性格ってなんだろう?【身近な哲学 #1】
好物を先に食べるかあとで食べるか
とある午後の昼下がり。
テーブルを挟んで、二人の男女が言い争っている。
「え、ちょっとまって。なんで残してるの?」
「え、うそでしょ。なんで先に食べてるの?」
ショートケーキのイチゴいつ食べるか論争は、人類永遠のテーマの一つである。普段は仲の良いカップルでも、同じシチュエーションで真逆の行動を取ることがある。今日はこの違いが、単なる好き嫌いから生まれるのではないというお話をしよう。
性格とは何だ?
性格とは「モノについて感じたり、考えたり、行動する時のモチベーションになる、ある一定の傾向や特徴」とされる。
(引用『性格とは?心理学分野での性格の定義や要素、種類には何があるのか?』)
例えば、暑い日が好きという人もいれば、苦手という人もいる。逆境に強いタイプもいれば、期待されないほうがパフォーマンスを発揮する人もいる。
そんな性格が何に起因するかと問われれば、多くの人は「心」から生まれると答えるだろう。そして「心」は何から形作られるかと問われれば「経験」からと答えるだろう。
では同じような性格を持つ人は、みな同じような経験をしてきたのだろうか? 高所恐怖症の人はみな高いところから落ちた(あるいは身近に感じた)経験しているのだろうか? そんなことはないはずだ。実は性格の違いの多くは、身体的特徴で説明できるのだ。
ショートケーキのイチゴ論争に決着を
イチゴ論争の二人は以下のような身体的特徴で説明できる。
1:先に食べるタイプは「肉体的幸福」が強い人
このタイプは味に対して「舌の感度」が高い。好きなものに対して幸福感をもたらす脳内物質(ドーパミン)がたくさん出るのだ。そうなるとお腹がすいているときに食べるのが最も良い。先に食べるのが理にかなっている。
2:あとに残すタイプは「精神的幸福」が強い人
このタイプは、舌から得られる刺激よりも、期待による刺激が勝る人だ。好物を口に入れるまで、頭の中でその素晴らしい味を想像し、それが脳内物質の継続放出という形で現れる。イチゴを食べる行為よりも、イチゴを食べられるという期待感がこの人を幸せにする。
ここで重要なのは、1と2の違いは、あくまで身体的特徴だということだ。味蕾細胞の数や、神経回路の組成といったものが根源だからだ。例えるなら、耳たぶが大きい、親指が手の甲につくなどと同じようなもので、どちらが優れているということはない。(満腹感という観点から見ると、胃袋の大きさも考慮に入れるべきだろう。)
高所恐怖症の人は身体の重心が高い(腰の位置が上にある)ので、屋上の柵の前に立てないのだ。
もちろん、性格の違いは経験の有無によっても大きく左右される。人に騙された経験を持つ人は疑い深くなるし、苦難を乗り越えた人は打たれ強くなる。ここでいいたいのは、それら「経験」と同じくらい、身体的な違いも重要だということだ。
例えば、脂肪がつきやすい遺伝子を持つ人は、身体の熱を放出しにくいため、自然と暑さが苦手になる。逆に痩せ型の遺伝子を持つ人は冬が苦手だ。そこに「心」の違いが入り込む余地はない。
「心が弱い」と悩まなくていい
こんな問いかけをしてみよう。
「お酒をやめられる人とやめられない人の違いはなんだろう?」
禁酒に成功した人は自信げに「強い心を持てば良いんだ」と言う。反対にどれだけ頑張ってもやめられない人は物憂げに、自分はダメだと頭を抱える。両者を「心の強さ/弱さ」で片付けてしまうのは簡単だ。だが、それでは物事は解決しない。
お酒がやめられない理由を、身体的な条件と対応させてみるとどうだろうか?
1.お酒の味が好き → 味覚の感度が人よりも高い
2.アルコールの高揚感が好き → 脳内麻痺に強い
3.嫌なことを忘れられる → 海馬機能が人より強い
そう。舌の受容体の感度が高かったり、特定機能が強かったりするために、依存度が人よりも高い可能性がある。あなたは心が弱いのではなく、特定の身体的特徴を持っているだけなのだ。
だからもう悩まなくていい。身体的特徴を考慮した上で、適切な対処をしていけばいいのだ。その素晴らしい味覚を生かしてグルメに凝ってみるのはどうだろうか。記憶力が優れているあなたは、夜に専門書などを開いてみてはいかがだろうか。
イチゴを食べるタイミングは身体からのゴーサイン
こう考えてみると、性格の差の多くは肉体の差として表すことができる。鼻の高さや胃袋の大きさを変えられないように、性格もすぐには変えることはできない。だから,ショートケーキのイチゴは食べたいときに食べれば良いのだ。
アタリマエと言っちゃアタリマエなのだが、これが「心」という目に見えないものが決めたものではなく、37兆個の細胞の「合意」から生じたものだと考えると、真逆の選択をする相手のことも少しは許せるのではないだろうか。
心の声に従うのも良いが、これからの時代、身体の声に耳を傾けるのも大事なことなのではないだろうか。
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