マガジンのカバー画像

小説 novels

21
掌編小説
運営しているクリエイター

2020年12月の記事一覧

掌編小説『ボリュームを落とす瞬間』  Short Story "The Moment of Dropping Volume"

 彼は雪国の生まれだった。雪国生まれだというわけでもないだろうが、派手なところはなかった。不要なことは喋らないし笑顔も少ない。嫌う人もいない代わりに人気を集めるタイプでもなかったと思う。都会で満員電車に揺られて出勤するような仕事には、最初から向いていなかったのかもしれない。たとえば山小屋の仕事が向いているかもしれない。山小屋にどんな仕事があるのか私には何もわからないけれど。
 そんなふうに彼を思い

もっとみる