球種のアームアングル別特徴
アームアングルによって球種にもたらされる効果は違うのかを検証する。
アームアングルの求め方
アームアングルの求め方はまず上記URLから2015年の選手ごとの推定アームアングルを入手。そこからフォーシームの横変化、縦変化、リリース横位置、リリース高さを説明変数として重回帰分析する。
補正R2は0.76と高い精度の予測式を入手できた。この式を用いて2017年以降に各年度フォーシームを100球以上投球した選手のアームアングルを推定。それぞれのアームアングルごとの球種について右対右or左対左と右対左or左対右で分けて各種スタッツを集計した。
投球角度は20~40度(サイドスロー)、40~60度(スリークォーター)、60~90度(オーバースロー)で分割した。
フォーシーム
利き手の一致時
まずは利き手の一致時を見る。
変化量に注目すると投球角度が大きいほどシュート方向の変化量が小さくなり、ホップの量が増える傾向にある。手首を立てるなどの工夫をしなければ、腕の角度がそのままフォーシームの回転軸になるためと考えられる。
RV/100(100球あたりの得点期待値変動、投手の場合は低いほど良い)に注目するとサイドスローのフォーシームが優れている。サイドスローのフォーシームはアームアングルの関係上、シュートしてホップしない球質だが球の出どころの見にくさが、打ちにくさにつながっているのだろうか。
またxwOBAcon(打球の失点リスク)を見てみると、サイド気味はやや低い傾向にある。
利き手の不一致時
利き手が不一致時についても見ていく。意外なのはWhiff%はサイドスローの方がオーバースローより高いということだ。ただしRV/100では真逆の結果になっている。これは打者の見極めによるところが大きそうだ。Z-Swing%はサイドスローのが高いのにO-Swing%(ボールスイング率)ではむしろ低い。ストライクの球は打ちにいかれ、ボール球を見送られるという状態になっている。加えてxwOBAconはサイドスローのが高くなっている。
シンカー(ツーシーム)
利き手の一致時
まずボールの変化量に注目すると、腕が下がるほどシュートの変化が大きく、縦の変化が小さく(沈む)なることがわかる。そのためオーバースローのシンカーは沈まないシュートもしないシンカーとなっている。この影響もありRV/100は唯一のプラス(失点のリスクが高い)となっている。オーバースローにシンカーは基本的に不向きのようだ。
利き手の不一致時
利き手が不一致の場合はどの腕の角度でもRV/100が高い。シンカーはそもそも利き手の不一致時には向かない球種のようだ。
カットボール
利き手の一致時
カットボールの変化量自体はそれほど差がついていない。ただし、効果は異なる。スリークォーターの投手は高いWhiff%を記録しており、PutAway%(2ストライクからの三振奪取率)が高い。決め球として使えるようだ。そのほかの角度は、利き手の一致時にそもそも有効ではないようだ。
利き手の不一致時
利き手の不一致時には効果が逆になる。今度はオーバースローやサイドスロー投手にとって有効なボールとなっている。
サイドスローはフォーシーム、シンカーといった速球系の球種が、不一致時にはRV/100がプラスになってしまうなど苦労している。ただ、カットボールではマイナスとなっている。カウントを稼ぎたい時にフォーシームやシンカーの代替として使えば成績改善につながるかもしれない。
スライダー
利き手の一致時
サイドスローのスライダーはかなり横に曲がっている印象を受ける。だが数字で見てみるとそこまで露骨に変化量が多いわけではないようだ。ただし、RV/100を見てみると利き手の一致時の効果は高い。Whiff%は高く打者にコンタクトさせない。Z-Swing%は低くゾーンに来ても打者が手を出せない。非常に万能な球種となっている。
利き手の不一致時
利き手が一致時には非常に有効なサイドスローのスライダーだが利き手が一致しているときは効果が薄い。原因として考えられるのはO-Swing%の低下で、ボール球を投げても見られてしまい、カウントを悪化させてしまうようだ。逆にボール球を振らせることができるオーバースローのスライダーはRV/100が低くなっている。
カーブ
利き手の一致時
変化量の特徴としては角度が大きいほど縦の変化がよりマイナスに(縦に割れる変化)、横の変化は小さくなっている。
オーバースローの縦に割れるカーブはスイング率が低く、ゾーンに入れさえすれば多くの見逃しストライクを取れる。制球が重要なボールだ。
サイドスローの横への曲がりが大きいカーブは、ボール球を振らせることができ、かつ空振りがとれるボールだ。
スリークォーターはその中間といったところだが、それが中途半端になってしまったのがRV/100は伸び悩んでいる。加えて打球の失点リスクも高くなっている。
利き手の不一致時
利き手の不一致時では、サイドスロー・オーバースローがそれぞれ有効だ。スリークォーターはその中途半端な変化量が仇となったのかRV/100がプラス(失点リスクがある)となっている。
チェンジアップ
利き手の一致時
変化量の特徴としてはアームアングルが高くなるにつれ落差が小さくなり、アームサイドへの動きが小さくなる。基本的に決め球として使う球種だがサイドスロー以外はPutAway%が高くなく、あまり有効なボールではない。
利き手の不一致時
オーバースローの威力が大幅に強化されている。要因としてはxwOBAconの大幅な改善だ。チェンジアップには利き手が不一致時の打者から空振りを奪う決め球としての印象があったが、実際は打球が失点リスクを低下させる要因になっている。
スリークォーターもRV/100は改善されているが、まだ値はプラスなままだ。
スプリット
利き手の一致時
変化量の特徴としてはチェンジアップと同じく、角度が大きいほど縦の変化が大きく、アームサイドの動きが小さくなる。
高い角度から投げ下ろすことで空振りを奪う印象のある球種だがWhiff%が1番優秀なのはスリークォーターという結果に。
ただしオーバースローもRV/100では優秀な値だ。要因となっているのがxwOBAconの低さだ。全体的にWhiff%が高めの球種であるが、オーバースローについて言えば、どちらかといえば弱い打球を打たせることに長けている球種のようだ。
利き手の不一致時
オーバースローが最も強力なボールとなっている。こちらでは空振り率についても優秀な値となっている。ストライクゾーンに入れることにリスクが伴う印象のある球種だがオーバースローの場合は、そもそもゾーン内に入ってもスイングされにくいようでCS%を多く稼げている。
意外にもサイドスローでも強力な効果を発揮している。弱い打球を打たせられ、かつボール球に手を出させやすいことが影響しているようだ。ただ、サンプルとなる球数が3000球に僅かに満たないなど使用者がそこまで多いわけでもない。
投法ごとの特徴
オーバースロー
オーバースローはシンカー(ツーシーム)以外の殆どの球種で強みを作れる万能型の投法だ。特に一般的に投手が不利とされる利き手が不一致時の場合も、ほとんど苦にする球種がない。先発投手の左右に合わせたプラトーン戦術の影響を受けにくいとも言え、先発向きな投法かもしれない。裏を返せば攻撃側はこの投法の選手にプラトーン戦術をとっても意味がないかもしれない。
ファストボールについては投法の関係上、シンカーを苦手としているので基本はフォーシームとなるだろう。
ボール変化量の特徴としてはスライダーとカットを除き縦方向の動きが大きくなるようだ。全体の変化量が縦長となっている。
スリークォーター
オーバースローに比べると利き手が不一致時に対抗できる球種が少ない。サイドスローほどフォーシームのRV/100が高くないため先発も可能と思われるが、プラトーン戦術の影響を受けやすいタイプだ。裏を返せば攻撃側はプラトーン起用を行うべき投法である。
ファストボールについては、利き手が一致の場合にフォーシームよりシンカーが有効になりえる。打者の利き手によって使い分けるのも手ではないか。
ボール変化量の特徴としては、スライダーとカットボールを除きオーバースローよりやや横長になっている。
サイドスロー
サイドスローのフォーシームは利き手の一致時には強力だが、逆の利き手にはめっぽう弱い。シンカー(ツーシーム)はそもそも利き手が逆の打者に有効でないボールのためカウントアップに使える球がない。そのためプラトーン戦術をとられる先発で非常に苦しみやすい。
速球とブレーキングボールの中間に当たるカットボールは有効である。利き手が一致してる打者の時はフォーシーム・シンカー、利き手が不一致の打者にはカットボールと使い分けるのもありかもしれない。
ボール変化量の特徴としてはかなり横長になっている。特にサイドスローのシンカーとカーブはかなり横曲がりの大きなものになる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?