見出し画像

なぜすすった麺が口から出る光景は面白いのか?


最近バラエティ番組で観た、『激すっぱ麺』という罰ゲーム。
その名の通り、すっぱい味の汁につけた麺を食べるというものだ。その番組では、酸っぱい麺を一気にすすり、勢いよく全部口から出していた。

相当爆笑した。

もともとこの手の「口からものが出てしまう」芸に弱いのだが、今回は特に笑った。
一般的に「面白い」と思われているのかは知らない。多分「汚い」と少し不快に感じる人もいることだろうが、個人的にはかなりツボである。
そこで、なぜ麺を勢いよくすすって吐き出す光景があんなに面白いのか、考えてみた。

笑いの構造は、「緊張と緩和」であるということは、聞いたことのある人も多いのではないだろうか。

かの有名な哲学者のカントも、「笑いは緊張の緩和によって起こる」という言葉を遺している。生物学的にも、「敵が去ったときの気のゆるみが笑いの起源だ」とする説もあるようだ。

というわけで、この「緊張と緩和」という観点から「すすった麺が口から出る」という現象を考えてみようと思う。

まず、「面白さ」は「緊張度の落差」に比例するとしよう。
つまり、緊張度がより高い状態から、より低い状態に移動することが必要だということになる。
面白いと感じるのは麺を吐き出した瞬間なので、麺を吐き出すという行為の前後で大きな緊張度の遷移が起こっているはずだ。
そこで、「麺をすするまで(緊張)」と、「麺を吐き出す瞬間(緩和)」の2つの状態に分け、それぞれの緊張度について考えてみよう。


まず「麺をすするまで」だが、ここでどのような緊張が生じているのだろうか。

具体的な緊張の内容としては、どんなリアクションを示すのかという「心配」「不安」「期待」だろう。そんなものを食べて大丈夫なのか、どんなことになってしまうのかという感情だ。

そしてこれらの感情を増長させる要因として、

・『激すっぱ麺』というネーミングによる煽り
・すっぱいものを口に入れたときの感覚の想像の容易さ
・一気にすするという行為の勢いの良さ

に着目した。

「ネーミングによる煽り」は、まあ前フリのようなもので、イメージしやすいかと思う。『激すっぱ麺』という名前だけで、あ、めちゃめちゃすっぱいんだなという印象が付き、緊張が高まる。

次に「すっぱさの想像しやすさ」だが、おそらく誰もが何かを食べて「すっぱ!」と感じる体験をしたことがあるはずだ。その自身の経験が想起されることで、あれ食って大丈夫なのか?という「心配」が強まりやすくなる。

そして「すするという行為の勢いの良さ」だが、ちびちび少しずつ口に運ぶよりも、そんな一気にいって大丈夫かという「心配」や、リアクションへの「期待」が強まる。


次に、「麺を吐き出す瞬間」を考える。
ここではどこまで緊張度を引き下げられるかがポイントになってくる。

具体的な緩和の内容としては、予想に反して全部戻してしまうという「裏切り」ではないだろうか。
すすりあげるまでは、食べた人が「その味に対してどんなコメントや表情をするのか」というところに注目し、身構えている。
その予想・期待を「吐き出す」という行為によって見事に裏切るのである。

そして緊張度の引き下げを強める要因としては、

・本来「適度に」タブー視されている行為であること
・本人の意思に反して麺が出ること
・声にならないリバース音

が挙げられるのではないだろうか。

口からものを吐き出すという行為は、本来であれば汚いこと、やってはいけないことの部類だ。しかし、そんなタブー視されている行為だからこそ、見ている側としては心が緩んでしまう。
ただ、「適度に」というところは非常に大事で、ここでやり過ぎてしまうと不快感が勝り、ある種の緊張状態に陥ってしまう。
例えば、叫びながら服をバリバリ脱ぎ捨てて全裸になったら、見ている側は多分引く。
「吐き出す」は、見るに耐える、適度に汚い行為なのだ。

本人の意思に反して起きているということも重要だと思う。本人がまったく事象をコントロールできていない様は、見ていて気が緩んでしまうものだ。
ほっしゃん。の有名な芸に「うどんを鼻から入れて口から出す」がある。とても好きなのだが、それよりも激すっぱ麺を面白いと感じたのは、本人の意図通りに事象が起きているという点が原因ではないかと思っている。

リバース音は、「吐き出す」と同様に適度なタブーであると同時に、その音声そのものに意味がないという緩さがある。


以上が、すすった麺を口から出す行為に対する自分なりの考察だ。

「麺をすすって、口から出す」。とてもシンプルな一瞬のできごとだが、いろいろな要素が絡み合って笑いになっている。

もし誰かと麺を食べに行く機会があって、目先の笑いを取りたいという際には、是非やってみてください。


▼自己紹介です。興味のある方は是非!


ここまで読んでくださりありがとうございます。投げ銭はいりません!サポートボタンよりも、下にある鳥のマークや"f"のマークをご覧ください。こちらから感想をシェアしてくださると嬉しいです!