詩『月と秋ナス』

鶏の唐揚げか唐揚げの鶏か、それが問題だ
男が言った
私もそう思うわ
女が言った
天ぷら蕎麦は蕎麦の天ぷらではない
男が言った
食べたいわね
女が言った
クリスプチキンなのかチキンクリスプなのか、それが問題だ
男が言った
私もそう思うわ
女が言った
鶏の竜田揚げなのかチキンタッタなのか竜田揚げの鶏なのか、それが問題だ
男が言った
私もそう思うわ
女が言った
タコワサはむしろワサタコと言うべきではないのか
男が言った
私もそう思うわ
女が言った
僕たちはもう少しワインを飲まなければならないと思う
男が言った
私もそう思うわ
女が言った
木で出来た鉄なんてないな
男が言った
男女って最近聞かないわね
女が言った
それは問題だな
男が言った
女男ってなんだろうな、と男が続けた
聞いたこともないわ
女が言った
完璧な絶望がないように、完璧な文章といったものも存在しない
男が言った
それって喩えになってる？
女が言った
神なんていないな
男が言った
完璧な月と秋ナスのことを考えていたわ
女が言った
一人の政治家よりも麻婆豆腐を考えた一人の料理人の方が偉大だ、と毛沢東が言っていたような気がする。
男が言った
私もそんな気がする
女が言った
なぜ人は山に登るのか？山に登るのは疲れるけれど、山に登らないともっと疲れるからだ。セックスと似ている。とどこかの思想家が言ったそうだ。
男が言った
その思想家って誰？
女が聞いた
俺さ
男が言った
だと思った。そして結果は起因を無力化する
女が言った
人生には二種類ある。目隠し有りの銃殺と目隠し無しの銃殺。とどこかの思想家が言ったそうだ。
男が言った
皆殺しだね
女が言った
神とはまるで悪臭を漂わせながら千鳥歩きをしているゲスでグロテスクでお喋りな大便器の怪物のようだ
男が言った
オシッコが漏れそうだわ
女が言った
そうだろうと思っていたよ
男が言った