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第十六回:『ウェンズデー』

堀口麻由美『カルチャー徒然日記』
Text & Photo(※books Only):Mayumi Horiguchi

ゴスな青春から目が離せない!!

※写真上:ポーの代表的な怪奇短編小説「黒猫」。1843年発表。


ウェンズデーと手首から先だけのキャラクター「ハンド」/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

自分が主流派からズレた存在だからなのか、「ゴス / Goth」が好きだ。だから当然のごとく、Netflixドラマ『ウェンズデー』(原題:Wednesday)を面白く観た。

まず、ゴスについてざっと説明してみよう。ゴスは「ゴシック」から派生したものだ。ゴシックは英語でgothicと表記するが、語源は古代ゲルマン人の一部族「ゴート族」だ。「野蛮・未開」の意を表わす中世イタリア人の語に由来しているのだが、その後、建築、文学、映画、音楽など、あらゆる分野における特定の様式を表現する言葉として使われるようになった。音楽として、最初に公式に「ゴシック」に分類されたのはドアーズとされている。ロック評論家のジョン・スティックニーが同バンドを "ゴシック・ロック" と呼び、1967年に執筆した記事でコンサートの「暗い雰囲気(Dark Atmosphere)」を指摘し、ジム・モリソンのヴォーカルを「悪魔的だ」と評している。音楽関連のサブカルチャーとしての「ゴス」は1980年代に台頭。現在においても消えずに、様々な容体で進化し、世に存在し続けている。ゴスなアーティストの典型例を挙げると、バウハウス、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、ザ・キュアーあたりが有名だ。

『ウェンズデー』には、そんな「ゴス」感がたっぷり詰まっている! 本作の主人公は、チャールズ・アダムスによる漫画が原作のホラー・コメディ『アダムス・ファミリー』の長女であるウェンズデー・アダムス。ちなみにウェンズデーは13日の金曜日生まれなのだが、なぜ金曜日を意味する「フライデー」ではなく「ウェンズデー」という名前なのか?! それはマザーグースで「水曜日生まれの子は悲しみでいっぱい」と歌われるのを気に入っていた母モーティシアが、そう名付けたから。

ひとりだけ別注制服を着用するウェンズデーとネヴァーモア学園の生徒たち/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

そんな名前の由来を裏切ることなく、「陰キャな変人」として成長したウェンズデーは "普通の高校" で事件を起こし、両親の出会いの場でもあるネヴァーモア学園に転校することになる。そこで寮住まいの学校生活を送るのだが、この学校がそれこそ "普通じゃない” !! 人狼、吸血鬼、顔を見た人を石化することができる怪物=ゴルゴン、美しい歌声で航行中の人を惑わし遭難させたりする海の怪物=セイレーンなど、普通だと「モンスター」と呼ばれる者たちが通う学校なのだ。そして学校がある町ともども、みんなが謎の猟奇殺人事件に巻き込まれることになる。

学園の女王的存在のビアンカ・バークレー(ジョイ・サンデー)。セイレーンで、ゼイヴィアの元カノ/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中
自分が書いた絵に命を吹き込む能力を持つゼイヴィア・ソープ(パーシー・ハインズ・ホワイト)。ウェンズデーに気がある/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

ウェンズデーはそんな学校の中でも「浮いた」存在となるのだが、このドラマの素晴らしいところは、そんなウェンズデーですら驚愕せざるを得ないようなキャラが続々登場し、自身が内的変化することを余儀なくされていくところだ。人が社会で生きていく上で本質的に避けられないことのひとつに「他者との共存」が挙げられるが、その難しさや楽しさをも、このドラマは伝えている。

そんな感じで魅力的なサブキャラもたくさん登場するのだが、寮で同室となる人狼のイーニッド・シンクレアが本当に素晴らしい!! モノクロが基本のウェンズデーと対照的に激カラフル、性格も超明るく、みんなにフレンドリーに接する彼女がいることで、逆にウェンズデーの「ゴス」な魅力はより輝き、ストーリーにさらなる深みすら与えている。

明朗快活でキュートな人狼少女イーニッド/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中
ステンドグラスにもバッチリ個性が反映されているウェンズデーとイーニッドの部屋/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

その他の生徒もみんなそれぞれ個性的で面白いのだが、校長ラリッサ・ウィームスも印象深い存在だ。この校長を演じているのはドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で屈強な女騎士を演じたグウェンドリン・クリスティー。初めて目にした時は「え、もしかしてあの人?!」とビックリしたが、デカくて威厳があるのはもちろん、往年のハリウッド黄金期の女優をも彷彿させるメイク&スタイリッシュな衣裳もバッチリ似合っていて素晴らしい。

これが学園の生徒たちだ!/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中
校長ラリッサ・ウィームスも「とある能力」を持つ。それが何かは見てのお楽しみ/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

また、1990年代に大ヒットした映画『アダムス・ファミリー』シリーズでウェンズデーを演じたクリスティーナ・リッチが先生兼寮母のマリリン・ソーンヒルを演じているのだが、「代打」として出演が決まったというのがことの真相らしい。だが結果としては、この配役もバッチリだ。

ウェンズデーの家族であるアダムス一家。左から父ゴメズ(ルイス・ガスマン)、母モーティシア(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)、弟パグズリー(アイザック・オルドネス)/Netflixシリーズ『ウェンズデー』独占配信中

もちろん主役のウェンズデーを演じるジェナ・オルテガのキャラ作り&存在感もバッチリ。ゴスの「いいとこ取り」をしているだけでなく、ゴスならではの難儀な性格ゆえにモテまくっている点は見逃せないところだ。そして時たま脳内で展開される「自己分析」もナイス! さすがダーク系を描かせたらその名を外すわけにはいかないティム・バートンが監督・製作総指揮を務めているだけのことはある。

オルテガは、身体的にも素晴らしい!と驚愕させる演技を見せてくれる。SNSを中心にバズりまくったダンスシーンがそれだ。オルテガはこのダンスの振り付けを、自ら考案したそうだ。黒いゴスロリ的ドレス(?!)に身を包んだウェンズデーが、ザ・クランプスの曲「グー・グー・マック」(原題:Goo Goo Muck)に合わせて踊りまくるのだが、オルテガはゴス・キッズが集まるクラブでの踊りや、スージー・スーの動きなどを参考に、この振り付けを考えたんだとか。やるな!!

このダンスシーンでクランプスが使われているところもさすがだし、それ以外にも様々な「ゴス的要素」が散りばめられているところも見逃せない。ウェンズデーは小説を執筆しているのだが、ライバルとしてゴシック小説『フランケンシュタイン』(原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(Frankenstein: or The Modern Prometheus)』)を書いた英の小説家メアリー・シェリーの名前が出てきたり、あらゆるところにエドガー・アラン・ポーの引用も見られる。例えばその学園名自体がポーの引用だし(ポーの物語詩「大鴉(おおがらす)」で、大カラスが唯一発する言葉がネヴァーモア)、カラスはいろんなところに出てくるし、学校行事の名前は「ポー・カップ」だ。レースに出場するチームのボートには、それぞれ異なるポーの短編小説の名前が付けられている。ちなみにイーニッドとウェンズデーのチームのボート名は「黒猫」。さすがな設定ぶりに脱帽する。

主に19世紀英国の「ゴシック小説」を取り上げている本「英国ゴシック小説の系譜―『フランケンシュタイン』からワイルドまで」(坂本 光・慶應義塾大学出版会)。

そのように、ゴスやゴシックにまつわる物事に詳しければその楽しさは増すが、そんなことは知らなくても楽しめるのが『ウェンズデー』の良いところ。配信開始から1週間で『ストレンジャーシングス 未知の世界』シーズン4(2022)が持つ記録を塗り替え、Netflixで「1週間で最も視聴された英語テレビシリーズ」となったドラマなだけあるし、すでにシーズン2の配信も決定してるので、まだ未見の方はぜひ。

ちなみに「ゴス」は鬼畜アニメ『サウスパーク』にすらも出てくる。第17シーズンの第4話「ゴスとエモの子3:ポーザーズの夜明け」(原題:"Goth Kids 3: Dawn of the Posers”)には、ゴス、エモ、吸血鬼(ヴァンプ)キッズが出てくる。このエピソードの中で、ゴス・キッズは "ゴスとエモの違いは何か" と聞かれる。そして「エモはポーザーで、自殺を試みがちだが、ゴスは人々が自殺することに落ち込む。両者の違いは本質的にはニヒリズムとシニシズムの違いだけど、どっちがどっちだか自分たちでもわからなくなる」というギャグで落ちる。この『サウスパーク』のエピソード中にも当然のようにポーの話題が出てくる。吸血鬼(ヴァンプ)キッズとゴス・キッズが交霊会を行うのだが、両方のトライブが精神的祖先としてみなすのがエドガー・アラン・ポーで、彼の霊を召喚するシーンが登場する。ポーとしては、エモや吸血鬼、ゴスについてほとんど何も考えたことはなかったのだが、とにかく協力することに同意するという場面が出てきて笑えるのだが、ポーが「暗黒界」では絶対的に偉大な存在だということは、よくわかった。残酷な内容で知られる異色の絵本作家エドワード・ゴーリーも『金箔のコウモリ』(柴田 元幸 ・翻訳)の文中にポーの名を出しているし、日本の推理・怪奇・恐怖小説家の江戸川乱歩の名前も、エドガー・アラン・ポーのもじりですしね!


バレエ好きのゴーリーが、ダークさにも磨きをかけて(?)クリエイトした絵本『金箔のコウモリ』(河出書房新社)。

最後に、いつものごとく『ウェンズデー』でかかる曲の全リストも、わかった範囲で掲載しておくので、音楽好きはこちらもチェック! ロックはもちろん、ウェンズデーが弾くチェロの音色なども素敵です。

<Wednesday soundtrack>

■第1話 水曜生まれの悲哀 

「水に流して」Non, Je Ne Regrette Rien – Edith Piaf
「イン・マイ・ドリームス」In My Dreams – Roy Orbison
「キャント・ストップ」Can’t Stop – Rhythmking
「ラ・ジョローナ」La Llorona – Chavela Vargas
「黒くぬれ!」Paint It Black – Wednesday's cello cover, originally by The Rolling Stones 

■第2話 一人ぼっちの哀愁
「ドント・ウォリー・ビー・ハッピー」Don’t Worry Be Happy – Nevermore a cappella group, originally by Bobby McFerrin

■第3話 友情の苦悩
「スペース・ソング」Space Song – Beach House
「ドント・ストップ」Don’t Stop – Fleetwood Mac
ヴィヴァルディ「四季」より『冬』Winter – Antonio Vivaldi 
「ナッシング・エルス・マターズ」Nothing Else Matters – Metallica (instrumental)

■第4話 すばらしき夜の憂鬱
「ティアラ・リカ」Tierra Rica – Carmita Jimenez
「イッツ・ア・シェイム」It’s A Shame (feat. Pink Feathers) – RAC 
「ザ・ビギニング」The Beginning – Magdalena Bay 
「サムワン・ライク・ユー」Someone Like You – Bravo and Immortal Girlfriend
「シークレッツ」Secrets – Birthday Girls
「グー・グー・マック」Goo Goo Muck – The Cramps
「レヴェルズ」Levels – henry parsley and Amy Caddies McKnight
「フィジカル」Physical – Dua Lipa
「ラ・マンマ・モルタ」La Mamma Morta – Umberto Giordano

■第5話 悲運の因果
楽曲ナシ

■第6話 悪意の代償
「シュリ・シュラ」Sciuri Sciura – Blonde Redhead
「チェロ協奏曲」(エルガー)Cello Concerto in E minor - Elgar

■第7話 苦汁の決断
「イフ・アイ・ビー・ロング」If I Be Wrong – Wolf Larsen 
「パーフェクト・デイ」Perfect Day – Hoku 

■第8話 闇の中の殺意
「イン・ユア・ドリームス」In Your Dreams - Huw Williams
「熊蜂の飛行」Flight of the Bumblebee - Nikolai Rimsky-Korsakov

『ウェンズデー』
原題:Wednesday
Netflix(ネットフリックス)で独占配信中
2022年 / アメリカ
公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/81231974



堀口麻由美
ほりぐち・まゆみ。Jill of all Trades 〈Producer / Editor / Writer / PR / Translator etc. 〉
『IN THE CITY』編集長。雑誌『米国音楽』共同創刊&発行人。The Drops初代Vo.







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