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化学薬品_05/22

3限目第1理科室。
実験中に化学薬品の匂いにあてられた。
何故かはわからなかったのだけれど、突然何が何だかわからなくなっていて、クスリを飲んだかのようにくらくらと、ふらふらとし、それが可笑しくて笑っていた。
様子がおかしいとでも思ったのか、友人がわたしの手を引いて廊下に出た。
酸素を送る為に窓を全開にして。
意識が少し朦朧としていたわたしは
不意にも壁に張り付くように、縋るようにして空気を吸った。
下を見た途端、外に身を乗り出した。

このまま、落ちてしまえれば。

そう思った。
目の前でひらつく蝶々を捕まえるように手を伸ばし天を仰ぐ。
咄嗟に友人がわたしの片手を強く掴んだ。
そして何かを言っていた。
怒るように、叱るようにして。

ODをした時の幸福感に近しい何かを感じていた。
あはっと笑っていると友人に 「 壊れた 」 と言われてしまった。
いまのわたしが、いつものわたしでないことは解っていた。
きっと吸い込んでしまった薬品の成分に、身体が反応してしまったのだろう。
ラリるように笑い狂った。
次第に笑っているのに涙が零れ始めた。
ほんの少しだったけれど。

薬を多く飲んだ時にあるあの吐き気と幸福感。
こんな簡単に摂取できてしまうのかと笑うぼく。
3限目が終わるまで友人と廊下に居た。
わたしを見張るかのように見詰めてくる友人に向け、とんでもないことを言ってしまったのは記憶に染み付いている。


“  ここから真っ直ぐ落ちたってどうせ死ねないし
                                                         意味なんて無いよ?  
    君もそれくらいわかるでしょ?w
             目に見える所にまでリスカする君にならさ  ”


とんだ無礼だ
気付いていても相手には相手なりの辛いことがあって自傷をしてしまったのだろう。
わかっていたのに。
侮辱するかのように笑い、そう言った。
一瞬曇り歪んだ表情を見せたが全てをわかりきったように頷きわたしの手首を掴んだ手の力を緩めた。
(この後ちゃんと謝った)

吐き気に負け4限目の英語を途中で抜け、お昼タイム約55分間を学年室で過ごし、その中でも時折無意味に笑った。

放課後、何も無く終わることはなかった。
理科担当である担任の先生に限らず、サポートルームの先生、いわゆるカウンセラーさんがぼくを訪ねに来た。
お話する頃にはODをしたような感覚は抜けていて、ちゃんと会話を交わせる程度には回復していた。
部活と放送終了後呼び出され、帰宅時刻が少し遅れる程度に話し合った。
不毛な会話だったが、心配してくれているんだ。と思えば嫌気は少し引いた。
帰宅する頃には最終下校時刻を1時間オーバーしていて、両親に道草を食っていたと思われ怒られるのではないかと恐怖を抱きながらも帰宅した。
…そんな恐怖心はドブに捨てることになったのだが。
片付けを済まし、椅子に腰掛け、考える。

あの薬品は何だったのだろう。
何がきっかけでラリってしまったのだろう。
どうしてあんなに乱れてしまったのだろう。

繕ったわたしが無駄だったように感じ、引き出しを開ける。
中には30tの薬が入っていた小さな空瓶が4瓶と100tの薬が入っていた大きめの空瓶が6瓶、150tの薬が入っていた置き場に困るサイズの空瓶が2瓶。
そして40t残った大きめの瓶が1瓶。
今年はまだ瓶達を整理・処分していない。
5月22日の時点で1080t飲み込み続けている。
その度吐き気を来し、
えずいたりラリったりしている。
その感覚をほんの数十秒で身体が反応し狂わせた。
気持ち悪くて仕方が無い。
正気なのかと疑いたくなる。
けれど今回の失態を犯した要因は勿論全て過去のぼくにある。
つまりいつもと同じく自業自得だ。
あの薬品に近付くことはこの先ゼロに等しい。
だからといって安心出来る訳では無いと実感した。

( …よくわからないまま、おわっちゃったな。 )

ただそう思った。
気持ちの悪さは未だ引き摺っているがその感覚すらもODした時に匹敵する。
恐いくらいに同じなのだ。
愚痴を交えて綴る言葉。
いつもの倍の文。長文。
全部を書き留められた訳では無いけれど、少し楽になった気がした。


…そういえば来週、宿泊学習だっけか。
こういう時の為の、薬、だよね。
憂鬱を幸福に変換する為の。

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