左打者は左投手に不利は本当か
野球でよく見る言説として「左打者は左投手に不利」というものがあります。この考えはプロ野球でも浸透しているようで攻撃側は相手の先発投手の利き腕に対して先発出場させる野手を変える、代打は相手の利き腕と反対の打者を出す、守備側も左打者相手に左投手をぶつけるといった光景をよく目にします。常識のように使われている戦術ですが実際左打者は本当に左投手に不利なのでしょうか。不利だったとしてそれはどの程度なのでしょうか。検証してみたいと思います。
検証
2017~2019年のNPBを対象に左打者が右投手、左投手それぞれを相手にした場合の打撃成績を集計。(投手、両打ちの打者が左打席に立った場合は除外)
検証にはwOBAという指標を用います。wOBAとは打席当たりの得点の影響を示す指標です。各イベントの得点価値に応じた加重がされておりOPSよりも得点への影響を測るのに適しています。ただし今回の検証では入手データの関係上、失策・野選出塁は計算に含んでいません。(注1)
左打者が左投手相手にどの程度不利なのかを示すため以下の式を使います。
左投手と対戦した時のwOBA - 右投手と対戦した時のwOBA
もし左打者が左投手に不利であるならば左投手と対戦した時のwOBAが右投手と対戦した時のwOBAを下回って負の値となるはずです。値が低ければ低いほど左投手を不利としているということになります。では結果を見てみましょう。
.306 - .325 = -.019
wOBAの差は-19ポイントとなりました。左打者は左投手を不利としていると言えそうです。(wOBAの差は得点に換算すると10ポイントで500打席あたり4点ほどになります。)
右打者の場合はどうか
左打者が左投手を不利にしていることはこれでわかりました。ただ一方でこのような意見もあるかと思います。「左打者ばかりが左投手を不利にしていると言われるのはおかしい。それならば右打者も右投手を不利としているはずだ」左打者が同じ利き腕の相手を不利としているならば右打者にも当てはまらないのか、という意見です。確かにこのような意見も納得できます。そこで左打者の場合と同様の検証を右打者でも行ってみました。
2017~2019年のNPBを対象に右打者が右投手、左投手それぞれを相手にした場合の打撃成績を集計。(投手、両打ちの打者が右打席に立った場合は除外)
右打者が右投手相手にどの程度不利なのかを示すため以下の式を使います。
右投手と対戦した時のwOBA - 左投手と対戦した時のwOBA
もし右打者が右投手に不利であるならば右投手と対戦した時のwOBAが左投手と対戦した時のwOBAを下回って負の値となるはずです。値が低ければ低いほど右投手を不利としているということになります。では結果を見てみましょう。
.319 - .336 = -.016 (小数点第四位が四捨五入されています)
wOBAの差は-16ポイントになりました。3ポイントの差はありますが右打者も左打者と同様に同じ利き腕の投手相手に不利なようです。
まとめ
・左打者は左投手相手には不利でwOBAでいえば19ポイントほどのディスアドバンテージがある
・右打者は右投手相手には不利でwOBAでいえば16ポイントほどのディスアドバンテージがある
結果を見てみると相手の利き腕によって起用する選手を変えるという戦術には妥当性がありそうです。仮にあるポジションを守る2人の選手がいて両者の打力が利き腕のことを除いては同じ条件だった場合、使い分けた場合の方がチームの得点数を8.8点増やします。(これは貯金1.8個に相当します。)(注2)もちろんこれは全体の傾向であってどの程度利き腕によるディスアドバンテージがあるかは選手それぞれによるのですが全体の傾向がどの程度であるか把握することはチームの作戦を立てるうえで重要だと思います。
(注1)
wOBAについてはこちらを参考にしてください。
1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc.
(注2)
仮に年間600打席、あるポジションに与えられたとします。
2017~2019のNPBでは左投手の登板割合が1/4程度だったので右投手との対戦打席数は450打席、左投手との対戦打席数は150打席となります。
右投手が登板時は左打者、左投手が登板時は右打者を起用した場合、得られる利得は
右打者
0.016(左投手相手のアドバンテージ) ÷ 1.24(wOBAscale) × 150(打席数) = 1.9点
左打者
0.019(右投手相手のアドバンテージ) ÷ 1.24(wOBAscale) × 450(打席数) = 6.9点
1.9 + 6.9 = 8.8点
5点あたりで貯金が1個増えるので
8.8 ÷ 5 = 1.8個
となります。
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