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[#21] 1年遅れのファースト・インプレッション

初出: MacPower 2002年 3月号

先月の宣言どおりに、OS X用のプログラムの開発を始めることにした。これまで、ほかのマシンはともかくメインマシンで頑張ってMac OS 9を使ってきたが、プログラムを作るとなるとまずはその環境を知る必要がある。いや、普通のユーザーよりも知り尽くさなくてはいけない。

例えば仕事であまりなじみがない OS[*1]向けにコードを書いたりすると、ダイアログを1つ表示するだけのシンプルなアプリケーションでも、こちらがOSを知り尽くしていないため何かユーザーに違和感を感じさせてしまう。一般的にユーザーはその違和感を言葉にはできないので、開発側がそうした問題をくみ取らなければならない。

ユーザーを大事にすることはOSを大切にすることにつながり、そうなるためにはOSに敬意を払うことが必要だ。インターフェースのガイドラインを読むだけでは理解できないこともたくさんある。自らがユーザーとなり実際に使い、その環境の作法や根底に流れる哲学などを感じ取って初めて自分の知識になる。まずはOSを使い倒す。これがプログラム制作の第一歩だと思う。

そういう意味では、最近アップルがOS Xのデモのときに流すビデオで気になることがある。OS XがUNIXベースであることを強調するシーンで、UNIXプログラマーが「びっくりしたよ。ある朝、目が覚めたら僕はMacプログラマーになってたんだよ」てなことを言うのだ。要は、UNIXとMac OS Xは互換性があるので、UNIXのソフトを移植するのはそれだけ簡単だということなんだろうが、オレはそこで、「おいおいちょっと待てよ。ちゃんと移植しろよ」と言いたい。

もちろんこの話は誇張されていて、当のUNIXプログラマーも言葉どおりのことを思っているわけではないだろう。でも、Macのことをさほど考えずに移植されているソフトが多いことは容易に想像できる。過去に前例がたくさんあるからだ。WindowsからMac OSに移植されたアプリを探せば、そういったものが簡単に見つけられる。見た目はMac用だけど、使うと何か違う。誰もがそんなアプリ[*2]に出会ったことあるだろう。

というわけで、同じMac OSの名が付いているとはいえOS Xはこれまで使ってきたMac OSとは異なる環境だ。まずはなじむことが絶対に必要で、そのためにはメインマシンで使い倒す。オレはそう決意したわけなのだ。インストールしてそろそろ1ヶ月、昔ながらのMacの流儀が通用する部分とまったく新しく考えなくちゃいけない部分などが、おぼろげにわかるようになってきた。しかし1つだけ言えるのは、Mac OS Xのインターフェース哲学はまだかなり曖昧で定まっていないということだ。アップル製のアプリでさえ、どうもふらついている。筋が一本通っているとは感じられないのだ。

実はここに、先のビデオとの矛盾がある。ほかの環境から入ってくるユーザー、つまりUNIX 使いの人たちや元OPENSTEP用ソフトのプログラマーなどに対してMac OSに従えと言いつつ、当のMac OSの流儀が定まっていない。これでは、彼らは従いようがないということだ。

でも、この矛盾はアップルの責任というより、実は自分も含めたMac OS プログラマー全体の責任だと感じる。OSの流儀や哲学はメーカーのみによって作られるわけではなく、ユーザーや開発者、そのコミュニティーが作り出していくものだ。そして開発者にできるのは、優れたソフトを開発して世に送り出すこと。しかし実際は、安易にCarbon化したがために細かい部分でOS Xにあまり配慮していないソフトも少なくない[*3]。

ましてオレなどは、Mac OS 9にしがみついてきたプログラマーとして申し訳ないとも思う。ゴメンなさい。OS Xに移行しなかった理由は、これまでの本連載を読めば理解してもらえると思うが、これからは、頑張っていいソフトを作っていくので勘弁してください。

さて先の矛盾に関してだが、オレはやはりほかの環境から来た開発者にもMac OSの流儀に従ってもらいたいという気持ちが強い。ただしそれは昔のMac OSだ。Mac OS XでもなくClassic環境でもなく、起動時からMac OS 9のマシンをちゃんと熱って使って理解してもらいたい。MacユーザーにはMac OS 9を使っていた人が多いのだから。それを基に、バスの考え方、勝手に付く拡張子への違和感、ハードディスクの使い方、ドラッグ&ドロップの反応の仕方、何を好むのか、何をうざったく思うのか - を感じてほしい。
と同時に、MacユーザーもMac開発者も考え方を変えていく[*4] 必要があるのだろう。OS Xにおけるインターフェース作法の確立は、旧Mac OS以来のユーザーとOS Xからのユーザーの共同作業であるはずだ。両者がお互いに歩み寄り、譲るところと譲れないところをきちんと話し合う機会を作っていきたい。

先日のサンフランシスコのエキスポで、「OmniWeb」を開発しているオムニ・グループの人と彼らのブースで話をする機会があった。ここのソフトはとてもいい。OmniWebだけでなく、アウトラインプロセッサーの「OmniOutliner」や図表作成ソフトの「OmniGraffle」なども、単機能ながらツボを押さえた実に好感が持てる作りになっている。しかし、もともとがOPENSTEP用のアプリだったせいか「何か違う」と感じる部分が少しある。そんな違和感を何とか伝えたくて、ブースに足を延ばしたのだ。

彼らはこうした意見はよく耳にするけど、実感としてはあまりわかっていないようだ。「あぁ、面倒でもちゃんと伝えていかないといけないなぁ」と思った。実際に話してみてよかった。まずは交流が大事なのだ。

というわけで、次回はこういった開発者の混乱の元凶とも言えるFinderの話。ええ、またです(笑)。

バスケ(http://www.kanshin.com/basuke/)シエスタウェア代表取締役
最近ネットの仕事がほとんどなので、OS Xに移行していてとても助かる。OS Xのネットの環境は圧倒的に安定していて速い。しかも、サーバーと同じ実行環境をPowerBookの中に構築可能で、飛行機の中ででもデバッグができるのだから。まぁ、特殊な使い方だな。

[*1] あまりなじみがないOS - Windowsのことです(笑)。
[*2] そんなアプリ - 見た目も全然違う、話にならないものまであります。
[*3] 少なくない - 逆に「DragThing」や「Coela」など優れたソフトもたくさん。
[*4] 考え方を変えていく - はい、反省してますって(笑)。ごめんなさい。

編集・三村晋一

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