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NPBの記者投票について考えてみる

はじめまして、ばやのりといいます。

2021年のシーズンも全日程を終了し、今年はが東京ヤクルトスワローズがリーグ優勝、日本一という結果で終わりました。今年は東京オリンピックが開催され、長いシーズンになりましたが、終わってみればあっという間だったように感じます。

シーズンが終わったということは、すぐにNPBアワードがやってきます。このイベントでは「記録による表彰」と「記者投票による投票」の2種類の表彰が行われ、「最優秀選手」、「最優秀新人賞」、「ベストナイン賞」の3つの賞は記者投票によって受賞者が決定します。また、これら以外にも「三井ゴールデン・グラブ賞」も記者投票で受賞者が決められ、この4つの賞を予想するのがシーズン終盤のファンの楽しみになりつつあります。しかし、近年毎年この時期になるとこの記者投票の在り方についてファンの間で議論が繰り広げられています。今回は記者投票の在り方について思うこと、そして記者投票とはどうあるべきか考えてみました。

1.記者投票の実情

ここ数年で物議を醸している記者投票について、冒頭で挙げた4つの表彰に関する事例を挙げて説明していきたいと思います。

①2016年パ・リーグ最優秀選手賞

最優秀選手賞は一般的には「MVP」(Most Valuable Player)と呼ばれ、その年最も活躍した選手に送られる賞です。この賞は、基本的にリーグ優勝したチームの中から優秀な成績を残した選手に送られます。

2016年のパリーグは北海道日本ハムファイターズが優勝しました。この年の日本ハムには打点王を獲得した中田翔本塁打王を獲得したブランドン・レアード10勝10Sを達成した増井浩俊などがいましたが、本命はなんと言っても規定未達ながら打者としても投手としても圧倒的な成績を残した「二刀流」大谷翔平でした。

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MVPは記者が1位(5pt)2位(3pt)3位(1pt)と思う選手に票を入れ、その合計点数でMVPを決めるという方式になっています。結果は有効投票数254票に対して、大谷翔平には253票の1位票が入り、圧倒的なスコアで大谷翔平でした。ここで疑問になる残り1票の1位票はというと、同じチームの宮西尚生に入っていました。確かに宮西も最優秀中継ぎのタイトルを獲得するなど優勝に貢献はしました。しかし、この場面でこのような投票をするのはいかがなものでしょうか?この1票はふざけていれたと言われても仕方ないでしょう。この票はたった1票で満票を逃したこともあり、大きく話題になりました。

https://npb.jp/award/2016/voting_mvp.html


②2017年セ・リーグ最優秀新人賞

最優秀新人賞は、新人王とも呼ばれ、一定の条件(①海外プロリーグに参加したことがない②最初の支配下登録から5年以内③投手として前年までの1軍登板が30イニング以内④野手として1軍で60打席以内)を満たす選手を対象に優秀な成績を残した選手が選ばれます。新人王とは言いますが、ルーキー選手でなくても資格さえあれば対象になります。

2017年の新人王は主にショートとして141試合に出場、球団の新人安打記録を塗り替えた中日の京田陽太、ローテの柱として2桁勝利も達成した濱口遥大が争うと予想されていました。

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いざ本番になり投票結果が発表されると1位は208票で京田が新人王を獲得しました。しかし問題は2位です。なんと49票で2位に輝いたのは濱口ではなく阪神の大山悠輔で、濱口は27票で3位という結果でした。この年の大山の成績は途中から阪神の4番を務めたとはいえ、濱口を差し置いて票を入れるべき選手であったかと言うとそうでは無いと思います。新人王は一度しか受賞資格がないと言うこともあり、こちらも話題になりました。

https://npb.jp/award/2017/voting_rok.html

③2019年セリーグゴールデン・グラブ賞

守備のベストナインを選ぶゴールデン・グラブ賞の投票は毎年のように物議を醸しています。特にそれが話題になったのは2019年のセリーグのショート部門では無いでしょうか。
この年の最有力は、守備率がリーグトップ、UZR(分かりやすく言うと守備でどれだけの点を防いだか)でも2位のDeNA大和に大きく差をつけて17.5を記録した中日の京田陽太でした。
しかし、いざ結果発表となると巨人の坂本勇人が167票で1位、京田は2位の110票と大きく差をつけられ受賞を逃しました。この年の坂本はというと守備率は京田、大和に次ぐ3位、エラーは阪神木浪に次ぐ2位京田は9個)、UZRに関してはマイナス3という結果でした。

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ちなみに坂本は打率.312 40本塁打 94打点でその年のMVPを受賞しています。しかし打撃がいいからゴールデングラブも投票する、という理由にはなりません。
一概に守備指標だけを見て決めてほしいとは言いませんが、これはいかがなものでしょうか。
また、ショートだけでなくファースト部門でもドーピング違反で処分を受けた広島のバティスタに1票入るなどしました。
この年の賞は、京田の「打てばいいんでしょ」という発言もあり、話題になりました。

https://npb.jp/award/2019/voting_glove.html

https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/npb/1606533/

④2020年セ・リーグベストナイン賞

ゴールデングラブだけでなく、各ポジションで優秀な成績を残したベストナインを決める投票も、毎年のようにファンの間で議論が起こります。

印象的な票があったのは2020年のセリーグではないでしょうか。この部門は基本的に打撃成績を重視されますが、加えて優勝チームの選手に多く票が入るということがあります。例に漏れずこの年も9部門中5部門がリーグ連覇を成し遂げた巨人から選ばれています。受賞者自体はなんの問題もないように見えましたが、こちらも少数の投票が話題になりました。
目立ったのは二塁手部門で巨人の吉川大幾に3票、外野手部門で同じく巨人のI.モタに入った1票です。1位の菊池、2位の吉川尚輝の成績と比較すると一目瞭然なのですが、正直言ってこの2選手の成績はベストナインに選ばれるのに相応しいと呼べる成績ではありませんでした。

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しかもこの2選手はシーズンオフに戦力外通告を受けています。
吉川大幾に入った理由としては、二塁手部門、同じ巨人で104票を獲得した吉川尚輝と間違えたのではないか?という意見がありました。吉川大幾はまだしも(そもそも選手の名前を間違えるのもおかしい)、モタに関してはふざけているとしか考えられません。このようにベストナイン投票も度々議論を巻き起こします。

https://npb.jp/award/2020/voting_bt9.html

もちろんここに挙げた事例はほんの一例であり、NPBの記者投票制度は毎年ファンの間で議論の対象となっています。今年もファンの間で記者投票の表彰は誰になるかという話題で持ち切りであり、特にパリーグのサードゴールデングラブ(12/2に発表済み)、セリーグの外野ベストナイン、そして特にセリーグの新人王に関しては様々な数字を持ち寄っての論争が繰り広げられています。

2.なぜこうなるのか?理由を考えてみる

ここからはこれらの事例に関して何故このようなことが起こるのか、理由を挙げていこうと思います。

ふざけている記者がいる

⑵単純にほとんど試合を見てない記者がいる

印象だけで投票をしている記者がいる

⑷特定の球団の記者が多く、何も考えず自分の担当球団の選手に投票している

まずは、⑴についてです。こんな記者がいるとは考えたくもありませんが、ゴールデングラブ賞でのバティスタ、べストナインでのモタへの投票はふざけているとしか考えられません。2016年パMVPの宮西もその例に漏れずふざけて入れたのではないでしょうか。私はこれが記者投票における一番の問題だと考えています。

次に(2)です。正直これは推測の面が強いですが、プロ野球は年間1チームが143試合のペナントレースを戦います。その中でも、チームは遠距離の移動などを繰り返すので記者は全ての試合を見るというのは難しいでしょう。例えば単純に年間30試合見た記者と年間90試合見た記者では選手に抱く感想や評価も変わってくるので、これは(3)に直結してくると私は考えます。

(3)について、特にゴールデングラブでこのような印象による投票が起こっていると思います。明確な成績として現れやすい打撃と違って、日本ではセイバーメトリクスの指標があまり浸透していません。そのため、守備となると「足が速い」「肩が強い」「エラーが少ない」と言ったイメージによる投票が起こりやすいです。例えば、広島の菊池は8年連続8度の受賞をしています(2021年度に9年連続9回目の受賞)。

選手を否定するわけではありませんが、ここまで続けて受賞となると、セカンドは菊池と決めて投票している記者がいるかもしれません。他にも中日の大島は過去に受賞経験があり、指標では良いと言えるレベルではないのに受賞したりしています。

(4)は2017年の大山のが最たる例でしょう。数字をほとんど見ずに自分の担当チームの選手に投票する。特に阪神などは担当記者が多く、記者投票では有利とされています。

https://www.j-cast.com/2017/11/21314543.html?p=all


このような投票について思うことは、しっかり考えて試合を見て、出来れば数字も見て投票を行って欲しいということです。しかし、全て数字で決めるならMVPは最高WAR賞にでいい、ゴールデングラブは最高UZR賞でいい、となってしまいます。こんな極端なことではありませんが、あまりにも数字を見ていない記者が多過ぎると思います。
なにより伝えたいことは、あくまでこれらの賞の主役は記者ではなく選手である、ということです。主役は選手ですから、当然記者が悪目立ちするのはあってはならないことです。そして、これらの記者投票による賞は少なからず選手の査定に関わってくると思います。お金の話になる投票にふざけた票や適当な票があっていいはずがありません。なにより、不適切な票が入った選手にも失礼に当たります。なので、今後このようなことが起こらないように、ルールは定められていくべきだと思います。

3.解決策を考えてみる

最後にこれまでの事例をもとに問題点を挙げ、その解決策を考えてみようと思います。
前提として、記者投票自体は変えないという方針でいきます。ファン投票となると記者よりもより自分の好きな球団に入れがちになったりします。かといって選手間投票となっても、同じような現象が起こると考えられます。現に、毎年オフに行われるテレビ番組「SPARK」の「プロ野球100人分の1」では、同じチームの選手に投票しているシーンをしばしば見かけます。OBによる協議も考えましたが、沢村賞の選考を見ても分かるようにOB選手と今の選手では野球そのものの感覚(沢村賞のレベルが低い、完投完封が少ない)が違ったりします。なので、記者投票という形は変えないことにしました。

記者投票の問題点
①賞によっては投票を受ける有資格者の基準が示されていない
ベストナインなどは明確な基準が示されていないため、モタや吉川大幾に入る、といった事態が起きてしまいました

②特定の球団に記者が偏っている
大山の例で阪神が挙げられましたが、同じようなことがある球団は他にもあると考えられます

無記名かつ投票理由なども書かない方式での投票であるため、自分の投票に対する責任が薄い
現行の体制では、無記名式かつ理由の記述もなしで行われており、誰が誰に入れたか分からないので例に示したようなおふざけ票がまかり通ってしまいます

④記者でも見ている試合数にバラつきがある(?)
これに関しては憶測でしかありませんが、少なくとも投票記者全員が同じような試合数を見ているとは考えにくいです。

上記の問題点を解決する新たなルールの投票制度を考えてみました。
対象となる賞は、最優秀選手賞、最優秀新人賞、ゴールデン・グラブ賞、ベストナイン賞の4つとします。

ルール1
あまりにも成績の悪い選手への投票を防ぐため、基準の定められていないベストナインやMVPには最低限の基準を設ける(投手なら何回、何登板、野手なら何打席、特定のポジションで何試合出場等)

ルール2
各担当球団の記者の人数を統一し、球団による格差を生まないようにする

ルール3
何試合見たか、取材をどのくらい行ったか、という記者にも条件をつける

ルール4
原則記名式の投票とし、投票内容をNPB公式サイトで公開する。可能ならば理由も記述するようにし、記者も個人のSNSでなるべく投票理由などを発信する

この4つをルールとして考えてみました。メジャーリーグなどを参考にしつつ考えてみました。

何より重視したいのはルール4です。おふざけ票や贔屓票が入ってしまうのは、投票理由を明確に示す機会がないから、というのが大きいでしょう。彼らは記者、書くことが仕事なのですから、投票理由を言語化することは難しいことではないでしょう。彼らがハッキリとこの選手のここがいい!ということを下記のように明確に言葉にしてくれればファンも選手も少しは納得がいくでしょう。

それでもふざけた投票を行う記者がいたらそのような記者は資格を剝奪されてもいいと私は思います。

正直、勝手な案ではあるので全て実現するのはとても難しいと思います。(2021年の投票は記名式の投票だったそうです)

https://twitter.com/daily_yoshidafu/status/1459863324553007105?s=21

繰り返すようですが、NPBアワードというのは選手にとっての晴れ舞台であるので、彼等が主役になれるよう、記者投票にもしっかり威厳を持たせるべき、記者が水を差すようなことはあってはならないと私は思います。

これからの記者投票がよりよいものになっていくと願って、筆を置かせていただきます。初めてでしたが、長々とご精読ありがとうございました。

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