フライを打つことや打球の角度を高めることは打者の得点創出を向上させるのか
フライボールレボリューションに代表されるように昨今では打球の価値が低いとされるゴロを減らしフライを増やすことや打球の角度を上げることで打者の得点創出を高めるべきだという議論がなされることがある。だが実際にフライを打つことや打球の角度を高めることは打者の得点創出を高めるのだろうか。
平均的にはフライはゴロより価値が高い
そもそもゴロを減らしフライを増やすことの根拠として用いられるのが各打球のスタッツだ。打球間の比較の数字としては馴染みのある打率や長打率等のスタッツが使われることもあるがここでは得点価値に応じた加重がなされた指標であるwOBAを使う。
打球のwOBA(wOBAcon)、得点価値を見るとゴロは価値が低くフライはプラスの価値を持っている。この事実から単純に考えればゴロを1つ減らしフライを1つ増やせば+0.14点の価値を生み出すことになり打球の得点価値の改善に繋がりそうだ。フライボールレボリューションやゴロを減らしフライを増やせといった主張はこうした統計を基になされているものだと思われる。
フライを増やしても打者の得点創出には結びつかない
では実際に打者がフライの打球を多く打つようになれば打席あたりの得点創出は高まるのだろうか。検証の方法としては2015-2020年のMLBで連続する年で500打席以上立った打者についてFB%(フライ/打球)の差とxwOBA(注1)の差を算出し両者の相関を取る。(注2)
個人の年度間のFB%の変化とxwOBAの変化にはほとんど相関は見られなかった。(R=0.14)これは打者が年をまたいでFB%を上昇させたところで打席あたりの得点創出にほとんど影響を与えなかったことを意味している。このような結果に対して「飛ばす力のない打者がフライを増やしても効果はないが飛ばす力のある打者の場合はフライを増やす効果はあるはずだ」と思うかもしれない。だが各プロットにカラースケールされているISOcon(打球の純粋な長打力を表す指標。高いほど長打力が高い)の値を見てみるとISOconが高い選手がフライを増やしてもxwOBAが低下するケースがそれなりにみられることがわかる。長打力のある選手がフライを増やしても得点創出の増加に必ずしも繋がらないようだ。
また平均打球角度の差を使ってもFB%と同じような結果になる。(R=0.14)
以上のことから考えると打球のフライ率や角度を上げてもほとんど打者の得点創出に大きな影響を与えないようだ。
次回はFB%や平均打球角度で打球を評価することの問題点と打球角度を評価するうえでどのような指標が適切かについて考察する予定だ。
NPBでフライを増やした場合も打者の得点創出には結びつかない
(追記)
NPBでも同様の検証を行ったところFB%が増えてもwOBAの改善は見られなかった。(R=0.09)長打力の指標としてHR/FBを用いたが値の高低とフライを増やした効果に特に関係はないようだ。
(注1) 打球結果については打球の速度と角度から推定した得点価値を基にした係数を、非打球結果については実際の打席結果に基づいた係数を使用したwOBA。打球結果について守備や偶然の影響を取り除くことによって得点価値に基づいた打者のスキルをある程度推定することができる。
(注2)セイバリストであるsnin氏は2018年1月時に同様の手法でwOBAcon、wOBAの差を使いフライボールの変化が得点貢献に与える影響について検証している。結果はフライを増やしたところで大きな効果はないというものでありサンプルが多く溜まった2021年時点で打者のスキルをある程度推定することを目的としたxwOBAを使った今回の検証と結果に大差はないものとなっている。snin氏のブログはフライボールや打球についての研究がかなり進められており打球パラメータの理解を深めるうえでかなり助けになると思われる。
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