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【読書感想文】 - 無限色の空

無限色という言葉は、とある楽曲の歌詞に使われていた印象的なフレーズで、知ったのは割と最近、というかここ数日の話です。
調べたところ、これといって意味が定義されていないようでした。
概念というか、言葉のつながりが持つニュアンスで無限色という言葉は使われているようなので、僕の中でも勝手に『無限色=黒「と」全ての色』と定義しました。違ったらすみません。

オオルリ流星群を読んで

「ここで始めたい、もう一度」。星がつないだ、心ふるえる大人の青春物語。

人生の折り返し地点を過ぎ、将来に漠然とした不安を抱える久志は、天文学者になった同級生・慧子の帰郷の知らせを聞く。手作りで天文台を建てるという彼女の計画に、高校3年の夏、ともに巨大タペストリーを作ったメンバーが集まった。ここにいるはずだったあと1人をのぞいて――。仲間が抱えていた切ない秘密を知ったとき、止まっていた青春が再び動き出す。
喪失の痛みとともに明日への一歩を踏み出す、あたたかな再生の物語。

『オオルリ流星群』あらすじ 角川文庫公式サイトから引用

何かしなきゃいけない、でもその何かが何なのか、わからないまま日常のスピードについていく事に必死で、いつの間にか何もできない自分を肯定できなくなってくる。認められなくなってくる。

以前の自分には間違いなく情熱も信念もあって、青春を過ごしていた。
でもある出来事がキッカケでその頃の気持ちに決着が付けられなくなり、思い出がただの色彩豊かな宝物では無くなってしまっているような感覚。


物語の語り部となる久志(ひさし)、千佳(ちか)と、主要登場人物の年齢はみんな45歳。僕と非常に近い世代の人たちです。
何らかの理由で人生に行き詰まり、人生の迷子になっている状態の彼らが抱えるのは不安、葛藤、焦り、無力感。

そして年齢からくる「今更」という諦めや、経験でいろんな事を「知ってしまっている」事で、夢や目標はおろか、自分自身にも期待が持てず、心を向けられなくなってしまった。
ミドルエイジ・クライシスと呼ばれる彼らのリアルが、そのまま錘となって胸にのしかかってくるような、そんな切実さがありました。

しかし物語中盤以降、登場人物の1人である彗子(スイ子)と共に、「自分達の天文台を作る」という一つの目標に没頭していくことで、登場人物たちの心にも変化が訪れます。特に久志と千佳はそれぞれの現状、過去、未来に改めて向き合い直す事になるのですが、このあたりの感情の機微に胸の奥から込み上げてくる熱さがあり、涙を堪えながら読んでいました。


僕自身、常に不安に怯え、とにかく「何かしないといけない」という強迫観念にも似た思いが、常に体にまとわりついています。
特にここ数年は、毎日のスピードについていくのがやっとで、日毎手からこぼれ落ちていく大切な思いに気づかないまま時間だけが過ぎていきました。心の奥にある錘はこぼれ落ちた気持ちを吸っているのか質量をどんどん増して、気がつくと錘のせいで身動きが取れなくなっている。

"やらなきゃならないことがあるのに、それがやれてない。
そう感じてしまう自分が辛いんだと思う。"

『オオルリ流星群』より

体が心に追いつかない時、錘はますます体の中で比重を増やしていきます。
身動きが取れなくなった頃には、自分1人の力でどうにかするのは多分無理です。

幸い家族や友人、主治医、通っている就労移行支援事業所の職員さんのご助力もあり、今はいくらか没頭できるものを見つけたりこぼれ落ちた気持ちを掬い上げたりと、いくらか状況は変わってきています。前を向く目線を持てて、少し錘も軽くなった気がします。

何か問題が解決したわけではないです。
自分の病気も治ってないし、投薬なしで生活していいような状況でもありません。少しだけ前向きになれた、それくらいのものです。
でも「それくらいのもん」がどれだけかけがえがなくて、大切なものか。

作中でも友人、家族、そして友人とまで言えないはずの間柄だったかつての同級生たちの力を得て、当時の情熱や自分の周りに溢れる温かい感情に気づいていきます。


"45歳になった今の自分たちは、「星食」の時を生きているようなものなのかも知れない。
それを頼りに生きていけばいいと思っていた星が、突然光を失い、どこにあるかもわからなくなってしまった。その星と自分たちとの間を、別の天体が横切っているのだ。
けれど、「星食」はいずれ終わる。その時は、見失った星をまた探してもいいし、別の星を見つけて生きていってもいい。

『オオルリ流星群』より引用

「星食(せいしょく)」とは、ある天体が他の天体を隠し見えなくしてしまう現象、だそうです。

状況はすぐには変わらないし、キッカケを貰えたとしてもそれは一つの道筋が見えただけで、問題が解決できるかどうかはまた別の話なんですよね。

この『オオルリ流星群』は、俯いて震える自分の足から視線を空に移せば、いつか星食の中見失っていた輝きをまた見つけられる。
彩られた星を写す無限色の夜空に、自分だけの星をもう一度見つけられたら。

前を見て、空を見上げて、夢とか希望とかいうには恥ずかしいけど、何か自分が進みたいと思える方向をもう一度探そうと思えるような、そんな力を与えてくれる、とても温かい作品だと思いました。

元々フォロワーさんが紹介されているのをきっかけで読み始めたのですが、おかげで大好きな作品がまた増えました💫


本日も最後までお読みくださりありがとうございました。

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