『UNDERTALE』をやってRPGについて考えた

 長らく手をつけていなかった『UNDERTALE』をやりました。

(※以下、ネタバレはないように書いたつもりですが、まっさらな気持ちでプレイしたい人は読まないほうがいいかもしれません。)

 さて、上で「やりました」とは書いたものの、精確には途中で投げました。「三周目の中盤で諦めた」と言えば、プレイ済みの人はだいたいどこで投げたか想像がつくんじゃないかと思います。残りは結局動画で確認しました。自分にはあれを突破するスキルも根気もない。みんなすごい。

 それで感想ですが、ふつうに楽しんでプレイできました。面白かったです。ただ、好きかどうかと訊かれるとちょっと微妙で、少なくとも積極的に好きと言いづらいところがあります。理由はいくつか思い浮かびますが、いちばん大きいのは「すごく「RPG」っぽくなかったから」でしょうか。というより『UNDERTALE』は、徹底的に「RPG」であることを避けた作品なんじゃないかとさえ感じました。

「お前の言う「RPG」って何だよ」って話なんですけどその前に。

 音楽と演出、めちゃくちゃよかったです。「Spear of Justice」「Battle Against a True Hero」はすでに人気だと思うので、あえて「Bonetrousle」「Death Report」あたりを推したい。やっぱりBGMにとって「直前までどんな曲が流れていたか」というのはすごく大切で、そういう観点から言って、直前のゆるいモチーフをそのまま受け継ぎながら場面に大きく緊張感を与えたこの二曲はすごく印象的でした。ちなみにいちばん好きなのは「Hopes and Dreams」です。流れた瞬間、もう全部この曲のためだったんでしょ、って言いたくなってしまったぐらい。

 いろいろ挙げましたが、未プレイの人が曲単体で聴くのはあんまりオススメしません。もちろんどの曲も単独で聴いて掛け値なしに素敵なんですが、ゲーム音楽はゲームのなかで聴くのがいちばんだとは思います。その場面で流れることを想定しているわけですし。

 あ、「MEGALOVANIA」好きな人は『LIVE A LIVE』の「MEGALOMANIA」のほうも聴いてください。曲単体でもいいので。

RPGって何なんだろう

 そもそもRPGってのもよくわかんない概念です。たいていのビデオゲームは、プレイヤーにキャラクターの操作を求めます。つまり、架空の世界の成員として何らかの役割を演じることを要求しているという意味で、たいていのビデオゲームはロールプレイング的です。RPGの原義を真面目に受け取るなら、それがどれぐらいの範囲を指したジャンル名なのかは議論の余地がありますし、現に「RPGとは何なのか」みたいな問題は、昔からさまざまなかたちで話題にされ続けています。

 ビデオゲームがどれもわりと、そういう「ごっこ遊び」を要求するフィクション作品なのに対し、アナログゲームは競技的な性格のほうが強いように思います。もちろん、たとえばチェスや将棋は指揮官のような役割を演じるゲームなんじゃないかと言われれば、確かにゲーム側にそういう色調があることは否定できません。が、実際プレイヤーにそういうロールプレイングが要求されることは稀で、普通は(しばしば目の前にいる)対戦相手とスキルを競うことをまずは要求していると考えてよいと思います。(まあビデオゲームが総じて「ごっこ遊び」を強く要求しているかというとそうではないと思いますが、それはいったん措きます。)

 そういうこともあって、ロールプレイングを前面に出したアナログゲームである「TRPG」が一個のジャンルとして成立している、とも言っていいでしょう。

 歴史的に言えば、現在のRPGは、そういうTRPGをデジタルな媒体へと置き換えたのが始まりです。70年代に海の向こうで『D&D』というTRPGが出てめちゃくちゃ人気が出たとか、そのコンセプト、すなわち「剣と魔法の世界を舞台にひとりの冒険者としてダンジョンを攻略していく」というコンセプトを引き継いで、『ウルティマ』と『ウィザードリィ』が開発されたとか、それが80年代になって日本に輸入されて、ライトな層にも受け入れられるよう「編集」したものが、あの『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』だとか、RPG好きな人はだいたい耳にしたことのある経緯なんじゃないかと思います。

 これが意味しているのは、RPGと結びつきがちな剣と魔法の世界のイメージは、歴史的偶然にもとづくものだ、ということです。もし『D&D』の代わりに、未来から来た宇宙人を相手に少年たちが超能力を駆使して戦うようなTRPGが広く受容されていれば、それが現在のRPGにとってのスタンダードになっていたかもしれないわけです。

 このことは「RPGというジャンルをどう定義するべきか」という問題にとっても示唆的なように思います。

 つまり、現在の(日本の)RPGにとってドラクエやFFは依然としてスタンダードであり続けていますし、その源流を辿れば『D&D』に行き着きます。別の角度から言うと、『D&D』に由来する「お約束の集合」が、ゆるやかに「RPG」というジャンルを形づくりあげているということになります。この「お約束」が具体的にどんな中身をもっているのかは難しいですが、さしあたりハード性能の向上など、時代に強く依存して変遷している、と言っておくことはできるでしょう。黎明期は『D&D』であったり、あるいは『ウルティマ』や『ウィザードリィ』がある種の規範になっていたのでしょうし、ひょっとしたら『FF7』が(世界的にも)その位置を占めていた時期もあったのかもしれません。

 なので、RPGをちゃんと定義するのはたぶん無理で、家族的類似というか、あくまで部分的な共通性でもってゆるくつながったジャンルとして考えるほうがいいんじゃないか、というのが自分の考えです。

 こういう考えをとるメリットのひとつは、〈先行規範をどう継承し、どう破壊しているか〉という観点からRPGを評価することができる点だと思います。この路線に乗るなら、RPGの歴史も、「RPG」というジャンルそのものが揺さぶりにかけられてきた記録として記述できるのかもしれません。(まあだいたいの芸術作品は、とくに近代以降、ジャンル自体に対する批判的な視線を多少なりとも含んでいると思うので、べつにRPGに限った話ではなさそうですが。)

もういちど『UNDERTALE』について

 だいたいこんな感じのことをプレイして考えました。「『UNDERTALE』は、徹底的に「RPG」であることを避けた作品」という先の発言に戻ると、この作品の源泉は、どれもオーソドックスな意味での「RPG」からは外れたものばかりだと思うので、べつに「お約束」から離れた仕上がりになっていること自体は不思議ではありません。ただ、そういう影響関係だけでは説明できない程度に『UNDERTALE』は「RPG」であること自体を強く拒絶するようなデザインになっていたんじゃないかと考えています。紙幅も長くなってきたので具体的に振り返ることはしませんが、個人的には「RPG」というジャンルを銘打っているのを疑問に思うぐらいです。『UNDERTALE』という作品自体が「RPG」をロールプレイするように要求されている一方で、またそのロールプレイを拒絶しているようにすら思える、と言ったら言いすぎでしょうか。

 他方で、こういうゲームがすごく受けたというのは、既存の「RPG」に対する破壊が(潜在的に)強く望まれていたのかなとも思えて、自分は少し寂しく感じました。このへんは、「ふつうの「RPG」も『UNDERTALE』も好き」っていう人の意見も聴いてみたいです。

 まあ『UNDERTALE』をプレイするまで自分がどの程度ふつうの「RPG」を好んでいたのかは全然わかっていなかったので、そういう意味では自己診断の良いきっかけでした。自分がどういう「RPG」が好きなのかを知りたい人は『UNDERTALE』をプレイするといいかもしれません。

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