シーム・シフト・ウェイクについて学ぶための記事紹介
まえがき
これを書いた本人は物理の素人です。そのため、物理的に正しいかどうかの内容を保証できません。シーム・シフト・ウェイク(SSW)について学びたい方はリンク先の記事等を読んだうえで自分で判断することをおすすめします。
ホークアイの導入
2019年までのMLBのトラッキング技術ではリリース時の回転情報から予想される動きと、実際のボールの動きの差を比較することは不可能でした。ところが、2020年にホークアイが導入されると、回転情報から得られる変化に対して予想外の変化をするのか、という疑問に答えるのに十分なデータを提供してくれるようになりました。
ボールの変化要因:マグヌス効果
リリースされたボールの軌道を決めるのは基本的にマグヌス効果です。
https://www.drivelinebaseball.com/wp-content/uploads/2020/12/magnusforce.gif
マグヌス効果については本題ではないので日本語説明では以下のリンクを参考にしてください。
ボールの変化要因:シーム・シフト・ウェイク
野球のボールには革でできた滑らかな面と、縫い目で盛り上がった部分があります。ボールを投げたとき、空気にぶつかると周りに気流が発生します。このとき縫い目によって盛り上がった部分には乱れた気流が発生します。乱れた気流は滑らかな気流より長くボールに付着しこの気流の差がボールを変化させます。
下のgifはクリケットボールの粗い面と滑らかな面に気流をあてた実験映像です。
https://www.drivelinebaseball.com/wp-content/uploads/2020/12/The_Science_of_Curveballs.gif
ボールの変化はマグヌス効果だけでなく上記のシーム・シフト・ウェイクが関わってくると最近では思われているようです。
シーム・シフト・ウェイクを可視化する
シーム・シフト・ウェイクがあるらしいことはわかったのですが、それはどうやって観測すればいいのでしょうか。Drivelineは以下の方法で可視化を試みています。それはボールの変化量から推定した回転軸とホークアイによって実際によって観測された回転軸の差を見ることです。
上記の画像はカイル・ヘンドリクスの回転軸についての画像です。左は実際にホークアイで観測した回転軸、右はボールの変化量から推定した回転軸です。両者の回転軸には差があり、これがシーム・シフト・ウェイク効果によるものだと推測されます。
追記(2023/2/4):
軸ズレは大雑把にSSWの効果を表しますが、ジャイロの量に影響されます。(ジャイロが多いほど軸ズレは大きくなりやすい)
ただ実際は同じ軸ズレの量ならActive Spin%(回転効率)が高いほうがSSWを得やすいようです。
回転情報から得られる動きはDrivelineが提供するTRAQで簡易的に計算できます。(アカウントを作る必要あり)
シーム・シフト・ウェイクが大きいと良い球?
セイバリストであるtangotigerはトータルのボールの動きと、マグヌス効果によるボールの動きと、シーム・シフト・ウェイクによる動きを比較してどんな球がどんな動きによって良い効果を得られるかを推定しています。方法としてはそれぞれの動きの大きさによって、RV/100(100球あたりの得点価値:投手にとって低いほど失点のリスクが低い)を比較しています。
その中でも特にSSW(シーム・シフト・ウェイク)による効果が大きいのがシンカー(ツーシーム・ワンシーム)とカットボールです。
シンカー
tangoの表は3から1の順にそれぞれの効果が強くなることを意味しているようです。それによるとシンカーはトータルの動きが大きい方が効果は高いです。変化の内訳を見るとマグヌス効果による動きでは1と2に差がありません。ところがSSW効果では1と2・3には圧倒的な差があります。よってシンカーはSSWを大きく得ることが重要と言えます。
カットボール
カットボールのトータルの動きを見ると最も多い(1)と最も少ない(3)が良く、比較すると最も少ないが良い、(2が最悪)という、動きが大きいほうが良いのか小さい方が良いのかいまいちわかりません。
マグヌス効果で見るとさらに混乱します。最も動くグループでも最も小さく、動くグループでなくその中間が良いという結果になります。
ところがSSW効果では明白にSSW効果が大きければ大きいほうが失点リスクが低くなることがわかります。つまりカットボールで失点を抑止するにはSSW効果を大きく得ることが重要ということになりそうです。これまでの話と合わせれば、カットボールはSSW効果によって手元で変化させられるかどうかが重要、と言えそうです。
ラプソードやトラックマンではシーム・シフト・ウェイクを測れない?
球種の失点抑止効果にも影響を与えるシーム・シフト・ウェイクですが既存のトラッキングシステムであるラプソードやトラックマンでは測れないようです。両者には回転軸を測る機能がありますが、それぞれ出し方が違います。
ラプソード:実際の回転軸と回転数を測る。そしてそこから変化量を推定する。
トラックマン:ボールの軌道から回転軸と回転数を推定する。
そのため、SSW効果が発生したシンカーなどで両者を比較すると違う値が出てきます。
画像は上がラプソード(実際の回転軸)、下がトラックマンのポータブル版(変化量から推定した回転軸)となっています。両者はその回転軸と変化量の推定方法の違いから同じボールでも実際の値に大きく差が出ています。
回転軸が正しいのはラプソード、変化量で正しいのはトラックマン、となっています。両者に差を生み出しているのがシーム・シフト・ウェイクです。
逆を言えば両方の機械を導入して両者の回転軸の差を比較してあげれば、シーム・シフト・ウェイクを測ることができそうです。(お金がかかりそうですが)
追記(2023/2/4):
現在のRapsodo PRO3.0とトラックマンポータブルでは可能かもしれません。
参考リンク
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