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中国大陸上陸

上海の街へ

1994年3月11日
鑑真号乗船から4日目の朝。
僕はついに中国大陸に到達した。

これから始まる旅に心浮かれてはいるものの、
同乗者たちとの会話以外に特にすることのない船の上、見える景色は360度ぐるりと水平線。
幸い天気は良かったので船酔いに悩まされることはなかったけれども、
この環境での3日間はなかなかに長い。

食傷気味になっていた4日目の早朝
二等船室の雑魚寝の床で目を覚ますと、
何か様子がおかしい。
穏やかな海とはいえ少なからず感じていた船の揺れが消えている。
これはいよいよ上陸か、
と飛び起きて甲板に走る。


3日間水平線しか見ることのなかった景色は一転、
朝焼けに染まる工業地帯が目の前に広がる。

他のみんなも異変に気づき次々に甲板に出てくる。
「ついに来た」とこれまで感じたことのないような興奮に包まれる。

ところが・・・だ。
そこからがまた長かった。
上海は地図で見ると海に面した街に見えるけれども、
実際は結構内陸に入り込んでいるのだ。

出港時の横浜港なら、岸壁を離れるとすぐに海、という感じだったのだが、
僕たちを乗せた船はその後昼近くまでかけて、
長江の河口から黄浦江という支流を経て
上海港に向け永遠と遡上することになる。

今ならiphoneを使って現在位置を調べられるけれども、
当時の僕たちにその術はなく、
まだかまだかと甲板と船室を行ったり来たりし続けた。

とはいえ、じれる思いにやきもきしながらも、
時間とともに工業地帯は徐々に人の住む街の姿に変わり、その景色に僕は興奮していた。

それにしても、中国大陸の大きいこと、
何時間もかけて川を登っているのに、河幅はいつまでも大きいままだ。
実は朝方甲板に出た時も、甲板の右側に陸地が見えたけれど、
対岸は見えなかったので、てっきり海岸沿いを航行しているのだと思っていた。
ただすぐに、ひどく濁った水の色と、下流に向かって流れる水の流れで、
そこが海ではなく川だと気がついたのだ。

結局、その川幅は上海港に着いてもなお、
容易に大型客船がすれ違うに十分な広さのままで、中国大陸の大きさを改めて実感した

上海港に着いた僕たちは、船内でビザを発行してもらい、その日の昼過ぎ、4日間の船旅を終えて、ようやく中国の街に足を踏み入れた。

いよいよ僕の初めての海外一人旅が始まるのだ。


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