データ見る佐々木朗希の凄さ
今年のサイヤング賞、沢村賞の発表も終わりました。賞は記者の投票で決まるものであって、球界最高投手が誰であるかは人それぞれであると思います。
そんなわけで私が個人的に球界最高投手と思うのは佐々木朗希です。それも、NPBだけとかではなく現時点でも世界でナンバーワンなんじゃないかとすら思ってます。セイバーメトリクスの指標やデータでその根拠を見てきます。
セイバー指標で佐々木朗希を見る
佐々木朗希はとにかく成績が傑出しています。そんなことは知っている、と思う方もいるとも思いますがさらに深掘りしてきます。
投手は奪三振と与四球で評価する
一般的に投手の投球の質を評価するときは防御率や失点率のような9イニングあたりでどれだけ失点したかを表す数字を使います。これは一見、実際に防いだ失点数を基に出すので正当性があるように思われます。
しかし、セイバーメトリクスで投手を評価する時は奪三振と与四球を主に用います。というのも防御率は野手の守備や運など投手に制御できない要因が絡むからです。
実際に2022-2023NPBで連続する年で先発として50回以上投げた場合の失点率と奪三振率(K%)、与四球率(BB%)、打球がアウトになった割合(DER)を基に前年の値から翌年の値がどれだけ予測できるかを見ていきます。
横軸が前年の数字、縦軸が翌年の数字として点がプロットされています。
点の位置はばらついています。これは失点率は前年に良い値を残したからと言って翌年も良い値になるとは限らないことを意味します。
失点率が投手の能力を反映するなら、これは投手の能力が年度ごとに大きく変動するということになります。
それは少し不自然な気がしますね。そこで奪三振率を見てみます。
奪三振は失点率に比べると点がきれいに右肩上がりに位置しています。これは前年に良い値を残した場合は翌年も良い値を残す傾向にあるということになります。奪三振は投手のスキルを失点率より表している、と言えるかもしれません。
続いて与四球率です。こちらも奪三振率と同様に右肩上がりにプロットされています。前年に四球の数が多かった選手は翌年も多くなる傾向にあるようです。
続いて打球がアウトになった割合です。点はランダムにプロットされています。打たせた打球がアウトになる割合は前年の値が高くても低くても、翌年にどうなるかは全く予測できません。よく野球の解説などで「打たせて取るピッチング」と言われることがありますが、打たせた打球がアウトになる割合が年度ごとに大きく変動するのにそんなことが可能なのか?と思いませんか。
「打たせて取る割合を投手はほとんど操作できない」という事実の存在もあってセイバーメトリクスでは投手の責任範囲を奪三振、与四死球、被本塁打に限定しています。これらの結果は投手と打者の間で完結するものであり、野手の守備が関与しません。投手を野手の守備から独立して評価しよう、というわけです。
前置きが長くなりましたが、投手を評価したいなら奪三振と与四球と被本塁打を使うのがベターだということがわかりました。ここからは奪三振と与四球と被本塁打の数字を使って佐々木の凄さを調べていきます。
佐々木の奪三振はどの程度凄い?
佐々木と言えば高い奪三振能力です。
今シーズンのK%(39.1%)は50イニング以上投げた投手で2位の松井裕樹(32.4%)を引き離してダントツでトップです。リリーフ投手も含め佐々木がナンバーワンという異常事態です。また、10先発以上だと今永投手の(29.2%)を10%近く引き離してることになります。
佐々木の通算でのK%がどれだけ凄いのか、現役の先発日本人メジャー経験者と今シーズンから挑戦する選手のK%傑出値と比較します。
傑出値とはそのシーズンのK%と比較してどれだけ高いK%を記録したかを示す数字です。この処理をすることでコンタクトしようとする打者が多い年度やコンタクトよりもパワーを重視する打者が多い年でも同様に比較できます。
(同じK%、20%でもリーグ平均K%が20%の年と15%の年では後者のが抜きん出ていますよね?これが傑出値を使う目的です)
計算手法は
(選手個人のK%)/(リーグ平均のK%)×100 です。
100が平均で高いほど優れています。
なお、年をまたいで評価したいときは打者数を基に加重平均をします。
ざっくり言えば100より高いほど当時の周りと比較して奪三振を多く獲得できていた、ということです。
佐々木のK%+は近年の日本人メジャーリーガーと比較しても飛び抜けた値です。MLBでサイ・ヤング級のシーズンも過ごした大谷翔平、ダルビッシュ有、新人王投票2位を獲得した千賀滉大、日本でタイトルを総なめにしてきた山本由伸をも上回ります。
ちなみに右のK%+(20%)はリーグ平均K%が20%のときを仮定して、どの程度の三振率になるのかを表したものです。佐々木はこの値が34.6%であり打者3人と対戦したら1人は三振に取れるという驚異的なペースで量産していることがわかります。
佐々木は三振を取ることについては大谷や千賀、ダルビッシュをも上回る投手となっています。
投手の責任範囲内でどれだけ失点を抑えられている?
先述しましたがセイバーメトリクスでは投手の責任範囲内を奪三振、与四死球、被本塁打に限定しています。そこでこれらの要素だけで推定失点率を算出する指標としてFIP(fielding independent pitching)があります。
FIPとは
佐々木はこのFIPがどれだけ凄いのか、現役の先発日本人メジャー経験者と今シーズンから挑戦する選手のFIP傑出値と比較します。
佐々木のFIP-は47とダントツで低い値を記録しています。これは投手の責任範囲内でリーグ平均的な投手と比べて失点を47%に抑えたことを意味します。
47という値はMLBでも活躍した大谷、田中、ダルビッシュの70,71よりもダントツで低い値です。今季ポスティングでメジャー移籍し大型契約を結ぶことが確実視されてる山本由伸も61と素晴らしい値ですがこれよりも低くなっています。
FIP-の単位に馴染みがない人のために仮にリーグ平均失点率が4.00と仮定した場合のFIP-を見ると、山本、大谷、ダルビッシュ、田中でも2点台を記録するなか、佐々木は1点台を記録しています。それくらい佐々木は傑出した投手となっています。
佐々木は投手の責任範囲内で失点を抑えることに関してはメジャーリーガーと比較しても近年最高レベルの投手です。
佐々木の球種について見る
次に佐々木の投球したボールがメジャーリーガーと比較してどれだけ凄いかを見ていきます。NPBではトラッキングデータを公開していませんが、佐々木は2023WBCに出場したためトラッキングデータがStatcastにあります。このStatcastデータを用いてMLB投手たちと比較してみます。
投球データ全体
まずは佐々木の全体のデータを見ます。
※注 佐々木はフォーク・スライダーともにジャイロ系で変化量が近く、Statcastの球種のタグ付けは間違ってる可能性があります。そのため、筆者が回転数が2000未満か否かでフォークかスライダーか、再度タグ付けを行っています。
佐々木のMLBでの各球種の威力を推定する
また、佐々木の各球種がMLBでどれだけ威力を発揮するかについても推定したいと思います。使うのはCameron Groveが開発したCustom Pitch Gradesです。
Custom Pitch GradesとはMLBで投じられた過去の膨大な投球データを基に機械学習を行い、ある投球の速度や変化量、リリース位置等から、それがどれだけ優れた投球かを推定するアプリです。開発したのは現在、クリーブランド・ガーディアンズのR&Dグループに所属するCameron Groveです。
(Cameron GroveはかつてPitching Botという各投手が投げる投球の質を機械学習を基に数値化する指標を開発したことで野球データ好きの間では有名な存在です)
ストレート
佐々木のストレートはMLB右平均と比べ
・平均球速161.4キロとリーグ平均より9キロ速い。
・縦変化が3.4cm多い(ホップする)
・横変化が13.3cm多い(大きくシュートする)
・1分あたりの回転数が52多い
・リリース高さが6cm高い
・Pitch Gradeは73(2標準偏差以上優れる)
・期待ゴロ率は8.1%高い
・期待空振り率は10.3%高い
・期待ハードヒット率は平均程度
なんといっても目を引くのは球速です。「ストレートは球速だけではない」とは言いますが球速は間違いなくストレートで最重要な変数です。速ければ速いほど打者の空振り、ゴロが増える効果を期待できます。
加えてホップ量もリーグ平均以上です。ホップ量は空振りを誘う上で重要な変数の一つです。佐々木はこの値も平均以上です。ホップ量が多いとフライも増え気味になりますが、佐々木の場合は球速が非常に速いためそのデメリットは帳消しにされているのも強みとなっています。
シュート変化は多いですが、これはおそらく回転効率が良いストレートを投げている影響と思われます。
Pitch Gradeは73。Pitch Gradeは1標準偏差上回るたびに10増えるようにスケーリングされていますが、佐々木のストレートは2標準偏差以上優れていることになります。これは非常に優れたストレートということを意味します。
※標準偏差がよくわからない、という人は学力試験の偏差値のようなものをイメージしてもらえればいいと思います。頭1つ抜けてる人は60、2つ抜けてる人は70・・・というイメージです。
期待空振り率と期待ゴロ率はずば抜けた速度の影響でリーグ平均を大きく上回ることが想定されます。MLBでもストレートで多くの空振りを取れることを期待できます。
フォーク
佐々木のフォークはMLB右平均と比べ
・平均球速145.6キロとリーグ平均より6キロ速い。
・ただ速球と比較した球速比は90%と遅め。
・縦変化が3.2cm小さい(ドロップする)
・横変化が28.2cm小さい(シュートしない)
・1分あたりの回転数が184小さい
・Pitch Gradeは60(1標準偏差優れる)
・期待ゴロ率は1.3%高い
・期待空振り率は17.9%高い
・期待ハードヒット率は平均より高い(強い打球を打たれやすい)
佐々木のフォークの期待空振り率はリーグ平均より17.9%も高いです。これはフォーク自体に落差があることに加え、速球の平均球速が速いことも影響しています。フォークやチェンジアップは速球の平均球速が速いと同じような緩急差、落差でもより空振りが増える傾向にあります。佐々木はストレートの平均球速が160キロを超えるなど平均を大きく上回る球速がある影響で空振りを奪えるボールとなっています。
フォークでWhiff%が50%を超えるのはどれだけ凄いかというと今季200球以上スプリットを投げた投手のなかで4位に相当します。
ストレートとの組み合わせでMLBでも多くの三振を奪うことを期待できます。
スライダー
佐々木のスライダーはMLB右平均と比べ
・平均球速142.6キロとリーグ平均より5.9キロ速い。
・ただ速球と比較した球速比は88%と遅め。
・縦変化が2.1cm小さい(ドロップする)
・横変化が4cm小さい(スライドしない)
・1分あたりの回転数が33多い
・Pitch Gradeは53(平均程度)
・期待ゴロ率は4%高い
・期待空振り率は9.9%高い
・期待ハードヒット率は平均より4.1%高い(強い打球を打たれやすい)
スライダーはストレート・フォークほどPitch Gradeは高くありません。ストレートの球速が速いこともあって空振りは奪いやすいですが、ハードヒットされやすいことが影響したようです。
ボールの変化としては遅いジャイロ系。
まとめ
佐々木朗希は
・NPBでの奪三振は近年の日本人メジャーリーガーと比べても傑出している
・NPBでのFIP(投手の責任範囲内の失点抑止)は近年の日本人じゃメジャーリーガーと比較しても傑出している
・ストレートの球質はMLBの投手と比較しても特に群を抜いている
・フォークの球質はMLBの投手と比較しても群を抜いている
・スライダーの球質はMLB平均程度
まだイニングを多く稼いだ経験がないことや、1年通して健康でローテーションを回った経験はないですが「投球の質」では既に日本人の中ではずば抜けています。
現時点でもMLBで傑出した選手になることを期待させる選手なだけに、「いつ」MLBに移籍できるかが重要になりそうです。
データ出典:
NPB STATS
http://npbstats.com/
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