旅行振り返り記 0610

友が遠くへ赴任することになった。しばらく会えなくなるのもあり「ここいらでしっかり遊んでおこう!」と盛り上がり、トントン拍子で旅行へ行くことがきまった。

10日
サイクリングを伴う旅行なので、軽装を想定しながら服を選んだのに、仕上がったのはカリブの海賊の一般公開オーディション・海賊役(6)と勘違いされてもおかしくない出で立ちになってしまい、大急ぎで服を替えた。

新幹線に乗り込み、友と合流する。前日に”(1時間ほどの)移動時間があるんだし、お菓子があると良いね”と話していたこともあり、私がキオスクで選んだポテトチップス・チョコクッキー・グミをテーブルに並べるも、移動中はひたすら日程を確認したりホテルを探すことに時間を使ってしまったため、二人で合計4粒のグミを消費するだけとなった。結局ポテトチップスとチョコクッキーは最終日まで私のリュックサックを陣取っていた。

福山駅で下車。ローカル線で尾道まで移動する。福山駅へ到着したローカル線の車両の色がくすんだ黄色だった。”時代の移り変わりを感じさせる趣のある色味だね”と伝えようとして出てきた言葉が「火垂るの墓の清太がのってたやつじゃん」だった。横に居たのが友ではなかったらモラル・センスを疑われる言葉だ。言った直後に(しまった)と思ったものの、友は笑っていた。

駅の階段を降りる際、天井に張られた鉄骨に寄り添うようにとまった2羽の鳩を指差し「ご覧、つがいの鳩だよ」と友に伝えるも、直後に鳩がお互いをクチバシで攻撃し始めてしまい、思わず友と顔を見合わせて笑った。

尾道駅へ到着。快晴。ロープウェイで高いところへ行こう、ということだけを決めて古寺めぐりをした。石畳が敷き詰められた小気味良い道が続く。移動中、小学校の横を通り過ぎた。平日の昼なのに人っ子一人いなかった。どういうことだろう。立て看板に志賀直哉の家が近くにあることを知り、何の興味もないのに観に行った。案の定ふたりとも暗夜行路を読んでいないことがわかり「きっと悲しい話だよ、文学ってそういうもんだし」と雑なフォローで羞耻心を薄めた。志賀直哉の家の横には、草花に覆われた喫茶店があり、あちこちに植えられた草花が人の手を感じさせない自然のままに成長させたような佇まいをたたえている。営業していたら絶対に入っていた。

旅行中、写真を撮りたい・でも自撮りは恥ずかしいという気持ちを、より恥ずかしい気持ちにさせる”ハートのサングラスをかけているという状態”を持ってクリアしていく。このバカげたパーティグッズは私が思っていた以上の活躍をしてくれた。友は友で自らすすんでこのサングラスをかけ、己の枷を外していた。私たちは自由になりに来たのだ。日常の続きで旅をしなくてもよかろう。次は星のサングラスを持っていくぞ。

アパートを改装したカフェ・バーのAtmosphereへ行く。ストローがプラスティック製ではないタイプのカフェで、自家製レモネードとクラフトコーラが看板メニューとなっている。品よく行き届いた室内は、客同士の視線がぶつからないように座席が配置されていて、大変心地よく過ごすことができた。ここは素晴らしい店。

石畳の道を辿り、ロープウェイ乗り場へ着く。15分おきに出発するロープウェイはあっという間に満員になった。安藤忠雄が関わっているらしい展望台は緩やかなカーブを描きながら人々を高地へ誘っている。展望台に人が集まるタイミングを見越し、展望台の下にあるお店でレモンアイスとアイスもみじ饅頭を買った。高いところから見る風景はどこでも何かしらの気持ちを高める力があるとは言え、生活と自然と工業があそこまで混ざり合う風景は見たことがなかったのでじっくりと眺めてしまった。

展望台から歩いて5分ほどのところにある美術館では有名なデザイナーが手がけた椅子のレプリカが大量に置かれていた。お金の使い方がわからずとりあえず揃えたようなラインナップだ。なぜか友が閲覧用に展示された篠山紀信の写真集が見たいと言い出したので二人で眺める。私が生まれる前に撮影された中国の風景写真だった。ずっと愛すクリ〜ムと名付けられたアイスののぼりの前で写真を撮りたいと友に頼んだ。ついでに撮ろうか?と誘うも「絶対に嫌だ」と言われてしまった。私はたった今、この前で写真を撮られるのは絶対に嫌だと思われるようなのぼりの前でダブルピースしたんだが。

ロープウェイは片道分の切符しか買わなかったので、文学の道と名付けられた道を通りふもとまで降りる。照りつける日光と噴き出る汗、自然と早まっていく足取りも相まって文学の要素を堪能しようと思いたい気持ちは底をついており最終的に「もう何でも良い、石に刻まれた誰かの文章を見たらあとは流そうよ」「なんでも良い、早く山を降りたい」とまで言われる始末だった。ちなみに尾道は猫の街と呼ばれているのだが、私たちは車の下で寝ていた猫一匹しか見かけなかった。でも、思い切り体を伸ばした後再び眠りについた猫を見守ることが出来たのだから上出来だろう。

商店街へ行き、ご飯を食べる店を探す。疲労と焦りのせいで適当に選んでしまいお互いにしこりを感じる昼食となってしまった。何もかもきちんと準備する必要はないけれど、食べるところと寝るところは目星をつけよう。

食後、商店街を歩いた先に洒落たピタパンサンドを出す店や夏野菜を使ったミネストローネを売りにしたレストランなどを見つけてしまい、顔中の表情筋が収縮してしまう。友は「ホテルで休んでさ、夜食べに来たら良いじゃない」と慰めたが、私達はそれが叶わない未来だと知っていた(18時には商店街のほとんどがシャッターを下ろすという話を聞いていたから)。美味しい昼ごはんを食べそこねた現状を忘れるために、確実にるるぶトラベルに載ってそうなプリン屋で瓶入りのプリンを2つ買い、レモレモと名付けられた銘菓を2つ買った。

ホテルへ向かって歩いている時に”このままだと自分のためのお土産は買わずに旅が終わるぞ”と内なる自分が囁き、雑貨屋をあたる。普段使っているポーチがボロボロになっていることをいいわけに地元産の帆布ポーチを買った。旅に出るときは何か荷持が足りない状態で挑んだほうが良いのかもしれない。自分のためのお土産を買うための言い訳を用意しなければ貧乏性が前に出てきてしまう。店員に、夜まで営業している美味しい店はないか尋ねるとグルメマップを渡された。おねえさん、あなたのグルメマップは本当に役に立ちましたよ……

ホテルへ到着。部屋に入ってすぐ風呂に入った。採光のためか、風呂場がガラス張りになっている。友も私も疲れていたのでシエスタを楽しんだ。結局ウェルカムドリンクを受け取れる時間ぎりぎりまで眠ってしまった。そして寝起き直後にプリンを食べたり白湯を飲んだりしたせいで、時間の感覚がおかしくなり、お互い壁を見ながらベッドで呆然とする時間が生まれた。

ウェルカムドリンクにサングリアを、友はいちじくのソーダを頼んだ。私はドリンクメニューでめぼしいものが見つからない時、サングリアを見つけると頼んでしまう。そして毎回”サングリアってこんな味だっけ”と考え”そもそもワイン好きじゃなかったな”と思い出す。テラス席のソファに腰掛けながら港を眺める。隣の席では女子高生がお互いにヘアアレンジを施していた。その姿を見た友は、私たちが得ることのない贅沢を日常として享受する様に嫉妬していた。私もテラス席のソファに腰掛けて地元のオレンジジュースを飲んで、自転車を船に乗せて通学したかった。

日が落ちてきたこともあり、夜ご飯を食べる場所を探す。18時をとうに過ぎていたこともあり、結局ホテルの横にあるレストランを選んだ。テラス席でメニューを開いたタイミングで近くに座る男女の集団が嬌声を上げた。思わず眉を吊り上げながらその方を見たら、その時の私の顔つきが度を越していたらしく友に注意された。私は衆人の目があるところで、盛り上がるためだけに大声を出すという行為自体が嫌いなので「消火器まいたら静かになるかな」と続けた。でけえ声出したいなら山奥でやれ。

レストランは、アヒージョを頼んでおけば間違いないという私の妄信がさらに強くなるような美味しいアヒージョが出てきた。牡蠣とトマト、にんにくの旨味が混ざったオリーブオイルは最後までちょい足し要因として活躍を見せ、何なら全く無関係なパスタにまで駆り出されていた。私たちはこれからもメニューで迷ったらアヒージョを頼むのだ。

せっかくだから有名な尾道ラーメンが食べたいという友の為に夜遅くまで営業しているラーメン屋を探す。夜の港、そして海を隔てた先にある島を眺めながら歩く散歩も兼ねたものだったこともあり、店を見つけても道が示す先を確認したい気持ちが優先されてしまい、結局何一つ口に入れることはなかった。何かの寓話みたいな話だ。

友は自ら希望を口にする時、それを上回る何かを見つけたいという願いを元に口にするところがある。友が見つけたのは電灯に張り付いたでかい虫と、グーグルで見つけられなかった雰囲気の良さそうなホテル、ミニラーメンですら食べたい気持ちじゃないという事実だったけれど、きっとこれはこれで満足していることだろう。

ホテルへ戻る。友はアメニティとして提供されていたコーヒーを淹れていた。ベッドの側にしつらえてある空気清浄機が、その側を通る度に見せつけるように稼働を始めるのでクレームを入れてやろうかと思ったことを友に伝えると「機械は仕事をしただけ」と海底鬼岩城のしずかちゃんのような庇い方をした。

再び風呂に入った後、ベッドで眠る。私は昔から寝室を誰かと共にするのが苦手だったのだけど、慣れるもんだな。旅の終わりでは放屁すら申告できるようになった上、放屁をする直前で指を引っ張ってもらうよう頼みさえしていた。仲いいな。仲いいな〜〜。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?