映画ミッドサマー感想文
ふんだんにネタバレを含みます。あらすじとか書かない。
純度の高いホラー映画で、フォーマット通りに進んでいく安心感があった。
冒頭、主人公ダニーは双極性障害を持つ妹の無理心中により家族を失う。残された彼女は、自分をおいて進んでいく物事に対し敏感になっていく。そういうわけで自分だけ知らされなかった彼氏とその友達が計画していた卒論研究のための旅行についてや、心を開かない彼氏について取り乱すし、反対にすべてを共有するコミューンに居心地の良さを見出していくという話。
私の想像だが、妹を家族に押し付けた状態で一人暮らしをする負い目もあったのだろう。ダニー自身も精神衛生に問題を抱えていることがわかる。だが面白いことに、冒頭で飲んでいた抗うつ薬は家族の死以降登場しないのだ。つまり、彼女なりのペースではあるが寛解への道を歩んでいた。負担となっていた家族から開放される喜びと、それを自覚してしまうことへの罪悪感の間でダニーは揺れている。文化が違う村での異様な祭りに巻き込まれることで、ダニーは目の前の現実にしがみつきながら、自身の過去を手放していく。
コミューンでは自己を曖昧にすることをすすんで選ぶ描写が多い。もっとも村の秩序を守るためには不可欠なんだろう。村人が輪廻転生の元名前を受け継いで行くというのが一番大きい。自己を作る上で起点となる名前すら自身のものではないというのはどういう気分なのだろう。脈々と続く(ように見える)歴史と自分のつながりがどのように作用するのか。人工的に繰り返されるループは、それを維持するために神聖なものが必要となる。自身の及ばない力があることを植え付けなければ、疑問が生じる。疑問は不和を産む。神聖なものとしてループの外に居ることが許されるのは最初から論理的思考を持たない障害者だけだ。それすらも近親相姦を用いて人工的に作り出しているのだからおぞましい。
登場人物について
ホラー映画よろしく、それぞれに明確な役割がある。ダニー御一行はカルトの適性試験に耐えうる人がいかなる人物かどうかをそれぞれのキャラクターで浮き彫りにしていく。自己評価が低く、他者との違いに怯え、意志が弱い一方で善なる生き方を求める者がそうだろう。まあダニーのことなんだけど。麻薬を一旦は拒否する清廉さを持ちながら結局はバッドトリップに陥る。残酷な儀式を目の当たりにしながらも怯えて何も言わずに息を潜める。結果、複数回によって行われたオーディションを勝ち抜き、ダニーは見事クイーンとなった。おめでとう!
ダニーの彼氏のクリスチャンは最初から最後まで責任を放棄し、重要な選択を先延ばしにする男。なんだか自分を見ているようで不快だったので、最後はもっとえげつない死に方を迎えてほしかった。ほんと、全ての期待を下回る男だよ。
ネタをパクられるわ、共同執筆にすることになるわで散々な目に遭うジョッシュ、彼は彼で卒論で取り上げる祭をスクープネタか何かだと思ってるおかげで村の禁忌を犯してぶち殺されるんだけど、基本的に善人だし、睡眠薬を惜しみなく分け与えてくれる優しさもあったから殺されるのは残念だった。あと顔つきが良かった。なんか今っぽいというか、鼻が短いところが良いよね(ルッキズム)。
個人的に好きなのはダンスシーンでのダニーの動き。顔を残しながらターンをする(顔の位置をある程度固定した状態で横回転するアレ)やつはアイドルオタクとしてはなかなか笑えるものだった。そのキャラクターでそこそこしっかりしたダンス経験あるの、面白い。
というわけで特にメッセージ性やらに意識を向けることなく、フォーマット通りに身を任せて見ることが出来るのはなかなか楽しい体験だった。
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