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松下奈緒さんという世にも恐ろしい凶器

いつだったかもう忘れたけれども、多分2005年とか2006年とかそのあたりだと思う。ライブを見にあの松下奈緒さんが来てくれた。もちろんライブ終わるまでは知らなかった訳であるが、ライブ終わりで楽屋に挨拶に来てくれてたのだ。確かバンドでオランダに撮影しに行ったときに我々がお世話になった制作会社かなんかの、確かプロデューサーかなんかの方に連れてこられたとかで、元々我々が松下奈緒さんと知り合いであった訳では、もちろんない。

俺自身はテレビ大好き雑誌大好きミーハーなので、この頃デビューして間もないがとんでもなく目立っていた松下奈緒さんをもちろん知っていたのだが、世間的にはどうなのだろう。もちろんゲゲゲの女房だとかまんぷくだとかバカボンだとかJAバンクだとか、そんなのをやる全然前であったので、その時メンバーの中でも知らない人がいたはずだ。今では知らない人はまずいない、はずだ。

で、そんな松下奈緒さんだがその頃からやはりとんでもなかった。

というのもいきなり話がそれるのだが、そもそもその時我々の楽屋のソファーにはあのバルセロナオリンピック柔道78kg級金メダルの吉田秀彦さんが座っていたのだ。その日の我々のライブを見て、終演後楽屋に挨拶に来てくださった吉田さんは「大山、このあと飯いくぞ!だから俺お前が片付け終わるまでここで待ってる!」といきなり言い放ち、そのままそこのソファーに座っていたのだ。その段階で俺としては高校の時からの憧れの存在がすぐそこにいるというだけでもうだいぶ死んでいる訳だが、とにかく何が何だかわからない状態の時に松下奈緒さんが挨拶に来てくれたのだ。

プロデューサーの方に紹介され、「松下奈緒といいます。ライブ良かったです!ありがとうございました」みたいな丁寧でかつくどさのない上品な挨拶を頂戴し、いざ「さあなに話す?」「なに聞く?」の一番ギクシャクした時間すら始まる前に、彼女をここに1秒でも長いこといさせたらダメだっていう空気をそのプロデューサーに醸し出され、さらには追撃を防ぐ為なのか何か見えない壁のようなものまで作られ、本人の意図とは多分別であろう、いや多分別であって欲しいという気持ちなのはこちらだけなのだろう、いやきっと本人ももう少し話したかったに違いないとは思うが、彼女はさっさと、いや無理矢理楽屋から押し出されてしまった。楽屋を出ていく背中が寂しそうだなあと感じたのは多分俺の老眼が始まっていたからなのかもしれない。

しかしまあ我々も普段からそういう場面で相手にされない事には慣れているし、そもそもそんなもんかと思っていた部分も負け惜しみながらあるので、完全に彼女はそのまま外の、それも遠くのロビーへ行ってしまったのだと思い込み、男子バンドマンのノリというかお決まりというか、そのプロデューサーの方に「何であんな綺麗な人を連れてるんですか!ちゃんと後日食事ご一緒させてくださいよ!お願いですよ!」みたいなことを若干の期待は残しつつもわざとらしく、小声で下品におねだりしてみたがもちろん「あーむりむり!お前らにはダメだしそんなの相手してくんないよ!」なんて事言われながら、ハエでも追い払うかのような仕草で追い払われていたその瞬間

「いつでも行きますよ!」

入り口からちょこんと顔だけ突き出した松下奈緒さんは、とびきり綺麗でかつ嫌味のない笑顔でこうおっしゃったのだ。大山完全死亡。今でも鮮明に覚えてるあの空間。膝の力が抜けて、かくんってなりそうな膝をキリでぶっ刺して何とか正気を保ちギリギリ立っていた俺。そのセリフに頭真っ白で何も言えなかったあの時の俺。もしかして、もしかしてご飯行けちゃうの?とかうっすら思ってたか思ってなかったかわからないけどもきっとゴマのようなあるのかないのかわからないくらいの点のような黒目で恍惚の表情をしていたであろう俺。

可愛いとか綺麗とかの定義はわからないが、トータルで素敵な人というのは顔の作りとかスタイルだけではなく、そういう事をさらっとできて、その上ビシッときまるものである。男性でも女性もそういった種類の、自分の中のどの細胞を頑張って鍛えたとしても手の届かない別の国というのか別の世界の人というのはいるものである。その時の状況をもし俺がどこかの女の子達にむかってやったとしたら、それはただの覗きである。「キャーーー!!」というお化け屋敷などで聞くあの嘘の叫びではなく、夜中に街灯もない道を恐る恐る1人歩いている時に急に現れた全裸にコートを羽織っただけの、それだけを生きがいにしている普段は普通のマイホームパパだったりする変態に出会った時にでるあの本物の「ギャァー」が聞こえるであろう。

とにかくその時はその笑顔というか空気感に本当にぐっときすぎて俺の憧れ中の憧れである吉田さんが楽屋のソファーに座っているのを数分間忘れてしまっていたくらいである。


食事会はありませんでした、もちろん。


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