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[#18] iPodから考えるFinderの未来

初出: MacPower 2001年 12月号

アップルのMP3プレーヤー「iPod」が発表になった。いい。まだ触っていないけど、操作系はシンプルそうだし、FireWire接続で高速にデータを転送できるのがエライ。そして何よりも、曲をアルバムの単位でまとめられる点がうれしい。

世にはたくさんの種類のMP3プレーヤーが出回っている。それらのほとんどは、CDの曲を単に好みの順番で詰め込むことができるだけ。でもCDの曲は普通、そのままアルバム単位で楽しむのではないか?マイ・セレクションを作ってカーステレオで聴く時代は、とっくに終わったように思う。家でも外でもアルバム単位。これが、ごく標準的な音楽の楽しみ方だろう。

MP3プレーヤーでメディアを入れ替えせずに、曲をアルバム単位で楽しむためには記憶媒体の容量を増やす必要がある。iPodは、容量5GBのハードディスクを内蔵しているのでこの点を軽くクリアする。しかし、ディスクの大容量化だけでは十分ではない。アルバムやアーティストの情報に簡単にアクセスできないと、大量の曲も宝の持ち腐れになる。数十曲程度であれば手動で管理することが可能だが、1000曲もあったら人間の手ではとても管理できないことは明らかだ。

iPodが本当に優れているのは、iTunes譲りの曲名のブラウジング機能やiTunesとの「プレイリスト」の共有機能だ。これらは本当に画期的で、ソフトメーカーが作ったハードの強みと言える。こうした機能を実現するには何が必要か?iPodの記憶媒体はハードディスクなので、その中にファイルシステムを持っていることは想像できる。だがそれだけではなく、何らかのデータベースシステムを搭載しているはずなのだ。これなしに、曲名をブラウジングしたりプレイリストを共有するのは無理だ。

データベースシステムが存在することによって、曲へのアクセスに柔軟性が生まれる。ファイルシステムだけでもフォルダーの構造を階層化することが可能だが、それでは決まった表示しか実現できない。データベースがあってはじめて、曲名からでもアルバム名からでも、そしてアーティスト名からでも再生する曲を探すことが可能なわけだ。情報家電だ何だと騒がれる昨今だが、情報をさまざまに加工して表示するこういった手段を持つiPodが登場することによって「あー、ホントの情報家電と言えるものが生まれてきたのかなぁ」という実感がわく。

さて、半年ほど前の本連載で、データベースをシステムの中心に据えたOSの話をしたことを覚えているだろうか。実はiTunesはアプリケーションではあっても、データベースを駆使したOSのあり方をある意味で実現していると言える。iPodと同じようにiTunesも、ファイルシステムとデータベースシステムで曲を管理している。実際、Macの「書類」フォルダーをのぞいてみると、iTunesが使うデータが保存されていることがわかる。だがユーザーが普段iTunesを使うときには、曲のファイルがハードディスクのどこにあるのかをあまり気にしない。なぜなら、iTunesでは曲を簡単に見つけて再生できるからだ。

つまりiTunesは、曲を探すためのブラウザーとして機能している。iTunesのデータベースに収められた情報は、ユーザーが目的の曲を見つけるためにブラウズする際に柔軟に使われる。この考え方をOSにもう少し融合させると、Mac OS XのFinderが目指すべき方向性が見えてくると思う。

以前にも述べたが、Mac OS XのFinderはモノを探すためのブラウザーになってしまった。しかも、単なるファイルシステム用のブラウザーだ。Mac OS XのFinderはどのファイルも特別に扱わず、中身が何であろうと関係なく、ただ単純にディレクトリー構造を閲覧できるだけ。ブラウザーならブラウザーなりに、Mac OS XのFinderはもっと進化してほしい。ファイルの中身や付加情報などをフルに活用して、ユーザーが見つけたいファイルを素早く探し出せるようになってほしいのだ。

例えば音楽ファイルの場合にはアーティストやアルバム名、曲の長さ。画像だったら、解像度や撮影場所、撮影日時。ゲームの対戦データなら、レベルや所持品など。つまり中身や付加情報とは、それぞれのファイルに固有の情報のことだ。Finderがこうした情報をもっと有効に利用できるようになれば、ブラウザーとしての活躍の場が増えると思う。Finderをプラグイン構造で拡張可能にして、個々のアプリケーションがファイルの中身から情報を好きに取り出せるようにするのだ。

ファイルに固有の情報を扱うブラウザーを支えるインフラがデータベースだ。OSレベルでデータベースの機能が使えると、アプリケーションがそれを独自に実装する必要がなくなる。デベロッパーが、アプリケーションの機能の開発に集中できるようになるためにも、ぜひともOSレベルでデータベースをサポートしてほしい。Mac OS XはUNIXペースなんだし、できるでしょ。「Apache [*1]」が組み込まれているんだから、「MySQL [*2]」も入れてほしいぞ。

ところで、OSがデータベース機能を装備すると、ファイル固有の情報が増えてファイル名が重要ではなくなる可能性がある。ファイルを名前で区別せず、ファイル名を表示する必要だってなくなるかもしれない。そうなれば、先月号で話した拡張子の悲劇ももう気にならなくなるぞ(笑)。ファイル名も付加情報の1つで、付ける/付けないをオプションで決められるとなると……。んー、そんな時代が来るとマジに面白いと思うのだが。あくまで、オレの思いつきのレベルだけどね。できそうな気もするけど、無理かなぁ。

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/)
シエスタウェア代表取締役画期的な新しい電子デバイスは、予想どおり Newtonの復活ではなかったですな(笑)。わかっていても、心のどこかで期待しちゃうんだよなー。いつか復活してほしい。

[*1] Apache - 言わずと知れた世界標準のWebサーバー。
[*2] MySQL - 処理速度が高速な点が自慢のデータベースエンジン。トランザクション処理などの複雑な機能は備えていないが、速度はそのぶん速い。アプリケーションからの使用には、必要にして十分すぎるほどの機能を持っている。

編集・三村晋一

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