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ペルソナは、現実と想像の中庸で

ペルソナが重要で役に立つのはよく分かっているけど、役に立つペルソナは簡単に作れないし、活用方法がよく分からない。ペルソナにまつわるその辺りの疑問について、筆者なりの作り方のコツ、考え方のポイントも整理しながら、解決してみましょう。なお、独断と偏見に基づく部分も多分にあるので、「そういう考え方もある」程度に受け取っていただけますと幸いです。

ペルソナの有効性は分かるけど、どう作ればいいか分からない。
キャラクター造形、キャラクターデザインの専門家でもなければ、ビビッドに架空の人物像を作り上げるのは簡単じゃないでしょう。
今回は、簡単に作れないペルソナについて、筆者なりのコツやポイントについてご紹介いたします。


ペルソナと役割について

具体的な説明へ入る前に、ペルソナとその役割、活用方法について整理しておきましょう。
本記事で対象とする「ペルソナ」とは、心理学やマーケティング、ビジネスの世界における「ペルソナ」のことで、ユングの提唱した心理学用語で仮面を意味する「Persona」から生まれた言葉です。特に対外的な振る舞い方、他者へ向ける性格や顔を指すことが多いようです。

そこから、マーケティング、ビジネスの世界でも特定の人物像や架空の人格を切り取り、一種の仮面、ロールプレイの役回りのような意味を持たせるようになったのでは、と筆者は考えていますが、正確なことはご自身で調べていただければと思います。

使われ方としてはターゲット、ターゲティングと類似していますが、ターゲティングの方がやや大味、焦点の絞り方が甘く、ペルソナの方がよりピンポイントかつ詳細な場合が多いです。
相手を一人の人間として見立て、フィクションにおけるキャラクター造形、キャラクターデザインのようにそれまでの来歴を考えたり、どんな生活を営む人なのか、どんな趣味嗜好でどんな優先順位、感覚で物事を判断するかといったところまで、作り込んだりもします。

そうすることで、カスタマージャーニーがより鮮明に描くことができ、机上の空論になりがちなマーケティングが、地に足のついた現実味を帯びた計画へブラッシュアップさせやすくもなります。

宣伝広告の場面では、「誰に・何を・どのように」の「誰に」に該当する部分、伝える対象となる「具体的な誰か」の基準、というイメージでしょうか。相手によって異なるストライクゾーン、どのタイミングの打席で情報を発信するのか、得意不得意をしっかり見極めて縦横4分割のストライクゾーンを想定して伝えるのか、縦横真ん中の9分割の精度で伝えるのかで、反応のしやすさが異なるというのは良く分かるのでは?

いずれにせよ、「ペルソナの作り方」をお伝えしていきますが、株式会社アトラスが制作している『女神転生』シリーズの派生人気作、ペルソナシリーズのことではない、ということだけお伝えしておきます。
「任天堂の倒し方」みたいな話を展開する予定はないので、そこだけは要注意で。

ちなみに、日本の場合(もしくは筆者のパーソナライズが効いているだけかもしれませんが)「ペルソナ」だけでググると、上記のゲーム関係が上位を占めるので、ここで主題とするペルソナについて知りたい方は、「ペルソナとは」までをキーワードにした方が良さそうです。

ステップ1.実在する人から原型を作る

ペルソナの作り方を知りたくてググっても、良質なヒントには中々出会えない気がするので、筆者なりの「こうしてみては?」を伝えていくのですが、最初のステップは原型作り、ラフスケッチです。実在する誰かをモデルにすると、ペルソナ作りやキャラクター造形に慣れていない人でも比較的作りやすいのでは?

もし、あなたの商品やサービス、あるいはお店に既存顧客がいるのなら、その人を起点に想像を膨らませ、普段の生活やこれまでの来歴といった、見えていない部分を検討してみましょう。もしその人が友達に近いぐらいの常連さんなら、あなたが妄想してみた項目について、直接尋ねてみても良いかもしれません。

お店に来る日はどんな流れでどこから来ているのか、どこへどんな道、どんな交通機関を使って帰っていくのか。どんなところへ勤めていて、どんな仕事をしていて、その仕事へ就く前にどんな経歴を歩んできたのか。誕生日や血液型、家族構成、今の同居人、服の好みやその他のブランド、良く見るテレビ番組や好きなスポーツ、休みの日はどんなことをしているのか。

日頃の小さな悩み、例えば禁煙が中々できないとか、特定の家事が苦手とか、運動習慣がつかないとか、勉強に身が入らないとか。もう少し大きな悩み、例えば子供やパートナーとの関係、経済的な問題、両親の問題とかはないか、など。やりがちなこと、あるいはストレスを感じやすいこと、忌避しやすいことなども、想像を膨らませてみると、マーケティングや宣伝広告を考える際にヒントにしやすいでしょう。

これといった既存顧客がいない、あるいは今から立ち上げる、新規顧客獲得へ向けたペルソナが必要なのであれば、その商品、サービスの事業計画を立てた際の想定ターゲット、デモグラフィックやサイコグラフィックといった断片で構わないので、そこから具体的な人物像を想起、想像してみましょう。
身近な誰かや、学生時代の友人知人で「あいつなら、どれかに当てはまりそう」みたいな人へ無理やり落とし込んでも構いません。もちろん、自分自身をモデルにするのも良いでしょう。

その人物がもし、ターゲット像に当てはまる、あるいはデモグラフィックの要素、サイコグラフィックの要素を付け足しても違和感がないなら、それを原型として知らない部分、見えない部分について妄想を膨らませて、補完するようにしてみましょう。

この時のポイントは、リアリティがあるか、違和感がないか。
具体的な人物を想定して、足りない部分を想像してみる、知らない部分、見えていない部分を付け加えてみることで、その想像が妥当かどうか、違和感がないかどうかの判断はしやすくなるでしょう。ここは感覚的な部分が大きいので、多少の訓練は必要かもしれませんが、根気強く繰り返し作ってみることで「使える」ペルソナ、現実的なペルソナへ至る可能性が高まります。

良いペルソナが作れれば、活躍の場は非常に広いので、一見生産性が低いように見えますが、ペルソナなしにマーケティング施策を検討するよりは遥かにコスパが良いので、ここは多少の時間や手間暇をかけて良いところだと思います。(もちろん、他の業務とのバランスを考えた上で)

ステップ2.ホンマにそんなやついる? とツッコミでブラッシュアップ

なんとなく原型ができたら、今度は生き生きとさせるためにどんどん具体化、ブラッシュアップを加えましょう。ポイントは、「あり得そうかどうか」と「そんなことある?」の2つ。リアリティを欠いた、作り手に都合の良いペルソナになることを避けるためにも重要なステップです。

具体化の目標としては、そのペルソナと商品やサービス、ブランドとの接点が鮮明に思い描けるかどうか。キャストとスタッフさえ用意すれば、そのワンシーンを映像化できるというレベルを目指しましょう。そうすると、カスタマージャーニーの各ポイントでの注意点や振る舞い方、各種マーケティング施策の仮説検証にも、ペルソナが活用できます。宣伝広告がペルソナとどう接触するのか、それを見たペルソナはどう反応するのか、あるいは反応しないのか。どんな場面、どんな場所、何をしている時、誰とどんな気分で過ごしている時に接触するのか。そこまで想像した上で訴求方法やチャネル、オファー内容を検討すると、伝わる率は改善できそうじゃないですか?(必ずしも改善できるとは約束できません)

この時、作り手に都合の良いペルソナを作ってしまうと、ペルソナを活用したいシーンで斜め上の施策を検討することになり、そもそもの狙いから破綻することに繋がります。良いペルソナはブランディング、マーケティングに貢献しますが、悪いペルソナはその影響力で全体を腐らせます。ペルソナを活用して生産性を改善したいのなら、現実味のないペルソナ、作り手に都合の良いペルソナ、精度の甘いペルソナを作ることは避けましょう。

そのため、原型を作った後はしっかりツッコミを入れること。
事業計画上は「こうしたい」と思っても、血の通った一人の人間として必ずしも思い通りになるとは限りません。思い通りにならないからこそ、相手に合わせた施策を打つことも大切で、その相手を見誤らないこと、色眼鏡をかけて都合の良い人と思い込まないことが大切です。

「ペルソナの作り方」で調べて出てくる参考がなんとなくふわついて見える物が多いのは、この辺りをきちんと説明していないからのような気がします。
経営者層や上司が「こうなるはずだ」と言っても、それに対して「そんな訳ないじゃん」と意見する可能性も加味した上で、ペルソナに対して真摯に向き合う。「ホンマにそうか?」ととことん疑い、客観視を心掛けることが、良いペルソナ作りに欠かせません。

ペルソナが生きている姿、日々の生活を送っている姿、何に喜んで何に悩んでいるのか、生き生きと鮮明に思い描けるレベルまで深掘りする。架空の人物像とはいえ、ペルソナも一人の人間。フィクションに近い妄想、想像の世界に入っていくからこそ、リアリティを追求し、思い通りには動いてくれない、ままならないこともあるつもりでブラッシュアップしていきましょう。

ステップ3.人間観察やフィクションの世界に重ねてみる

生成AIが隆盛を極める昨今なら、出来上がったペルソナにそれっぽい人物の写真を用意するのも比較的簡単だと思いますが、可能なら実在する人物とも重ねてみてください。

例えば飲食店や街中でたまたま見かけた人物から、あなたが作ったペルソナに近そうな人物、当てはまりそうな人がいたら、実際にその人物をペルソナに見立てて行動や言動、リアクションを観察してみましょう。一緒にいる人との関係性はどうか、どんな立ち居振る舞いをするか、つぶさにチェックしてみてください。あなたが作ったペルソナ、想定していたペルソナとの差はどうですか? もし、その差を修正した方が良さそうなら、適切な調整を加えてください。なぜその差が出たのか明らかで、それが問題ない場合は、追加調整は不要でしょう。

あるいは著名な芸能人、俳優さんやモデルさん、あるいはアニメ、漫画のキャラクター、あなたが好きな作家あるいは作品の小説の登場人物に置き換えてみる、重ねてみるのもオススメです。あなたが作り上げたペルソナっぽいキャラクター、あるいは俳優さんは具体的にどんな演技をするのか、どんな振る舞い方をするのか。それはフィクションとして違和感がないか、あるいは重ねてみたペルソナとして違和感がないかどうか。どこかに違和感がある場合、そのペルソナは調整が必要かもしれません。

いずれにせよ、ペルソナが声や身体を得るとどんな振る舞いに見えるのか、それらをシミュレーションするための行為です。実在する人物に置き換えても違和感がないかどうか、あるいはあなたよりキャラクター造形に長けた人たちが作り上げたキャラクターと齟齬がないか、遜色ないものとなっているかどうか。また逆に、実際に動いているところ、あるいはドラマとして描かれているものを見て、自分の作ったペルソナとしては言語化できていなかった部分、考えが足りていなかった部分が顕在化するかもしれません。

一回動かしてみる、あるいは動いているものに重ねてみると、ペルソナの完成度あるいは問題点が鮮明に見えてきます。完全に同質化させる必要もないですが、実際に存在するもの、あるいは大勢の手が加わってすでに誰かが作ったものと突き合わせて、客観視を加える、自分たちの盲点を確かめるというのは大事なステップです。

理想のユーザー像からはスタートしないこと

「商品やサービスを利用している典型的なユーザー像」のような説明を見かけることもありますが、事業を営む側、あるいはペルソナを作る側がここからスタートしてしまうと、結局は「机上の空論」から抜け出せず、「使えないペルソナ」、あるいは「間違ったペルソナ」を作りがちです。

カスタマージャーニーや宣伝広告のターゲティングでも起こりがちな失敗ですが、日本国内の場合、サプライサイドに都合の良い時代はとっくの昔に過ぎています。現実的な視点、客観的な市場の振る舞い、市井を生きる生活者の視点、考え方というものを取り入れないと、PDCAもOODAも「偶然」の上に立つ楼閣のまま、VUCAの時代に確かな手応え、ファンや顧客を獲得しながら前進することは不可能でしょう。

必ず、現実、リアルにもルーツを持たせること。「そこにいてもおかしくない」ぐらい、現実味のあるペルソナ、「自分にもそういう一面がある」というレベルのリアリティを目指すこと。空想、想像、フィクション100%のペルソナにはしないこと。

実際に動かしてみる、動いているところを想像してみると、そのペルソナが破綻しているかどうかが顕著に出るので、ステップ2もステップ3もしっかりやりましょうね。

人間観察、良質なフィクションでセンスを磨こう

ペルソナを作るためのセンス、感覚を磨くには街中に出て人間観察するか、小説や映画、アニメといったコンテンツをインプットして、キャラクター性に関するデータを増やす、学ぶことをお勧めします。
人間観察する際は、ぜひ一緒にいる人物との関係性や、そこに至った背景等も想像してみてください。飲食店で隣のテーブルにいる人物が不思議な組み合わせということもありますし、お子さんならお子さんでどのぐらいの年齢か、中学生か高校生かといったことも想像を巡らせてみてください。(迷惑をかけない、トラブルにならない程度に、節度は守ること)

また、クリフトンストレングス(ストレングス・ファインダー)の中でいう「個別化」の強みもあると、「それっぽい人物」を検討する際に役立つと思うので、ペルソナ作りを強化したい場合は、キャラクター造形や作劇の書籍などと合わせて、「個別化」の強化方法や伸ばし方を調べて、それを実践してみるのも良いかもしれません。

「キャラクターが勝手に動く」レベルまでペルソナを作り込むこと。作者都合で振り回せるようなペルソナは避けられるよう、センスをしっかり磨いてくださいね。

現実も想像も、どちらも必要

『女神転生』シリーズを貫くお馴染みの概念といえば、LAW(ロウ)とCHAOS(カオス)の対立概念とそのどちらでもない中立、ニュートラルの3つですが、本記事の「ペルソナ」もニュートラル、中庸であることが大切です。

思い込みや虚構、妄想や想像による都合の良いペルソナでもダメですし、現実味やリアリティを追求するからと言って、ほぼ実在の人物となるペルソナでも、マーケティング施策として持ち出すには使い勝手が良くありません。(本当にたった一人を満足させるためなら、それでも良いですがもう少し広い範囲を対象としたいですよね?)

どちらかに極端に偏ることなく、どちらの要素も掛け合わせた上でバランスの良い中間、中庸を保つ。それが、良いペルソナを作る上で大切です。現実にも想像にも依拠するニュートラル。双方の要素を「合体」させて、現実に存在してもおかしくなさそうな、生き生きとしたペルソナ、24時間の生活動態、生活における優先順位の付け方、思考の変遷を想像できそうな鮮明なペルソナを生み出しましょう。

ちゃんと作ったペルソナはその後も長い付き合いになりますので、せっかく作るのなら精魂込めて作りたいものですね。

今後も「お役立ち情報」をお届けします

BLUE B NOSEでは今後も、経験を通じて得たナレッジやノウハウ、独自視点でのお役立ち情報をお届けします。HP上でもコンテンツを発信する予定なので、もしよろしければ当アカウントのフォローや、HPのチェックもお願いします。

それでは女神転生シリーズの「(悪魔)合体」と言えばのフレーズで締めましょう。

コンゴトモヨロシク


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