見出し画像

第三十四回・最終回:特別篇「今日の片岡さんは、どこの空の下に」

片岡義男『ドーナツを聴く』
Text:Daisuke Kawasaki

ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた。堂々の最終回!


川崎大助です。ここは片岡義男さんのページなんですが、今回理由ありまして、僕が代筆しています。まあ週刊漫画誌なんかであります、連載の先生が原稿落としたので、新人の読み切り短篇が、突如「埋め稿」として掲載される……ようなもの、かもしれません(最終回なんですが)。

紙版『インザシティ』入稿データより(以下同)。第8集に掲載、連載第2回

いったいどういうことか、というと、片岡さん、旅に出られたご様子で。これは比喩ではなく、文字どおりの「旅行」なんですが、えー問題は「誰も行き先がわからない」ということで。さらに言うと「いつ帰ってくるかもわからない」と。ちなみに片岡さん、つね日ごろから「携帯電話は一切持ち歩かない」人でして。ゆえに「こっちから連絡を取る手段はなく」そのまま今日を迎えてしまった、という……

とまあ片岡さん、「どんな70年代の車寅次郎だよ!」状態になっている、わけですね。で僕なんですが、インザシティ紙版の時代から「片岡番」をやっておりまして。彼の小説も連載コラムも担当編集者の役割でやりとりしていたので、だから今回も「10月掲載の次回で(つまりコレですね)最終回です」と、このあいだ確実に伝えたつもり、だったのですが……どうやらそこを「9月分で連載は終わった」と思い込まれたようでして。それで、旅に……

紙版『インザシティ』第10集に掲載、連載第4回

という状況を、僕は片岡さんのご家族からお聞きしまして。片岡さん、もちろんEメールなんて送っても見ないので、普段の連絡は、ご自宅の固定電話にかける一択でして。それが、かけてもかけてもダメの数日を経たあと、無駄と思いつつも携帯に電話してみたところ、ご家族のかたが出られまして(片岡さんが携帯を捨て置いているので、ほかのかたが使用していた)、そこで「旅に出られている」という状況など、教えていただき。

さすがに「行き先も告げぬ、ふらり旅」なので、ご家族も「せめて携帯ぐらい持ってってほしい」と伝えられたそうなんですが、片岡さん、にべもなく「いやだ」と。なので……いま現在は、片岡さんのほうから、つまり旅先から時折かかってくる電話だけが唯一の通信手段となっている、という「リアル寅さん」状態となっている、らしいのです。

紙版『インザシティ』第12集に掲載、連載第5回

もっとも、おひとりでの旅ではなく、むかしのお知り合いとの和気あいあい旅行だそうですので、そこは寅さんとはちょっと違うんですが(当たり前だ)、まあなんというか、これぞ「ロンサム・カウボーイ」道ではないか、と思わされるようでもあり。これぞ「スターダスト・ハイウェイ」、もしくは「ときには星の下で眠る」の道でもあるか、と。そんなふうに感じ入ってしまうところも、なくもなく。

いまがどんな時代だろうが、片岡さんの「言葉」の周囲には、いつもさわやかに吹き抜けていく自由の風があるように、僕には思えるんですよね。だからきっと、今日もどこかの空の下で、そんな風を愉しみながら、片岡さんはご自由に歩いてらっしゃるのでしょう。

ご愛読、ありがとうございました。片岡義男さんの次なるお原稿をお楽しみに!

紙版『インザシティ』第13集に掲載、連載第6回

今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。


片岡義男
かたおか・よしお。作家、写真家。1960年代より活躍。
『スローなブギにしてくれ』『ぼくはプレスリーが大好き』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など著作多数。近著に短編小説集『これでいくほかないのよ』(亜紀書房)がある。 https://kataokayoshio.com


川崎大助
かわさき・だいすけ。作家。その前は雑誌『米国音楽』編集長ほか。
近著は『日本のロック名曲ベスト100』『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』。
ほか長篇小説『東京フールズゴールド』『教養としてのロック名盤ベスト100』、翻訳書に『フレディ・マーキュリー  写真のなかの人生』など。
Yahoo!ニュース個人オーサー。
Twitter:@dsk_kawasaki(https://twitter.com/dsk_kawasaki





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?