宮崎駿「君たちはどう生きるか」の感想


ネタバレなし感想


とても良かった!!
見たことない映画だった!
「宣伝なしで開けてびっくり」っていう楽しみのできる作品でもあったけど、
多分あらすじ聞いても誰も理解できない作品なのでそこら辺敏感にならなくてもいいように思いますよ!




ネタバレあり感想

リアリズム的な序盤から徐々にヤバくなっていって塔を契機にファンタジーがはじまる展開、マジでびっくりした。はじめて見るすごみがあった。というびっくり感はもちろんだが、全体を通してヤバい作品だった。なにより登場するモチーフが多すぎる!!

モチーフの象徴性だけで映画を作るつもりか?!という激ヤバ作品で、そのモチーフとして「戦中」という時代設定とタイムワープ的なSF設定とセカイ系的なシステムを混ぜ込んでいるのでややこしいややこしい。

しかしその象徴性は何を語るためのものかというと、
・境界を超えて戻る
・エディプスコンプレックス
・自分の世界を持つ

という三点に概ね絞られるのではなかろうか。

境界について


「境界」というのは物語における「日常と非日常」「安全と危険」「この世とあの世」のように隔てる概念のこと。
境界を越えることで物語ははじまり、境界を出て帰ってくるというのが物語の基本パターンで、宮崎駿作品はそれを明確にやる。(千と千尋の湯屋の不気味な楼門とか、ちゃんと行って帰って来る話をやっている)
しかし今回はかなり独特で、境界が入れ子構造になっていっぱいある。
まず塔に入るまで、真人は入ろうとするも二度くらい入れないくだりが入る。入るときも不気味な青鷺の誘い、なんか知ってそうなババアが引き止める、と行ってはならない恐怖のエリアとして塔がしっかり描かれる。ところが入ってからそう立たないうちに塔の床という境界を侵食して「世界」に行っちゃう。つまり第二の境界がすぐに訪れる…と思ったら次はヤバい石の墓の境界を壊して怒られる、と境界だらけなのです。
そのあとも面クリア式のゲームのように脈絡の見えないさまざまな境界守たちを突破していく、境界を越えていく物語になっているわけです。(そのため本作を「冒険活劇」と評するのはちょっと違う気がする)
そして紙垂で囲われた「夏子の産屋」という境界を侵食したことがタブーおかしとして物語のクライマックス的な展開を作ります。
これはもう自覚的におかしなことをやっています!しかしなんなんだ一体。わからんが、やっぱり本作はただの成長譚じゃないってことなんじゃないかな?少年が一皮剥けて成長するんじゃなくて、少年が男になっちゃうズル剥けしちゃう話なんじゃないか…?まあエディプスについてこれより語ります。

エディプスコンプレックス

エディプスコンプレックス、これが物語のテーマと言ってもいいでしょう。
宮崎駿作品のヒロインは常にマザコン的妄想を少女に投射するエディプスコンプレックスの塊だったわけですが、ついに実母そのものを少女にしてヒロインにしちゃった!『大蜘蛛ちゃんフラッシュバック』かよ。

しかもヒミちゃんは子供のなりなのにちゃんと母性をバッチリたくわえてるのとか、やっぱ妄想すぎてキモいよね。

がしかしキモいがゆえによく描けていたと思います。母の喪失、夏子という「偽の母」へのエディプスコンプレックスという二つの母性への哀しみを、美少女になったお母さん、若い姿の老婆を通じて癒していき、夏子との和解がなされるというのは非常にうまくできている作品だと思います。

もう少し丁寧に言うと、真人から夏子への感情の変化は「許し」な気がします。真の母ではないことを許し、父親の女であることを許す…みたいな形で精神の乳臭さがある程度、取れるってことなのかな…?と思う。つまり父を殺すというエディプス的な暴力性じゃなく、幻想世界で成長した結果、大人として親を許すというエディプスコンプレックスの解消を描いているんじゃないか。真人くんはこの後もどっかでずっと母親の幻影追いそうな雰囲気あるけどね。

過保護ぎみの父親がその世界から隔絶されてギャグキャラみたいになっているのとかも含めて、徹底したエディプス的欲望がありますね。

しかし夏子の産屋のくだりはよくわかんなかったな。他者のいちばんパーソナルな部分に踏み込んだってことはまちがいないし、境界でもあるし、出産のケガレ観とかあるんだろうけど、なにかもっと意味をこめてそう。そもそも死んだ妻の妹と結婚ってのも民俗学的な古い風習に基づいてますし、なんか知識が足りてない気がする…。
わからん…とはいえ夏子自身がどういう思いで母になろうと思っているのかはもう少し見せても良かったと思いますね。夏子は死んだ姉の代わりに結婚っていう、とても窮屈な身の上な訳でだからこそ多面性が欲しかった(まあそういう女性の描写ができないからパヤオはパヤオなんだ)。

そんなことよりヒミちゃんかわいかったのが俺は嬉しかった。

「世界」ってなんだったんだ


さて「世界」について。字幕が「セカイ」になっててもおかしくねえぞ、って感じの唐突なSF設定。
台詞も追えてないし、よくわからないのだけど、見ながら思ったことを書いてみます。

最初の火事のシーンで「風立ちぬ2」かな?って思ったんですよ。
で実際そういう流れはある気がする。
風立ちぬの序盤、少年期の二郎が夢で乗る飛行機に「君るか」の青鷺はにているし、父親が軍需工場の人で、キャノピーを見て主人公が美しいと言うのとか、なんか示唆的だし、テーマ的に通底する部分も多いと思う。

 風立ちぬっていうのは兵器設計家という職業の矛盾葛藤を通じてアニメーター宮崎駿が自分の人生を語っているような作品ととれます。
 そして作中内で「ピラミッドのある世界」といった例えを通じて、兵器設計者となったかつての飛行機少年の業を肯定しちゃう。
それは宮崎駿という、不世出のやや独善的な天才の、遺言めいた本音の作家論としてすごかった。
 けど実際のところ人間はふつう国家の暴力に巻き込まれるべきじゃない。実際の現実では権力者の語る世界観に呑まれて、ブルジョワの都合の良い尖兵として国会を襲ったりしちゃうような問題のほうが顕著。それも「美しい飛行機が作りたい」的な論理で正当化しちゃえるの?違うよね。
 そこで本作は作家論とかではなく近代市民として「君たちはどう生きるか」という話をさせてください!ということなんだと思う。
つまり、戦争のようなことが起きる地獄じみた現実に対してどう個人は向き合うべきか?という出発点から発して、
芸術至上な理想的作家論が「風立ちぬ」、
少年の成長を起点に語った作品が本作じゃないかな〜?と思いました。

そして話を戻すと、「風立ちぬ」の戦闘機設計者と映画監督の違いは何かと言えば、物語世界を抱えていることだ。
本作の世界は単なる設定資料集的なものではなく、インコ大王とかもろもろの物語を内包する舞台としてある。多分そこに意味があるんじゃないかな?

つまり「戦争という大きな物語に勝てる世界を持て」というメッセージであると同時に世界観の魅せ手としての自分語りにもなっているのではないか?という風に感じたのです。

ということで大叔父の作った世界のおかげで真人は救われるんだけど、その閉じこもった世界自体は否定して壊しちゃう(壊れちゃう)ところがややこしい。雑に言えば内向きに閉じこもってもダメってこなのかもしれないが、それにしては対決の構造もないし、台詞やモチーフが深淵すぎたよなあ、
やっぱ新海作品とか見て、「おれが本物のセカイ系を見せてやる!」とでも思ったのかな?
正直言うとそのあたりのシーンまでの情報量が多すぎて疲れちゃってしっかり受け取れなかったヨ…

「友達を見つけます!」とかなんか作文みたいなこと言うくだり、さすがにクサいなと思ったことしか覚えてねえ。まあタイトル聞いたときは全編そんなんじゃないかと思ったので、このくらいは許したろう。

主人公の設定について


風立ちぬ同様、またしてもブルジョワのガキ。ブルジョワだから勤労奉仕しなくていいし、小国民的なものにならずにすんで、30年代のボンボンの教養として「君たちはどう生きるか」を読めちゃう……その結果として世界を持てるみたいな話であることを考えると、ホルスから千尋あたりまでやってきた庶民の労働は美しい!みたいな左翼的労働観との乖離が宮崎ファンとしては気になる。
人間の自我について、地味にシビアな認識を提示している気がする。
まあそんなんじゃなく、風立ちぬも本作も一種の自分語りだからブルジョアになるってだけかも。

撮影処理


今回なんかアフターエフェクツをゴリゴリつかってましたよね(違うツールだったらすまん)
キャラの影とかはいつも通りのベタ塗りなのでアフエクっぽい透明なエフェクトだけ妙に浮いている印象だったな。やるんならもうちょっと色んな効果つけてもいいんじゃないか?
あと波のシーン、波しぶきの作画が細かくてハヤオじゃない!って思った。そう言う感じにエフェクト周りを中心に結構宮崎駿じゃないテイストで描かれた絵が多く入ってて面白かったね。

総評


テーマ的なことはさておいて、俺は母親が少女として登場する作品がかなり好きなので、それがちゃんと嬉しかったし、大量のモチーフがうじゃうじゃ蠢くのもよかった。
しかし宮崎駿(82)のバイタリティとリビドーにはほとほと感服いたす。やっぱりあと一本くらい作ってくれ。

あとED、また米津玄師のこういう曲かよ…って思ったけどユーミン流されるよりはマシなのでヨシ!

個別好きなシーン


・ヒミちゃんかわいい、アリスみたいな服とか、1920年代のお嬢様って感じもしっかり出ててとても良いキャラデザと演技(作画のこと)だった

・真人や夏子に比べてババアの顔がデカすぎて妖怪かと思ったら普通に人間だとわかるシーン

・最初のカエルに覆われるところ

・序盤の鷺関連全部

・真人たちを食べようとしたインコ達がめっちゃ楽しそうに料理してるところ

・わらわらがペリカンに食われるところ(ピクミンのへビクイワシ戦おもいだした)

・死にかけのペリカンと対話するところ(よくこの映画PG12じゃなかったなと思った)

・階段を切り落とし→残りの破片も蹴落とすインコ大王のバキバキの作画(無駄にかっこよすぎ)

・キムタクのお父さん役はバカっぽくてすごく合ってると思った

・積み木を「トン…」ってやって「これで世界は1日は持つ…」「たった1日ですか?!」みたいなやりとり。意味わかんねーって笑っちゃったけど、なんか意味とか超えて良かった。

・なぜかプロデューサーサイドにクレジットされてる宮崎吾朗

・響けユーフォニアムの新作の予告(なぜか2回流れた)


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