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ほろにがくてあたらしい、私たち

「実は私......。一回も、イッたことがないんです」

そういっていっきにビールを飲み干すと
大きなため息がでた。

「下手をしたら痛いときもあるし。
だから。セックスをもうずっとしてないんです......」

思いかえしても
ちゃんとした彼氏がもうず〜っといない。

仕事ばかりが優先で
色気のある話がぜんぜん出てこない。

ー イッたこともない、彼氏もずっといない ー

それって普通のことなんだろうか?

懺悔のように吐きだすと
ビールのおかわりをもらう。

普段と変わらないエミさんは
おだやかに私の話を聞いていて。
そして今度は
彼女が口をひらいた。

「私もさ、セックスレスなのよ」

何年か前に聞いたその話は
たしか、奥さんのいる人との関係だったはずで。

「そう。腐れ縁ってやつ」

グラスをゆらしながらエミさんの話は続く。

「恋に落ちるっていうのはこういうことか、って。
とにかく、私たちは時間をみつけてはセックスしてた。

それこそ、あまり外を出歩けなかったから。
ホテルでそんなことばかりして。
でも、お互いに夢中で。

3年もたったころ
私に赤ちゃんができたの。
うれしかったけど複雑な気持ちだった。
家庭をこわしてまで一緒になる覚悟ができていなかったのね。
だけど彼が 、一緒に育てよう。結婚しようって。
まだ、奥さんと別れてもいないのにそう言ってきたのよ。

そしたらその夜。

ふたりの気持ちをためすかのように
赤ちゃんが流れてしまったの。
それ以来、その話はなかったことになってさ。
だからかな。ちょっと、ぎこちなくなって。
だけど、急に別れることもできなくて。

お互いに大切な存在ではあったから
今でもずるずると続いてるんだけど。
なんだか罪悪感だけでつながってるような。
それでかな。
どちらともなくセックスをさけるようになって。
今はもう会っても
ご飯食べたり、お酒飲んだりして終わっちゃう。

この年になったら子供も産めるかわかんないし。
新しいパートナーを探すのもなんかね、めんどうくさくて。
ウイスキーを好きになったのも、彼のおかげなんだけどね」

いたずらっぽくグラスを鳴らすと、
エミさんはいっきに飲み干した。

「私もウイスキー飲んでみよっかな」

言葉が見つからなかった私は
かわりにウイスキーを注文する。

「あ〜あ。セックスしてないな〜〜」

「あ〜あ。イッタことないな〜」

はじめて飲むウイスキーでエミさんと乾杯する。
その夜のお酒は、ほろにがくてあたらしい味がした。




私。荻野 月子、39歳。独身。 かれこれどのくらいセックスしていないんだろう? bda ORGANIC presents ”セクシュアル・ヘルス通信”では、セックスにまつわるさまざまなトピックスをお届けします。



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