アームアングルは打者の左右の影響を受けるのか

 サイドスローやアンダースローのようなアームアングルが低い投手は、利き手が一致しない(右投手なら対左打者)打者を苦手とするとされる。実際にその傾向があるかと、その要因を探る。

アームアングルの求め方

 アームアングルの求め方はまず上記URLから2015年の選手ごとの推定アームアングルを入手。そこからフォーシームの横変化、縦変化、リリース横位置、リリース高さを説明変数として重回帰分析する。

 補正R2は0.76と高い精度の予測式を入手できた。この式を用いて2017-2021年のMLBで各年度フォーシームを100球以上投球した選手のアームアングルを推定。それぞれのアームアングルごとについて右対右、右対左、左対右、左対左で分けて各種スタッツを集計した。

https://www.ginifab.com/feeds/angle_measurement/online_protractor.ja.php  より引用

 投球角度は-90~20度(アンダースロー)、20~40度(サイドスロー)、40~60度(スリークォーター)、60~90度(オーバースロー)で分割した。

球種別のスタッツについてはこちらを参考にしてください。

wOBA(打席あたりでどれだけ失点しやすいか)

右投手

 まずは右投手のwOBAについて見ていく。wOBAとは打席当たりの得点創出を表したものだ。大雑把に言えばOPSを更に精密にしたものという認識でよい。

 各アングル別のwOBAを見るとアングルが下がれば下がるほど対左のwOBAのが高くなる傾向にある。「右のサイドスローやアンダースローは左打者を苦手とする」という話を裏付ける形になった。

 先発投手は投手の利き手に合わせたプラトーン起用をされやすい。(実例を挙げれば阪神の青柳投手に左打者を並べるなど)極端に逆の利き手の打者を苦手としやすいのが、サイドスローやアンダースローの先発投手が少ない要因とも言えそうだ。逆にオーバースローは左打者を苦手としていないどころが得意としている。アームアングルが高い投手(例えば広島の森下投手など)に逆の利き手の打者を並べるプラトーン戦術は有効ではなさそうだ。

(FIP-は投手にとって低ければ低いほど良い)

左投手

 つづいて左投手について見ていく。

 左投手も基本的には利き手が逆の打者(左の場合は右打者)を苦手としている。右投手と異なるのはオーバースローとスリークォーターの場合もより差がついているということだ。特に右のオーバースローは左打者を得意としていたのに対し、左投手は右打者を苦手にしているという違いがある。左投手は右投手以上にプラトーン起用をされやすい印象があるが、こうしてみると理にかなっていると言えそうだ。

 また左投げのアンダースローは右打者をかなり不利にするイメージがあったが、実際はスリークォーターとそれほど変わらない上に、利き手が一致する場合(対左打者)をかなり得意としている。(これだけ見れば左で低い角度から投げる投手がいてももっといても良さそうだが実際は難しいのでしょう)

Swing%

 つづいては打者にどんなアプローチをされているかを見ていく。

右投手

 全体的に不一致時のスイング率は低下している。内訳を見るとO-Swing%が低く、ボール球を振るのが控えられているようだ。一方で、Z-Swing%はオーバースローを除き上昇している。「ボール球は見逃されるが、ストライクは振りにこられる」という投手にとっては不利な状況が築かれているようだ。

左投手

 左投手の場合は不一致時にオーバースローを除き全体的にスイング率が上がっている。ゾーン内で積極的に打者に振ってこられるようだ。裏を返せば左打者を相手にしたときにゾーン内を振らせる頻度をかなり抑えられているようだ。左投手が左打者を得意とするのはこのあたりが要因として大きそうだ。

CSW%(及びストライク獲得内訳)

 つづいてどんな内容でストライクを取っているかだ。CSW%(Called Strike + Whiff%、見逃し+空振りストライク率)とCS%(見逃しストライク率)、SwStr%(空振りストライク率)を見ていく。

右投手

 オーバースローを除き不一致時は見逃しストライクが全体的に減っている。またSwStr%も減っている。ストライクを見逃されず空振りもしないという投手にとって苦しい状態となっている。

左投手

 左投手も同じく不一致時のCSW%は低下している。内訳を見るとオーバースローを除きCS%の影響が大きく見逃しストライクをとれなくなるようだ。(裏を返せば左打者を相手にした時は多くの見逃しストライクを取れている)

打球

 最後に打球についてだ。指標はxwOBAcon(推定される総合的な打球失点リスク)、HardHit%(ヒットが出やすくなるとされる93MPH以上の打球が占める割合)、SweetSpot%(価値の高い8~32度の角度の打球が占める割合)を見ていく。

右投手

 基本的に不一致時は打球の失点リスクは上がっている。唯一の例外がオーバースローでHard Hitの割合をかなり抑えられていることがわかる。


右のオーバースローは、唯一左より右に対し有利だ。ただ内訳を見るとCSW%などストライク獲得割合では不利になっていて、打球で有利になっているようだ。

 さきほどオーバースローとして例に挙げた広島の森下投手もFIP-(投手の責任範囲内の失点抑止)では、左の方が優れた値を残している。ただ内訳を見るとK-BB%(三振率から四球率を引いた値)は左のほうが低い。左のほうが優秀なのはHR/9(9イニングあたりで打たれた本塁打の割合)の方だ。

 その他、山岡泰輔も同じような傾向にある。ただ柳のようにHR/9が変わらないという例もある。このあたりについては網羅的に調べないとわからないがNPBではアームアングルを調べられない以上、そもそもオーバースローの定義が主観的になってしまうという問題がある。

左投手

 左投手の場合も利き手が不一致時に打球の失点リスクが高い傾向に有る。特にハードヒットをよくされるようだ。

まとめ

・投球角度が小さい(腕の角度が下がる)ほど逆の利き手の打者との対戦で不利になる。
・ただし右のオーバースローは例外的に左打者相手に弱い打球を打たせることに長けていて得意とする。

 よく球界ではプラトーン戦術(相手先発の左右に合わせてスタメン打者の左右を変える)がとられる。実際、それは有効に働くようだ。ただし、右のオーバースローについては再考の余地があるかもしれない。

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