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【映画鑑賞記録】今月のお勧めは「サムサッカー」(2023年7月:10本)

8月少し忙しくしていたのもありうっかり先月分を上げるのを忘れていました。ただここまで来たからにはI月10本の目標を達成してきました。サクッと紹介しておきます。

第1位:「サムサッカー」2005年

サムサッカーとは英語でthumb suckerと書き、親指をしゃぶる癖の事だ。マイクミルズの映画はいつも優しくて人間愛、人間理解に溢れていて好きだ。

実は姉が中学くらいまでサムサッカーだった。弟である自分はそれを見るのが嫌で姉がそれをし始めると手を叩いていた。今は勿論姉はそんな事をしないしあれが何だったのかは今となってはわからない。

自分の部下だった子が急に体調を崩し彼はHDSDと診断されて急に上司が彼はそういう子だから守ってやらないといけないと言い出した。その時私が思ってしまったのが病名がつく事で安心しそこに全ての理由が解決されたと思って良いのだろうかという疑問が常にある。

だが病名がつかないと救われないケースがある事も私は知っている。私は自覚症状ありで癌宣告された時ほっとしたものだ。何故なら不定愁訴というか原因がわからない時間は辛かったからだ。

解らないという辛さ
解ったと思った瞬間に抜け落ちるもの
そこにはメリット、ディメリットがあり損益分岐点が存在する。

ジャスティンにとって世の中はグレーだ、ゼロか100じゃないと悟るまでに時間を要している。やたら色気づいているように見える母も知的で憧れの存在であるレベッカもジャスティンにとってグレーなのだろう。だがそれで良いのだ。大切なのはグレーなままで生き抜くネガティヴケイパピリテイだ。

第2位:「After Sun」2022年

最初これは娘が亡き父に対する郷愁の映画なのかと思った。だがそうではない。

30過ぎのカラムと11才の娘ソフィがトルコの寂れたリゾート地で数日間過ごす日々を記録的に撮った映画である。と思ったがこの映画の視点はソフィである。その視点は30歳になり成長して父の書斎で見つけたビデオテープを通じかつての自分の記憶と重ね合わせて父や父と過ごした一夏の日々を探ろうとする。

この映画は他の映画と違い神視点ではなくどこまでも11歳と30歳になったソフィの視点を通じて描かれる。人は人の事を完全に理解する事は出来ない。その事実に対しこの映画は何処までも忠実である。だからこの映画を観た視聴者は謎を残したまま帰ることになる。この映画は説明し過ぎていない。何故カラムはソフィの母親と別れる事になったのか。仕事は何をしているのか。何故片腕を骨折しているのか。よく見せる太極拳みたいな動きは何なのか。カラオケを嫌ったり急に感情的になったりするのは何故か。そしてこの旅の後カラムはどうなったのか。

ソフィとは兄弟のように見えるカラムは30過ぎという事もあり時として稚拙に見える、変わっているように見える、その若さの割にはやたら疲れ過ぎているように見える。この映画は回想シーンも殆どない。事件という事件も起こらない。にも関わらずもっと観ていたくなる。不思議な映画だった。

第3位:「Search/#サーチ2」2023年

前作はアジア系のお父さんが娘を探すという話だったが今回は黒人系の娘がお母さんを探すという話。

反抗期で18で年頃のジェーンは子供扱い、電話魔の母親を煙たがっている。コロンビアへ旅行した母親が失踪した事を知ったジェーンのくしゅっとしょげた表情がまだ大人に成り切ってなくて可愛い。

前にもましてiPhone、Apple watch、ラップトップを使いネットサービスをフル活用してデジタルネイティブの娘は縦横無尽に情報を集める。特に面白いのはコロンビアの代行サービスのバビとの交流が良い。こういう国を跨いだ奇跡の交流を見るとオンラインも悪くないなって思うのだ。

ネタバレはえーこの人が犯人だったんだという感じ。サーチ1より筋書きが強引で荒い気がするけどそれでもこの母娘愛が溢れたこの映画は良い作品と思う。

第4位:「素晴らしききのこの世界」(2019年)

菌類学者のポール・スタメッツという変人を中心に話は進んでいく。マジックマッシュルームで得た凄まじい幻覚体験のあと彼は吃らないようになりお気に入りの女性の目を見て話せるようになったらしい。

※木は自分の種から出来た子供の木と土中で網目状にネットワーク化された菌類を通して会話をしているらしい。
※マジックマッシュルームが何故幻覚作用を見るのか。それはマッシュルームが人間に幻覚を見せる為じゃないかというアンドリーワイル博士の言葉。
※地球の生物はある時期に絶滅に至った。そんな中で生き残ったのは菌類。だから人間の祖先は菌類であり共感覚がある。
※キノコによって菌類の目に見えないネットワークの一部が可視化される。
※カワラタケは免疫を向上させる。スタメッツの母親はカラワタケで癌を寛解させた。(早速iherbで注文したぜ)
※エブリコは長寿に効く。
※感染症に効く菌類は原生林。
※地球=菌類という考え方。死は菌類のネットワークに帰っていくだけという死生観。
※第二次世界大戦の勝者は菌類が関連。
※うつや癌の緩和ケアにキノコが絡んでいる。

第5位:「アフターヤン」(2021年)

ただAIロボットが動かなくなったというお話だけなのにここまで静かにそして心を揺さぶられるのは何故なのか。

監督は小津安二郎の脚本を手がけた野田高悟さんに因んでコゴナダと名乗っているらしい。そして音楽は坂本龍一。否が応でも映画は東洋的なテイストとなる。

AIと人を区別するものは何なのだろう。人間というものが記憶というものの集積であり機械学習するものだと単純に捉えたら特にAIと人間を区分するものはない。妻カイラとヤンのトークは象徴的だ。老子の言葉を引用し「毛虫に取っては終わりだが蝶にとっては始まりだ」「無が無ければ有は存在しない」など陰陽論を彷彿とさせる会話が続く。

アメリカンなジェイク、アフリカ系の妻カイラ、その養子ミカ、アンドロイドのヤン。この多国籍家族は未来的である。その多国籍家族の主であるジェイクですらエイダに「人間になりたいと思った事はないのか?」と言ってしまう。

この映画は不思議だ。大した筋書きでもないのにとても見逃しがちな大切な事が隠れているように思える極めて東洋的な映画だ。ラストの「グライド」がこのひたすらに叙情的な映画にぴったりだ。

第6位「ケイコ、目を澄ませて」(2022年)

茂木健一郎さんが絶賛していたので見てみた。確かに凄い映画だ。「after sun」的な凄さがある。ケイコは聴覚が不自由で弟と同居しているキャリア数戦のプロボクサー。

ケイコは聴覚が聴こえない上に無愛想。ロードワーク、シャドウ、試合、ベットメイクの仕事、音楽をやっている弟の会話。ジムの会長との交流、周りとの些細な軋轢。それが90分余り繰り返されるだけだ。事件は会長が倒れたり試合に負けたりジムが併殺されるという事だけだ。

何も起こらない。
そしてケイコの気持ちの全てが見える訳ではない。

だがずっと目が離せない。それは岸井ゆきのという目力と演技の優れた女優が主役だからというのもある。インスタを観に行って好きな映画をメッチャ語っているのをみてかなりこの女優さんを好きになった。ケイコはただボクシングの世界に触れ感じていたかったのだろう。会長のお見舞いで病室で寝ている会長の横で丁寧にミットを描いているシーンは象徴的だ。

それと街の息遣い、音が流れるエンドロールは圧巻だ。このエンドロールは心を鷲掴みにされる。

第7位「ヒットマン・インポッシブル」(2016年)

凄い良かった。ありそうでなかったしこの映画だけでハンガリーが少し好きになった。

車椅子の殺し屋というありそうでなかったストーリー。3人の車椅子の男達が主役だが陰キャだがハードボイルドな筋書きだからそこまでジメジメしない。殺しの腕は凄腕なのに車椅子だから坂道でくたびれたり、車椅子を車に入れるのに時間かかっているの好き。

第8位:トイレット(2010年)

この世に存在しない不思議な空間を描き出すのが荻上監督の真骨頂である。

英語がわからない筈のばぁちゃんが時折繰り出す奇行?が好きだ。真剣に心から頼めばそれに見合ったお金を貸してくれるという謎の能力の持主。モーリーがピアノコンテストでパニック障害が再発した時に親指を立てた「クール!」でパニック障害が治った事。日本には「あ、うん」の呼吸というものがある。このグローバル化時代には弊害だと思えるがそれでも日本人のコミュニケーション文化として後世に残していきたいものである。

モーリーも繊細で素敵だしリサも同じ。レイははじめ彼らを見下しているが彼らの優しさに触れ少しずつ変わり始めていく。

荻上監督の作品は登場人物のセリフがシンプルで間がある。その間が品を作らせている。語ってない所に味わいを持たせる日本文化を間接的に表現できる監督だと思う。

第9位「ゼイ・クローン・タイローン」(2023年)

いい意味でも音楽、ファッション、トークが黒かった。ポン引きと売人と売春婦が街を救うお話。自分の住む街に地下組織があり監視し実験し操っているというお話。荒唐無稽だしさらにコメディなのか風刺なのかSFなのかわからない。見方によってはタイムリープ物に見えなくもない。

詰め込み好きでそのコラージュに胸焼けがしそうな気はしたが悪くない映画と思う。

第10位:「Jolt」(2021年)

Mr.Nobodyの女性版みたいな感じ。

筋書きは読めるしケイトが最終的に悪役をやっつけてしまうのも読めるけど悪い映画ではないぜよ。ケイトがキレまくってしまう病気という設定、悪役の気持ち悪さとかそんなディテールは悪くない。最後にスーザン・サランドンまで出てくるし。

ケイトベッキンゼイルのアラフィフ美魔女ぶりも見どころ。

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