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美しき愚かものたちのタブロー

 自室監禁生活4日目は読書三昧でした。以前から読みたかった原田マハさんの史実に基づいた作品です。

 印象派などの西洋美術に魅入られた男たちの情熱が描かれています。上野の国立西洋美術館松方コレクション秘話です。まだ日本に美術館がない戦前、商売しか頭にない松方がイギリスで出会った一枚の絵に衝撃を受けて、絵のもつ力に魅了されていきます。
 「絵は分からん。」が松方の口癖ですが、心で「分かっている」彼は、美術家たちの言葉に突き動かされ、不鮮明なコピーでしか西洋美術に触れられない若者たちのために、日本に美術館を作ることを目標とします。財力に任せ、パリで有名になる程美術を買い漁ります。

 主人公は、その松方に信頼された青年美術史家、田代です。モデルが実在しますが、この人だけが仮名で、事実にはない行動を物語の中でとっているそうです。松方が信頼した美術コレクションのアドバイザーであり、敗戦後、敵国の財産没収との名目の元、フランスのものとなった大量の松方コレクション返還に尽力した人です。

 松方の部下で戦前から戦後までフランスで松方コレクションを守り抜いた日置という人物がいます。極貧の中、敵国で、フランス人妻と大量のコレクションと共に田舎で身を潜めます。私はこの人が不憫でなりません。最も歴史に翻弄された人なのではないでしょうか。

 松方の豪快さと人物の大きさと情熱が、田代と日置の人生を動かします。

 戦時下に芸術を守り抜いた人たち。三人の行動基準は、絵のため、人のためなのです。その大義に背筋が伸びる思いです。無邪気に「すごいすごい💕」と鑑賞していた西洋美術館の絵に、このような歴史があったとは、大きな驚きと深い感銘を受けました。そして、若い頃不思議に思っていた、西洋美術館の建築がフランス人であったことも腑に落ちました。それこそが、この国立美術館設立に関わった人々の想いの表れだと思います。

 何度も言葉に立ち止まりながら、検索しながら読み進めた『美しき愚かものたちのタブロー』でした。

 パリに行きたい。




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