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卒業制作にあたっての振り返り

こんにちは。この度、多摩美術大学卒業・修了制作展2020に作品を出展します。それにあたり、学生のうちに制作した作品の振り返りと展示に向けて制作している作品について、自分の記録のために少し書こうと思います。


入学後に見つけた自分の創作媒体について

統合デザイン学科は様々なジャンルのデザインを幅広く学べるから、自分が胸を張って得意と言えるものができるだろうと思い、デザインが本気で好きかどうか曖昧な状態で入学しました。

4年間を通して、私がモノを作ることが好きなのではなく、モノを通した『体験』を作り、他者に共有することが好きであることがわかりました。


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『小鳥の視点』

大学3年生になる前の春休みに友人たちと開いたグループ展で展示した作品。
鳥小屋の中に鏡が仕組まれており、中を覗き込むと覗き込んだ自分自身の目が映り、小鳥が目にしている人間のスケールを体験できる。

このグループ展を開いた時に、私のやりたい方向性は決まりつつあったと思う。


デザインの基礎を横断的に叩き込まれる最初の2年間は、徹底的にモノと向き合います。
色の組み合わせの効果、展開図の描き方、スケッチ能力などモノを作るための技術を課題で培ってきました。
この時点では、指導教員の求める「答え」を出さなければという感覚が自分の中にはありました。

しかし、座学や大学の図書館の書籍を読んでいるうちに、モノのためにデザインがあるわけではなく、人間がストレスのない心地いい『体験』をするためにデザインとモノ作りがあるのだと考えました。

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『Magnifying glass』
iPadを黒い板に見立てて、虫眼鏡で焼いているように見せるインスタレーション作品。
高校時代にやっていたファイヤーパフォーマンスで、緑の芝生は燃えないという知識を身につけたおかげで、芝生の上で黒い紙を燃やし撮影をすることができた。


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『The full split』
ボタンを押した強さで、画面内の女の人が開脚する装置。押す人も頑張らないと、開脚する人も頑張らない。
最初は自分で開脚をして素材にしようと思ったが、股関節から変な音がして断念。他学科の身体能力の高い人にやってもらった。


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『Pellot』
指先で瓶の底まで拭って食べてしまう行為を、品良くするために制作した指につけるカトラリー。
講評会でヨーグルトをこのカトラリーで実食したが、指導教員の一人は一度も使用してくれなかった。木を削って男性サイズも用意したのに。


私の制作物は次第に、「どんなモノを作ろう」から、「どんな体験をさせよう」という思考から始まるようになりました。自分ができないことで制作の幅を狭めるのではなく、自分が思いついた「体験」に必要な技術や知識を制作する度に習得するように努めています。


今回の卒業制作のテーマとそれに至った経緯

今回の卒業制作のテーマは「実感し難い事象を体感できるように顕在化すること」です。

例えば、世界で5秒に1人の子供が餓死している等の想像し難いが実際に起きている事象を、私たちが体感できるようになったらおもしろいのではないかと思い試作を重ねてきました。

映像やプロダクトなどあらゆるメディアで試した結果、スマートフォンの機能に着目しました。
携帯電話が発明されたことによって、遠くの場所で起きている出来事をリアルタイムで知れるようになり、会ったことのない人でもスマートフォン上でコミュニケーションがとれることで身近な存在に感じられるようになりました。

スマートフォンが縮めた距離なら、遠すぎて体感できない事象でも顕在化できるのではないかと思い、卒業制作では目的のために、慣れないプログラミングを手段として使うことにしました。


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途中段階の卒業制作。
3部作になる予定である。


卒制を経てこれからどうしたいか

卒業後も、どんな形であれ人々に面白いと思ってもらえる「体験」を提供する側の人間でいたいです。
「私って何が好きなんだっけ」「なんでこの仕事をしているんだろう」と思い悩んだときに、今回制作している卒業制作が、私のモノづくりに従事する原動力を思い出させてくれれば嬉しいです。

最後に

設立されたばかの統合デザイン学科は、教員も学生も意欲的で行動力ある人だらけです。
4年間で成長してきた学友たちをたくさん見てきましたし、そんな人たちに感化されて私自身も少なからず成長できたと思います。

多摩美術大学統合デザイン学科卒業・修了制作展2020公式サイト
※展示は終了しましたが、制作した作品はこちらからご覧いただけます。