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【愛する世界】無心の遊びが心を軽くする

髙橋伸哉さん撮影

「あさって歯医者さんに行こう」高橋順子(著)

詩人の高橋順子さんが、瑞々しい感性で、日常の風景を救いとっています。

「わたしの水平線」「滝桜」「冥王星の夢」「花と海」「雨ふるふる」「黄色いメロン」等、39編の詩を収録しています。

「わたしの水平線」という作品を読むと、ふいに、海を見に行きたくなって。



「わたしの水平線」

水平線は時々
疲れて たるみたくなることがある

そういうときには もやのカーテンをひいて
心ゆくまでたるめばいい

わたしの水平線も
ぴんと張っていたり 木と木の間の
ハンモックの紐みたいだったりする

たるんでいるときには
風船葛の青い実がいっぱい風に
揺れる夢をみている

きっぱり引かれているときには
わたしは夢をさがしている



どこか抒情詩的でもあり、その基本構造は、問いと答えの合わせ鏡。

だからかな。

海を見れば、水平線の先を。

水平線をひいたのは、空があまりにも、空だったから。

天を仰げば、宇宙の果てを。

夜空に星をまいたのは、大地に立っていることを、忘れそうだったから。



Baden Powell「Round About Midnight」

ジャズファンであれば "Round About Midnigh"を知らない方はいないと思う。

ピアニスト・セロニアス・モンクの作曲。

この曲を、ガット・ギターで、こういったアレンジで演奏するスタイルは珍しく、彼を世界に印象づけた決定的なテイク。

深い哀愁が漂いながら、水がはじけるようなギター。

彼の音色に耳を奪われる。



言葉は、息を吐きながら、発する。

その時、心は、言葉の中に入ってきて、どこかへ飛んで行く。

そして、身体の中は空っぽになって、無心になる。

無心の遊びが、心を軽くしてくれる。



髙橋伸哉さん撮影(自分だけの正解を見つける)



「頬から順に透きとおりつつ八月の水平線を君が歩くよ」
(五島諭『緑の祠』より)



「日本の鶯 堀口大學聞書き」(岩波現代文庫)関容子(著)

西洋語と日本語を知りぬいた詩人は、こんなことばを残した。

「歌は三十一音という短いなかで何でも言えるし、それがまた言えるのが日本語ですよ。

日本人はやはり歌つくらなくちゃ。

こんな恰好のいい形式があるのだから」(『日本の鶯』より)



その言葉(支点・力点・作用点の位置の関係)で、

遊べば(問いとしての物や事象が私の感情を前景化していく)、

言葉の中へと心は出て行き(外へ遠くへと向かうことで世界を知ろうとする好奇心が芽生えて)、

身体は軽くなる。

そして、その身体の軽さに似合ったものが、再び、体の中へに入ってくる。

今、水平線に見えている波は、いつか、ここに還ってくるんだってことに、気づく。



Anderson .Paak「The Bird」

ふと耳が聴き入ってしまう曲。

ベースの発音のタイミングが裏なのに。

突っ込みぎみなのか。

後退ぎみなのか。

入りが絶妙すぎる。

複雑にからみあうアンサンブルに、身をゆだねるだけ・・・



この詩集のあとがきで、高橋さんは、「無防備」な作品と呼んでいる。

無防備だからこそ、海を越えて、時間さえも越えて、言葉は、旅をする。

無防備だからこそ、翼を手にした言葉は、私の心をくすぐり、時には揺らす。

その時、風船葛の青い実と同じ様に、いっぱい風に揺れる感覚を味わえるんだろう。



SHERBETS「MIA」

はかなくて切なくてピュア、そしてちょっとお茶目。



人間一人が、小さくて。

認識できる範囲は、限られてるから。

読書や音楽は、無心の遊びなんだなあ、と。

ふと、けれど、真剣に思った。



「夜の水平線」津川絵理子(著)

日々の暮しのなか、ささやかだけれど心に留めておきたいものがあります。それらを俳句にしてきました。(あとがきより)

◆作品紹介
思ひ出すために集まる春炬燵
二の腕のつめたさ母の日なりけり
梅雨寒し造花いくつも蕾持ち
近づいてくる秋の蚊のわらひごゑ
金盥ぐわんと水をこぼし冬
鎌倉の立子の空を初音かな
黙考の大金蠅は打ち難し
麻服をくしやくしやにして初対面
鴉呼ぶ鴉のことばクリスマス
あたたかやカステラを割る手のかたち



Quincy Jones「Soul Bossa Nova」



「一本の水平線 安西水丸の絵と言葉」安西水丸(著, イラスト)

いずれにしても、ぼくの心のなかにはいつも絵がある。―安西水丸



George Benson「BLue Bossa」



いつも、今が入り口なんだ(^^♪


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