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小説 イブの夜に

バイトからの帰り道、まだ明るい大通りを歩き信号を右に曲がる。すると辺りは一気に薄暗くなる。見上げた街灯は、何日も前からチカチカ点滅していて、今にも消えそう。納めた税金はどこに使われるのか不思議になる。

さっきまでサンタになってクリスマスチキンを売っていた。フライドチキン専門店だもん、イブに働くのは当然だ。

この後、本当はタカくんと一緒に過ごす予定だった。「由香の部屋で待ってるよ。特別な日だからお祝いしよう」随分前からそう言ってくれたのに、イルミネーションがキラキラ点滅する頃、心は離れてしまったみたい。

マスクで曇ったメガネ越しに、2階建てのアパートが見えた。角部屋の窓からあかりが漏れている。もしかして。外階段をカンカンとかけ上がり、ドアノブに手をかけるとガチャリ。扉が開いた。

「何だ、お姉ちゃんか」

会うのは半年ぶりぐらいかも。長い黒髪に大きな瞳。モスグリーンのワンピースはクリスマスを意識してだろうか。

「何だは何よ。別れたって聞いて、寂しいんじゃないかって来たのよ、びっくりした?」

「べつに。てか鍵返してよ」

一人暮らしが決まったとき、何かあったら心配だからと、お母さんは先に東京で暮らしていたお姉ちゃんに合鍵を持たせた。あれからもうすぐ2年、私はもう子どもじゃない。

「ね、24日だからお祝いしよう」

小さな机の上に、いちごのデコレーションケーキ。促されて部屋の電気を消すと、お姉ちゃんがロウソクに順々と火をつけた。オレンジ色の炎が揺らぐ。

「お誕生日おめでとう」

20本のあかり越しにぼんやりお姉ちゃんの顔が浮かぶ。揺らぐ顔もやっぱり綺麗だ。私もそうだったら振られずに済んだのかな。

「ほら、はやく消して」

消したいよ。でもね、何だかうまく息ができないし、ろうそくも滲んでよく見えないの。

「やだ、由香ってば泣いてるの?ほんと、まだまだ子どもなんだから」

優しくて大好きな声が降ってくる。悲しいのか嬉しいのか、涙の理由は分からない。でも、やっぱり鍵は、まだ持っていて。

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