自然の雄大さも、怖さも、生産者の愛情も、こだわりも、100回話を聞くよりも、一度体験することが大切ですね。
非常に素敵な体験が出来ました。
そんなこんなで息を切らせながら高台まで登って、そこから見る釧路湿原の景色は絶景でした。
写真を載せますが、この写真だけからは伝えきれない魅力がある景色でした。
ここまで出張の前半日程で、主にトドマツを視察した内容を書きました。
後半では出張の後半日程で、主にワーケーションについて書きます。
◆あとがき
初日について、トドマツと直接は関係ないのですが、思い出深かったので書かせてください。
初日は東京から出発するギリギリまで仕事を詰め込んで、大急ぎでの移動となりました。
移動の後で臨んだ会食では釧路の地元食材をふんだんに利用したメニューに舌鼓を打ちました。
久々に味わう地元食材の味のおかげで、翌日以降のエナジーチャージは万全という感じで過ごすことが出来ました。
会食後にホテルに戻ってひと仕事した後は、一人で夜の街をぶらぶら飲み歩き。
地元を出て25年も経つと、寒がりになった自分を実感しますが、体験欲の強い私は少しの空き時間でもあれば、ぶらぶらしてしまいます(笑)
さんざん文章にしておきながらなんですが、工場見学も、トドマツの森も、夜の街も、いろんな体験を通して得られるものは筆舌に尽くし難いほど豊かだなと感じます。
しかし、得られた知識や感動を分かち合いたいし、感謝を伝えたい気持ちもある。
少々矛盾している思いもありながら、業務の合間に筆をとってみて、文章・言葉にしてみる大切さも感じています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。後編もお楽しみに!
■公式プロフィール
稲垣大輔(いながき・だいすけ)
株式会社Be 代表取締役
北海道出身
2002年、北海道大学工学部を卒業し、国内大手自動車会社に就職。
自動車のブレーキ設計や人間工学を活かした開発、エンジンの解析業務に携わる。
2012年にイベント会社を創業。
2017年に株式会社Beを創業し、現在に至る。
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