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”越境”して届ける沖縄の地域資源    価値の本質を見定め新時代を築く

バトンズ第7弾は、漫才コンビ「しんとすけ」の芸人であり芸能事務所 株式会社オリジンlil(リル)代表取締役の首里のすけさんをお迎えしました。1996年に前代表が創業したオリジン・コーポレーションを継承し2024年4月11日に法人化。東京支部・ 石垣支部を発足し、沖縄の芸人をはじめとするエンタメ人材の活躍の場を広げています。また、他業種とのコラボレーションにも着手し、エリア拡大にとどまらない”越境”に挑戦中。事業領域は全く違えど、地域資源にテクノロジーをかけ合わせて事業を展開するバガスアップサイクルとの共通点が多く見つかる対談となりました。

小渡
突然ですが、サトウキビは世界で一番たくさんつくられている農産物で、沖縄では農家さんの二人に一人がサトウキビを育てていることはご存じでしょうか?

首里のすけ
えー!イメージよりかなり多いですね。

小渡
はい。実はサトウキビは沖縄の基幹農作物です。バガスアップサイクルは、このサトウキビ産業をアパレル(かりゆしウェア)産業と観光産業のマーケットにつないでビジネスをつくっています。

サトウキビを加工する過程で1-3割くらいがサトウキビの搾りかすになって残る。これがバガスです。製糖工場はボイラーで動いていて、バガスはこのボイラーの燃料になっています。ところが、全部は使い切れない。1月〜3月の製糖期が終わっても残ったバガスは破棄するしかなく、せっかくサトウキビが吸収したCO2の放出と経済的なコストがかかっています。私たちバガスアップサイクルは、この余剰分が存在するバガスを活用して、かりゆしウェアや沖縄観光の付加価値向上を微力ながらお手伝いしているんです。

首里のすけ
沖縄の芸人も需要に対して供給がはるかに多く、余剰が存在しています(笑)
2023年に、M1グランプリの応募者が過去最高となる8500組に達しました。一方、沖縄のO1グランプリの過去最多応募者数は120組。この数から推定できる人口に対する芸人比率が明らかに高い。みんな能力が高くて面白い人がいっぱいいますし、テレビをつけてもラジオをつけても、沖縄芸人が出ている。こんな場所は、地方ではまずありません。それでも、供給過多です。完全に!(笑)。沖縄芸人は、県民に広く浸透した一芸披露文化が育んだ地域資源だと思うのですが、どうしたら付加価値が上がりますかね。

漫才コンビ「しんとすけ」の芸人であり
芸能事務所 株式会社オリジンlil(リル)代表取締役 首里のすけさん

小渡
僕らもまだまだ模索しているところですが、「循環経済の重視」という世界的な潮流に乗りながら、沖縄を起点にしてさまざまな資源や技術をつなぎ、他のどこもやっていないくらい作り込んだサプライチェーン全体で世界観を表現しています。それが伝わって、今は沖縄観光コンベンションビューロー様をはじめ、JTB様やHIS沖縄様などの旅行会社が団体旅行や報奨旅行を受け入れるときのオプションとしてお客様に薦めていただいています。皆でかりゆしウェアを着用して一体感を高めたりSDGsについて学べる推しアイテムとなっています。おかげさまで、スケールは小さいながらも右肩上がり、倍々ゲームで利用着数が増えています。

Bagasse UPCYCLEのかりゆしウェアレンタルサービスのこだわりは、沖縄ならではのサトウキビ由来バガス糸を使っていること。沖縄の伝統工芸「紅型」の作家さんや、県出身デザイナー・イラストレーターさんによるデザインを特徴の一つとしていること。沖縄県内の技術者の手で縫製していること。マネタイズのモデルに、"モノ売りモデル"ではなく貸し出す"着用サービス提供モデル"を採用したことで、観光のお客さまが購入しても数回しか着用せずに廃棄してしまうロスを削減していること。その削減度合いを、かりゆしウェアに埋め込んだICタグからスマホで読み込めるプロダクトパスポートで確認できること。寿命を迎えた後は、再びサトウキビ畑に戻すこと。

バガスアップサイクルのサプライチェーンのイメージ

「これだけ手間暇をかけて、誰が得をするんだ?」とツッコミを受けることも少なくないのですが、背景にあるストーリーでモノやサービスを選ぶエシカルな消費者の中には、映画「ザ・トゥルーコスト〜ファストファッション真の代償〜」に描かれているようなアパレル業界の闇が幸福度を下げると捉える層がいらっしゃいます。そういった方々にも自信を持って手渡せるものをつくり上げて提供しているという自負はあります。

首里のすけ
小渡さんのお話を伺っていて、かりゆしウェアを売らずにサービスとして提供することで、新しくモノを生み出すコストをかけずに多くの人がサービスを享受できるという作戦は、とても面白いと思いました。商売の本質的な価値を捉え直すことで付加価値が生まれるんですね。しかもその商売に、農業、工業、ITなど様々なジャンルが組み合わさって一つの世界観になっている。

僕ら芸人の仕事は、水商売ですらない空気商売って言われてまして(笑)「どうもーって」出ていって喋って、笑ってもらってなんぼという不思議な商売をしています。言い換えると「雰囲気をつくる商売」です。最近、この価値をエンタメ領域だけでなく、企業研修などの場に生かせるのではないかと取り組み始めています。従来の、お笑いが好きな人にライブに来てもらって笑ってもらうという以外の領域に進出しているんです。

7月にプレスリリースを出させていただいたのですが、株式会社福地組さんで「地域連携『表現力研修』」と題した社員研修をやらせてもらいました。我々が企業さんに合わせてオーダーメイドでコントと漫才の台本をつくり、劇団員が会社に行って、セリフまわしや喜怒哀楽の表現などを教えるワークショップを提供します。その後、1週間練習してもらって発表するプログラムなのですが、頭のネジを一本外すというか、枠を破るような効果を期待していただいています。

小渡
面白いですね!僕がこの研修の営業をしたくなるくらい面白い。
というのも、僕らが取り組んでいるエシカルやサスティナブルとった概念の先にあるのは、顧客・従業員・取引先といった商売に関わるすべての人、皆がよりよく生きる - ウェルビーイングなんです。

ウェルビーイングとお笑いってすごくリンクすると思う。
経営会議などでも、幹部の皆さんが、難しい顔をして議論が盛り上がらない場面があり、「どうにかならないかな」と感じるところがあります。
同じネタで一緒に笑って、お互いの笑い声を聞きながら楽しむってめちゃくちゃいいコンテンツ。お互いの殻を破りあって、チームが共鳴できそうなイメージが湧きます。

首里のすけ
他にも、東京から税理士さんが100人来沖して行われたDXの研修会で、ど頭10分くらい漫才をさせてもらったこともあります。「空気をほぐしてほしい」というご要望をいただいてのことです。

小渡
漫才のようなアイスブレイクになる要素が入ってこないと作り得ない雰囲気ができそうですね。ビジネスシーンだと、ずっと堅い雰囲気で研修やカンファレンスが進行して、終わってからお酒入ってようやくほぐれて、でもお酒入ったら議論できないというパターンが一般的かと。一番最初に笑って雰囲気を作ってくれたら、その後の展開がまるで違ってきそう。お笑いを活用した研修プランは、ビジネスとしての成長の可能性を感じます。

首里のすけ
先ほど、バガスアップサイクルさんは「循環経済の重視」という世界的な潮流に乗っているというお話をされていましたが、もしかすると我々は「ウェルビーイング」の波に乗っているのでしょうか。

今はもう一つ、ビジネス領域への越境と同時進行で東京に越境しています。6月に、「沖縄お笑いオリジン東京進出記念大同窓会」を開催しました。場所は神奈川県横浜市の鶴見です(笑)。東京進出なのに場所が横浜というボケをかましつつ、ラジオアプリで沖縄ローカルのラジオ番組を聴いている沖縄好きの方が集まってくださり、満員御礼となりました。

120席が完売した


1時間半ライブをやった後は長テーブルを出して2時間半、演者も観客も一緒になって飲みながら、沖縄のローカルTV番組である「ひーぷーホップ」を流して、みんなで番組を見るという催しになりました。

ライブの後は演者も観客もひとつになって大盛り上がり


他にも、月に1回は東京に行って沖縄料理屋さんで沖縄のミュージシャンとコラボしたライブをしたり、高田馬場にあるスタジオでライブをしてパブリックビューイングで流してもらったり。まずは沖縄が好きな人たちに仲良くしてもらったり助けてもらいながら足場をつくろうと動いています。沖縄に来ている日本人が700万人いるって聞いているので、そういう沖縄が好きな人たちに刺さりたい。そうしたら、少なくとも需要が5倍くらいになるはず!と思っています。供給はめっちゃあるので!(笑)

首里のすけ社長と東京進出に挑む沖縄の芸人さんら(ベンビー、Kジャージ、ノーブレーキ、しんとすけ)と、オリジン・コーポレーション時代のOBたち(キャンキャン、ハンジロウ、三日月マンハッタン、ナインボール)


小渡
お話を伺ってきて、沖縄のお笑いの価値の本質は面白くて笑えることはもちろん、「一体感を創出できる」ことにもあるのかもと思いました。

バガスアップサイクルも、今年は価値の本質にもう一歩踏み込んで、新たな取り組みを始めます。詳細はまだご案内出来ませんが、かりゆしウェア・アパレルの無駄をなくす、というテーマの核心に切り込んだプロジェクトが進んでいます。

首里のすけ
すごい。具体的な中身を聞くのが楽しみです!

僕らも、SDGsのコントをつくって学校を回ったり、そういうことも仕掛けていきたいです。人ってなかなか難しい話を聞けないところがあるので、僕らの好感度高く伝える力がお役に立てればと思います。若手芸人にありがちなのが、滑る滑らない以前に漫才やコントで言いたいことが理解されない、という現象なんです(笑)。僕くらいになるともう、ちゃんと伝わった上できれ〜いに滑れます(笑)。それだけ、芸人として技能を磨くと伝える力がつくということなので、他業種のコンテンツを組み合わせて芸にして落とし込むようなことを、沖縄を起点にやっていきたいです。

バガスアップサイクルのBをコラボによる手文字でお届けします。
左から)弊社代表 小渡着用:知念紅型研究所のデザインによる「竹模様にイジュが躍る」、首里のすけさん着用: 知花幸修さんのデザインによる「白地霞枝垂桜cartoon文様」

バトンズ編集部より
「ビジネス領域への越境」と「東京への越境」。2つの越境を同時に進める首里のすけさんのお話からは、お笑いの今よりもっと広い可能性を感じました。なぜ沖縄には芸人が多いのか?という小渡の質問に対して示された「直感で生きている人が多いからでは?」との見立てには、お笑い芸人と経営者の二足のわらじを履いて、稽古場とビジネスシーン、沖縄と東京の間を縦横無尽に駆け抜けるご自身のあり方が反映されているようで。異業種が手を取り合って紡ぐ循環経済の世界観の表現に挑むバトンズにとって、多くの気づきをいただく対談となりました。首里のすけさん、ありがとうございました!

取材:2024年8月

バガスアップサイクルは、沖縄の地場産業である製糖業の過程で発生するサトウキビの搾りかす「バガス」の繊維を活用したかりゆしウェアのシェアリングサービスを展開しています。詳しくは、コーポレートサイトをご覧ください。デザイン一覧および那覇市内各所でのレンタルサービスについてはこちらでご案内しております。