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朝日新聞のパレスチナ報道に対する飯山陽氏の執拗な攻撃は功を奏してしまうのか?

「イスラム思想研究者」を名乗りつつ、イスラム嫌悪言説を撒き散らし続ける飯山陽氏が、5月9日付けの「エルサレムのモスクで衝突 パレスチナ人200人超けが」と題された朝日新聞の清宮涼記者の記事について、次のように述べている。

飯山陽「エルサレム暴動についての朝日の偏向報道」

もう、見出しからいきなり偏向しています。

見出しからは「けがをしたのはパレスチナ人だけである」と読み取れ、記事本文にもパレスチナ人が負傷した話しか書かれていませんが、これは真実の一面でしかありません。このような報道を一般に「偏向報道」と呼びます。

この衝突では、パレスチナ人暴徒に攻撃された

続きは、お金を払えば読めるらしいが、そんな無駄遣いをするつもりはないので、まず、この箇所だけでとりあえず、コメントしておくべきことを述べておきたい。この朝日の記事が扱っている7日のエルサレム旧市街、ハラム・シャリーフ(アル・アクサー・モスクがある区画)で起きた出来事は、イスラエルの治安部隊による、非武装のパレスチナ人ムスリムに対する一方的な弾圧である。パレスチナ人側は投石等で抵抗しているが、立場の非対称性を考えれば、「衝突」という朝日の記事のタイトルがそもそも偏向しているというべきである。

同様の問題は、朝日の記事の後半にある「イスラエルとパレスチナが領有権を争う東エルサレム」という表現に、より如実に見られる。言うまでもなく、イスラエルは東エルサレムにおける領有権を国際法上、有さない。これは、武力による土地獲得を許さないという第二次世界大戦後の国際法秩序の大原則に基づくものであって、イスラエルと米国を除く国際社会全体の合意事項である。

朝日新聞は、ゴラン高原の入植地ビジネスを推奨する高野遼記者の記事に対するBDS Japan Bulletinの批判に対して、4月30日に「追記」というかたちで、(イスラエルによるゴラン高原の)「占領状態を容認としていると受け止められかねない表現がありました。今後、記事づくりにさらに細心の注意を払っていきます」と答えている。つまり、朝日新聞は、第三次中東戦争でイスラエルが占領した土地は占領地であり、その状態を容認しないと明言している。そのわずか10日後の記事に「イスラエルとパレスチナが領有権を争う東エルサレム」と書いているというのは、一体どういうことなのだろうか?

唯一考えられることは、朝日新聞は、パレスチナ報道に関して、国際法に則った公正な報道をすべきとの原則をまったく確立していない、ということである。

実は、飯山氏は高野遼記者に対して今年に入って3度にわたり、noteで彼のツイッター投稿や記事をやり玉に挙げ、自身のツイッター上でも執拗に攻撃している。もし、高野記者が、最低限、国際法の観点からイスラエルの占領状態は容認しないという認識をもっていたとすれば、飯山氏の批判に何の根拠もなく、気にする必要が全くないことはすぐに分かるはずのことである(有料で読める部分でウルトラCの理論構築でもしていれば別だが、まあそれはあり得ない)。しかし、そうした原則が朝日新聞の中で確立していないのであれば、飯山氏のtwitterのフォロワー数約10万(全員が支持者ではないはずだが)という数字の圧力はそれなりに気にせざるを得なくなり、名指しされた個別の記者は、表現に際して批判を避けるため、意識的・無意識的に自主規制をするようになったとしても不思議ではない。

そのように考えると、高野記者の「ゴラン高原入植地ビジネス推奨記事」は、飯山氏から再三「パレスチナ寄り」と批判を受けたことで、「バランス」を取ろうとした結果だったのかもしれない。そうでなければ、もともと飯山氏と近い認識の持ち主であったということになろう。いずれにせよ、パレスチナ問題に関して、誰からも文句を言われない記事を書くということは不可能である。飯山氏の批判を気にし、同じように私達BJBの批判を気にするならば、メディアとして社会に何かを伝えることは不可能になるだろう。

確認しておくが、これはイスラエル側に付くのか、パレスチナ側に付くのか、という問題ではない。大局的にどのような支配構造の下に人々が組み込まれているのかを見破り、それを批判するのか、あるいは、その支配構造を既成事実として受容し、自らその一部となることを認めてしまうのかという問題である。朝日新聞は、いかなる立場に立ってパレスチナ問題を報道するのかが問われている。

もちろん、これは朝日新聞だけが問われていることでは全くない。5月7日の晩の出来事に関する各社の記事をざっと拾ってみると、残念ながら、基本的にすべてのマスコミが同じ調子、「衝突」のオンパレードである。

朝日 「エルサレムのモスクで衝突 パレスチナ人200人超けが」
NHK
 「エルサレムで衝突続く けが人200人超か 激化の懸念も」
毎日 「パレスチナ人が多数負傷 ラマダンのエルサレムで治安部隊と衝突」
読売 「エルサレムの聖地「神殿の丘」でパレスチナ人と治安部隊衝突、200人以上負傷」
共同 「エルサレム聖地で衝突 160人負傷、緊張高まる」

驚くことに、この中で、今回の弾圧の背景としてシェイク・ジャッラ地区住民に対する強制追放の問題があることを指摘している記事は、朝日新聞と読売新聞だけなのである。飯山氏が朝日に目を付けたのは、そもそもリベラル・左派を攻撃したいという前提があるゆえであろう。

飯山氏のフォロワーの大半を占めると思われる日本の右翼・保守層は伝統的にアジア主義の傾向を多かれ少なかれ有してきたので、本来、パレスチナ問題に関して一方的にイスラエル寄りとは必ずしも言えないはずなのだが、飯山氏は日本のナショナリストに対し、イスラモフォビアとシオニズムを伝道する役割を買って出ているように見受けられる。いずれにせよ、朝日新聞は飯山氏の批判のからくりを見破れる程度の軸足をしっかりと持ち、むしろ批判されなくなったらもはや存在意義が失われるというくらいの意気込みで、ジャーナリズム精神を取り戻してほしいものである。(や)

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