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体液_23:15

両腕も、太腿も、お腹も、胸元も、手首すらも。
切れる所は全て切る。

切って、切って、切り続けて、自分で零した涙と流れ出る血液が混じり合い、どろっとした赤い水滴が白い机の上に広がる。
裂かれた皮膚に水滴が落ちると微かにビリッと痛感が走る。
そしてどくどくと脈を打つのを感じる。

ああ、今日も生きてるんだ。

そう実感できる。
ひりつく肌にガーゼを押し当て赤く染まっていくのを眺める。
次第に真っ白だったモノは真っ赤なモノへと変化してしまった。
いつかの実験で使ったアルカリ性と酸性を確かめる為のリトマス試験紙のように染まっていく。
数枚のガーゼを押し当てつつ、指先に意識を少しズラす。
そうすると全身が冷えたような感覚に襲われる。
そんな感覚を少し好んでいた。
寒くて、冷たくて、今すぐにでも死んでしまいたい。
そんな心情を表してくれるような気がしたから。
その感覚に飽きるとガーゼを全て外し未だ流れ出る血液と凝血塊のような体液、ぽたぽたと滴り混じる透明な生暖かい雫を見て笑う。
視線を落とすと近くにあったワークに少し血が飛んでしまっていた。
我に返る頃には後悔と失望感、寂寥感が 染み渡っている。
血に濡れたガーゼのように。

ほんと、なにしてんだろうな、ぼく。

そう思いつつもまた刻む。
傷を上書きするかのように。
刻み続ける。
ちょっとした物音に過剰反応し投げ捨てるように汚れた刃物を置く。
何に恐怖を抱いたのかはいまいちわからないけれど
救急箱から貼れるガーゼを取り出しつけてしまった傷を全体的に覆い被さるようにして処置をする。
張り合うように出続ける血液は貼ったガーゼすらも深蘇芳色に穢す。
いつもならば1度までなら取り替えるけれど今日はそんな気分には到底なれなかった。
呼吸を整え服を着直し、荒れ果てた机の上や刃物、無数のティッシュやガーゼを片す。
このまま眠れてしまえれば楽なのだけれど、やり切らずに置いてしまっていた課題達をやってしまおうと思い、優等生振るように拭き取れず微かに赤みを遺す机に向き合い、ワークの上にペンを走らせた。
その脇に置いたメモ帳には
いつもの如く愚痴を書き綴って。

消え去りたい、と書き残して。

あはっと笑いばかで疎かでどうしようもないぼくを宥めるように普段ならばスパニッシュローズに近しい色をしている筈の赤く見える膝掛けを、頭から被った。

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