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パレスチナのクリスチャンから欧米教会の指導者と神学者への公開書簡

悔い改めへの呼びかけ

 2023年10月20日


「善を行うことを学び、正義を求めよ。虐げられている者を弁護せよ。」         (イザヤ書1:17)

≪イスラエルに無批判な教会指導者たちに異議を唱え、悔い改め、変革を求める≫

 
以下に署名した私たちパレスチナ人クリスチャン諸教会と草の根運動の従事者たちは、私たちの土地で新たな暴力の連鎖が起こっていることを深く悲しみ、大変心を痛めています。この公開書簡を発表しようとしていた矢先、2023年10月19日の無辜の市民に対する残虐なイスラエルの爆撃が起きました。私たちのなかにはこの爆撃で大切な友と家族を失ったものもいます。
 
 イスラエルの爆撃から避難していたガザの歴史的遺産である聖ポルピュリウス・ギリシャ正教会のクリスチャンも亡くなりました。私たちは、この地で現在進行している戦争に対し言葉で言い表せないほどの衝撃と恐怖を抱いています。全ての人が神の似姿として作られていることを固く確信しているが故に、すべての人々の死と苦しみを深く悼みます。

 神の名が暴力や宗教的ナショナリズムというイデオロギーを促進するために使われていることにも心から苦しみを覚えます。

 さらに、多くの欧米のクリスチャンが、パレスチナの人々に敵対するイスラエルの戦争を断固として支援している姿に恐怖を感じます。確かに、パレスチナ人の真実と正義を求めて多くの声が上がってきましたし、今も上がっています。一方で、イスラエルを無批判に支援している欧米の神学者や教会があり、私たちはこれらの教会の指導者たちに異議を唱え、悔い改め、変革を求めるために手紙を書いています。

 悲しいことに、一部の教会指導者の行動と彼らが依拠するダブルスタンダード(二重基準)は、〔イエス・キリストの〕証人としてのクリスチャンの立場を由々しく傷つけ、パレスチナの状況についての道徳的判断の土台を著しく損なっています

ガザの聖ポルピュリウス正教会へのイスラエルの攻撃で殺害されたパレスチナ人の葬儀
Ali Jadallah-Anadolu Agency

≪多くの欧米キリスト教指導者たちが無視し続けているおぞましい抑圧≫

 私たちは、民間人、特に身を守る術のない家族や子供たちに向けたすべての攻撃を非難するクリスチャン同志たちの側に立ちます。それでもなお、殺された民間人がパレスチナ人であった場合、多くの教会指導者たちや神学者たちが沈黙することに当惑しています。また欧米のクリスチャンの中に、現在進んでいるイスラエルのパレスチナ占領への非難を拒否する人がいることや、中には占領を正当化したり支持する人たちもいることにも恐怖しています。さらに、一部のクリスチャンがガザで進むイスラエルによる無差別攻撃をいかに正当化してきたかを考えると、戦慄を覚えます。

 今回の攻撃では、これまでに3700人のパレスチナ人の命を奪ってきました。そのほとんどが女性や子供たちです。これらの攻撃は、
居住区全体の大規模な破壊と、100万人以上のパレスチナ人の強制移住をもたらしてきました。

 イスラエル軍は白燐弾の使用、水・燃料・電気供給の停止、学校・病院・礼拝所への爆撃などの民間人を標的とした戦術を使ってきました。その一つが、パレスチナ人キリスト教徒の家族全てを一掃した聖ポルピュリウス正教会の恐るべき虐殺でした。

 さらに、私たちは、この戦争がなぜ起こっているかについての文脈や根源的原因を無視している近視眼的で歪んだクリスチャンの姿勢を無条件に拒否します。その文脈とは、ナクバに始まり、この75年以上に渡るイスラエルのパレスチナ人への体系的な抑圧であり、現在も続いているパレスチナ人の民族浄化であり、アパルトヘイト犯罪を生み出す人種主義的なイスラエル軍の占領です。これこそ、多くの欧米のキリスト教神学者や指導者たちが頑なに無視し続けているおぞましい抑圧の文脈であり、さらに悪いことに、シオニストの神学と解釈を幅広く利用して、機会あるごとに、抑圧を正当化してきているということです。

 さらに、ここ17年にわたるイスラエルの残酷なガザ封鎖は、200万人以上のパレスチナ人——その70%が、ナクバの時に住んだ家、村から追放された人々の家族です――には、基本的人権が与えられていません。その200万人を超える人々を「天井のない監獄」と呼ばれるほんの365平方キロメートルの中に押し込めているのです。

 イスラエルの鉄拳政策による支配下に置かれたガザの生活環境は残酷で希望のないものになっています。残念なことに、抑圧と絶望ゆえに武力と暴力に訴えるパレスチナの一部グループの過激な主張を助長するものになっています。

 私たちはパレスチナ人の非暴力の抵抗に全身全霊でとどまり続けています。悲しいことに、私たちの非暴力的抵抗は一部の欧米の教会指導者に拒絶されています。彼らは、〔国際人権NGOの〕ヒューマンライツ・ウォッチや、アムネスティーインターナショナル、〔イスラエルの人権NGO〕ベツェレムによって報告されているイスラエルのアパルトヘイト政策の議論を封じ込めているのです。イスラエルのアパルトヘイト政策は、パレスチナ人や南アフリカ人によってずっと主張されてきたものです。

聖ポルピュリウス正教会への攻撃の犠牲者の葬儀に参列する人々
Ali Jadallah-Anadolu Agency

≪聖書を武器としてきた根深い植民地主義神学に苦しめられている≫

 私たちはパレスチナ・イスラエルに対する欧米の態度は、イスラエルのユダヤ人についてはその人間性を強調する一方、パレスチナ人を非人間的存在だと主張してパレスチナ人の苦難を隠蔽する偽善をおかす紛れもないダブルスタンダードに冒されている状況に何度も直面してきました。

 このダブルスタンダードは、何千人ものパレスチナ人を殺害している現在のイスラエルのガザへの攻撃や、2022年のパレスチナ系アメリカ人のクリスチャン・ジャーナリストのシリーン・アブー・アークレ氏の殺害に対する無関心、今年に入ってからガザ攻撃までに、西岸で子供38人を含む300人を超えるパレスチナ人が殺害されたことへの反応全般にも明らかに表れています。

 このダブルスタンダードには、アメリカ大陸、オセアニアなどの地域での先住民族の民族浄化、アフリカ人の奴隷化、大西洋を横断する奴隷貿易、そして何十年も続いてきた南アフリカでのアパルトヘイトを正当化するために、聖書を武器としてきた根深い植民地主義的言説が反映されているように思えます。

 植民地主義神学は過去のものではありません。植民地主義神学は、パレスチナの民族浄化と体系的な入植型植民地主義に基づくアパルトヘイト下で生きる(クリスチャンも含めた)パレスチナ人を攻撃し、非人間的な存在とすることを正当化する広範なシオニスト神学と解釈のなかで生き続けています。

 さらに、道徳的優位性と「自己防衛」の名のもとにパレスチナ人を抑圧するイスラエルを頑として無批判に支援する「正戦論」があり、私たちはそれが欧米のキリスト教の遺産であることを知っています。同様に、第二次世界大戦中の日本の無辜の市民への原爆投下、〔1991年の湾岸戦争における〕イラクの破壊、最近〔2003年以降〕のイラクに対するアメリカの戦争でクリスチャン住民が大量に殺害されたことさえも正戦論で正当化されてきました。

 残念なことに、多くの欧米のクリスチャンは、宗派・神学にかかわらず広範にシオニスト神学と解釈を取り入れており、それによって彼らはイスラエルの暴力と抑圧に加担しています。また一部のクリスチャンは、反パレスチナ人のヘイト・スピーチの高まりにも加担しており、そのことは、今日あまたの欧米の国々やメディア報道にはっきりと表れています。

≪創造的な非暴力の抵抗/イエスの道に身を捧げる≫

 欧米の多くのクリスチャンは、戦争を神学的に正当化することを全く問題視していません。しかし、パレスチナ人クリスチャンの圧倒的多数は暴力を許容しません——たとえそれが力を奪われた者や被占領者による暴力であったとしても。その代わりに、パレスチナ人クリスチャンは、創造的な非暴力の抵抗を行う上で、イエスの道に完全に身を捧げています(カイロス・パレスチナ文書4.2.3)。それは、「愛の論理と、平和を創り出す全てのエネルギーを活かす」ものです(カイロス・パレスチナ文書4.2.5)。

 私たちは、強者の戦争を正当化する全ての神学と解釈を断固として拒否します。欧米のクリスチャンには、この点について私たちの側に立つよう強く呼びかけます。また、神は虐げられた者や抑圧された者の神であること、そしてイエスは強者を強く非難し、周辺に追いやられたものを引き上げるということを思い起こし、クリスチャンの同志たちにも想起するよう呼びかけます。

 このことが正義という神の概念の核心にあります。それゆえに、私たちは一部の欧米のクリスチャンの指導者、神学者たちが、最初にモーゼ(申命記10:18、16:18–20、32:4)と他の預言者たち(イザヤ書1:17、61:8、ミカ書2:1–3、6:8、アモス書5:10–24)によって述べられ、そしてそのことがイエス・キリスト(マタイ25:34–46、ルカ1:51–53、4:16–21)において模範として示され、体現された正義と慈しみという聖書的伝統の道から外れていることに深く心を痛めています。

≪神のみ恵みのみが、憎しみと死という悪を克服する≫

 最後に、砕かれた心をもって私たちは言います、これまで75年に渡って欧米のクリスチャン指導者と神学者たちが、パレスチナ人に対するイスラエルの犯罪に神学的・政治的に共謀してきたことについて、イスラエルの戦争を支持する彼らの責任を問います。

 彼らに対し、神は「この世を正しく裁く」(使徒言行録17:31)お方であることを思い起こし、もう一度自分の立ち位置を見直し、方向を転換することを求めます。また、私たち自身が想起し、全てのパレスチナ人に思い起こしてほしいことは、「土地に留まること(スムード)」という抵抗手段は、私たちの正当な大義とパレスチナに歴史的に根付いているということです。

 私たちはまた、パレスチナ人クリスチャンとして、イザヤ書57章15節に示された神は「打ち砕かれてへりくだる霊の人と共にある」ということに慰めと勇気を見出します。私たちは、十字架に磔になったキリストから受け取る〔虐げられた者との〕連帯と、空っぽになった墓に希望を見出します。また、世界中の多くの教会と草の根の信仰の運動の献身的な連帯と支援からも力と勇気を得ています。

 たとえ兄弟姉妹が私たちを見捨てるときも屈することはありません。圧制と闇の力に直面しても、希望の中に留まり続け、屈することなく証言し、信仰、希望、愛という福音に身を投じ続けます。「全く希望が持てない中で、希望を持つことに対するわれわれの切なる求めを喚起します。われわれは、神と善意と正義とを信じています。

 われわれは神のみ恵みが、今はまだわれらの地に強固に残る憎しみと死という悪を、最終的には克服なさると信じています。ここに「新しい地」と、それぞれを自分の兄弟姉妹として愛する精神によって復活することができる、「新しい人間」がやがて現れるでしょう。」(カイロス・パレスチナ文書10)

御国が来たらんことを!

 

渡部敬子(翻訳)・金城美幸(監訳)

 

<署名団体・機関>

Kairos Palestine

Bethlehem Bible College

Sabeel Ecumenical Center

for Liberation Theology

Dar al-Kalima University

Al-Liqa Center for Religious,Heritage and Cultural Studies in theHoly Land

The East Jerusalem YMCA

The YWCA of Palestine

Arab Orthodox Society, Jerusalem

Arab Orthodox Club, Jerusalem

The Department of Service to

Palestinian Refugees of the Middle East Council of Churches

Arab Education Institute Pax Christi, Bethlehem

 

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