ち、ちかん!
あれは私が短大生だった夏のこと。
毎朝ギリギリセーフで電車に飛び乗っていた。必然的に、いつも改札を抜けてすぐのドアから乗ることになってしまう。
普通電車なので、そんなに混んでいなかった。私は汗を拭きながら、冷房の風が当たるところを捜して、入口からジワジワと移動した。そしてやっと一息つく。
問題は毎朝気がつくと横に立っているおじさんだ。
見るのがイヤだから横目でチラッと見る程度だが、スーツ姿の平凡なサラリーマンであった。
年は40代半ばくらいと思われる。どこにでも普通にいそうな感じの、印象の薄い人だ。
彼はほとんど毎朝、私の横にやってきて、耳元で
「今日のパンツは何色?」
必ずそう聞いてくる。ニヤニヤしながら。(たぶん)
私は今朝もなんとか電車に間に合ったことを感謝していた。そして、そのときになってやっと
「げっ!」っとおじさんのことを思い出した。
「あぁ、今日もまたここに乗ってしまった。性懲りもなく。 きっとこのオッサンは私が嫌がってるなんて思ってないんやろなー、それどころか喜んでると思われてるかも。」と、自分に腹が立つ。
おじさんはいろんなことを聞いてくる?
「ブラジャーとパンツはお揃い?」
「サイズは?」
「好きな色は?」
触られることはなかったが、これも痴漢の一種だよね。
私は一切おじさんを無視して、窓の外を見ながら、次の駅で何とかオッサンから離れる努力をしていた。
明日こそ、ゆとりを持って違うドアから乗ろう!と反省した。
そんな繰り返しであった。
あれは就活で忙しいある日のことだ。
私は大阪のオフィス街を慣れないスーツにパンプスで、汗を拭きながら面接に向かっていた。
向こうから見慣れたスーツ姿のおじさんが歩いて来た。その人はニコニコと私に
「こんにちは」と言った。
私は以前どこかの会社で会った人だと思い、笑顔を作りながら
「こんにちは!暑いですね。」と答えた。
「暑い中、就活ご苦労様。頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
と会話してすれ違った。
知ってる人やけど、どこの会社の人やったかな?、と考えたがわからなかった。
ところが...
次の朝、またバタバタと電車に飛び乗っると、
「おはよう。昨日はお疲れ様。」と言いながら近づいてくる人がいた。ふと見ると、あれ?昨日道ですれ違ったあの人..,
**ぎゃー!! **
あぁ!いつもの痴漢のオッサンやん!何で挨拶してしまってんやろ!アホあほ!
私は一生の不覚だったとモノすごく反省し、自分のアホさを呪った。
それから私は一本早い電車を目指して、いっそう必死に駅に滑り込むハメになった。
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