ストレートの球速が与える影響を定量化する

野球中継で球速表示があるとついつい気にしてしまう人がいるようにストレートといえば球速が重要であるように認識してる人は多いのではないかと思う。今回はストレートの球速が実際にどのような項目に影響を与えているのかを定量化したい。

xwOBA

はじめにxwOBAを見ていきたい。xwOBAとは三振や四死球と言った非打球結果については実際の打席結果の得点価値を、打球結果については打球の速度と角度から推定した得点価値を用いて打席当たりでどれだけ得点を生み出したかを表す指標だ。投手にとっては低ければ低いほど失点のリスクが低いことを意味する。そのxwOBAと球速の関係を表した散布図が以下になる。

球速 xwOBA 散布図

球速とxwOBAには強い相関関係があるようだ。予測式によると球速が1km/h上昇するとxwOBAが6.8ポイントほど改善される傾向にあるようだ。

xPV/100

続いてxPV/100だ。xPV/100とはストライク、ボール、三振、四死球といった非打球結果については実際の結果を、打球結果については打球の速度と角度から推定した得点価値を用いて100球当たりでどれだけ失点を防いだかを表す指標だ。投手にとっては高ければ高いほど失点を防いだことになる。そのxPVと球速の関係を表した散布図が以下になる。

画像2

xPV/100と球速には強い相関があるようだ。予測式によると球速が1km/h上昇するとxPV/100が0.11点ほど改善される傾向にあるようだ。仮に年間500球のストレートを投げる投手なら球速を1km/h上昇させることで0.55点ほどストレートで防ぐ失点が改善されることを表す。5km/h上昇したら2.75点、10km/hなら5.5点と考えるとストレートの球速が失点抑止に与える影響はかなり大きいと言えないだろうか。

xwOBAcon

xwOBAconとは打球結果について打球の速度と角度から推定した得点価値を用いて打球当たりでどれだけ得点を生み出したかを表す指標だ。xwOBAの打球に限定したものであり打球の失点リスクを表す。投手にとっては低ければ低いほど失点のリスクが低いことを意味する。そのxwOBAconと球速の関係を表した散布図が以下になる。

画像3

球速とxwOBAconには弱い相関関係があるようだ。球速が上がれば上がるほどストレートの失点抑止力は高まる。ただしあまり強い相関ではないことに注意してほしい。

Swing%

続いてはSwing%(スイング/投球)だ。

画像4

ストレートの球速とSwing%には強い相関関係がある。予測式によると球速が1km/h上昇するとSwing%は0.76%上昇するようだ。球速が速い球は打者からすると打つかどうかの判断時間が短くなりついつい手を出してしまう、ということだろうか。

Whiff%

続いてはWhiff%(空振り/スイング)だ。バットを振った時にどれだけ空振りをしたかを表す指標であり高いほど空振りを奪っていることを意味する。

画像5

ストレートの球速とWhiff%には強い相関関係がある。予測式によると球速が1km/h上昇すると0.7%Whiff%が上昇する。球速が速いことによって判断する時間が短くなりコンタクトが難しい球を振りにいってしまったり単純に振り遅れてしまうのが原因ではないだろうか。

SwStr%

続いてはSwStr%(空振り/投球)だ。投球にどれだけ空振りをしたかを表す指標であり高いほど空振りを奪っていることを意味する。先程のWhiff%と違い分母が投球になってることに注意したい。

画像6

ストレートの球速とSwStr%には強い相関関係にある。予測式によると球速が1km/h上昇すると0.5%、SwStr%が上昇する。

foul%

続いてはfoul%(ファウル/投球)だ。高いほど打者が投球に対してファウルをしていたかを表す。

画像7

ストレートの球速とfoul%には強い相関関係にある。予測式によると球速が1km/h上昇すると0.42%、foul%が上昇する。打者は球速の速いストレートに対してはコンタクトしてもミスショットが増えるのかファウルが増加するようだ。

O-Swing%

続いてはO-Swing%(スイング/ボールゾーンへの投球)だ。ボール球にどれだけ手を出したかを表す指標で高ければ高いほど打者がボール球に手を出したことを意味する。

画像11

ストレートの球速とO-Swing%には強い相関関係がある。予測式によると球速が1km/h上昇すると0.51%、O-Swing%が上昇するようだ。球速が速くなることによって投球を判断する時間が短くなることによってボール球にも手を出してしまう、ということだろうか。

ボールゾーンの球に手を出させることには2つのメリットがある。

1つは本来ボールとコールされるはずだった球を振らせることで打者優位なカウントを作らせないことができる、ということだ。後述するが投手・打者にとってカウントは打席結果を左右する者であり非常に重要だ。ボールが先行すれば投手不利となってしまい厳しい戦いを強いられる。相手打者がボール球に手を出してくれれば打者優位なカウントに移行することがなくなる。これは投手にとって非常に有利だ。

もう1つはボール球は仮にコンタクトをされても打球の価値が低く、失点のリスクが低いということだ。以下の画像はストライクゾーンの中心を0としたときの距離別xwOBAcon(打球の得点価値)だ。黒い縦線はストライクゾーンの境目を表している。

FF 高さ xwOBAcon

ストレート コース xwOBAcon

基本的にゾーンの中心から離れてれば離れているほど打球の価値が低くなっていることがわかる。縦線の外側は特に価値が低くなっておりこの高さ・コースの球に手を出されても投手としては失点のリスクが少ないことがわかる。

ここまで球速がストレートに与える影響を定量化してきたが失点を防ぐ、という意味で大きそうなのは打球よりもカウントの増減によるものではないかと推測する。というのも打球(xwOBAcon)は弱い相関である一方で、SwStr%やfoul%、O-Swing%などカウントの増減に影響がある指標には強い相関が認められるからだ。カウントは投手と打者の勝負において非常に重要な要素である。ストライクが先行するかボールが先行するかで平均的な打者が強打者にもリプレイスメントレベルの打者にも変貌する。

カウントwOBA

画像は2015-2020年のMLBのカウント別のwOBAだ。打者有利か、投手有利かによってwOBAの値は大きく変動する。これはカウントによって打者のアプローチが変化することに起因すると見られる。(注1)

まとめ

ストレートの球速が上がると

・ストレートでの失点が減る傾向にある。

・打球の価値は低下するがその相関は弱い。

・投手に有利なカウントを作るのに起因する指標は強い相関でみな良化する。

・以上のことからストレートの球速が上がると失点しにくくなるのはカウントの増減による影響が大きい。

もちろんストレートの価値が形成されるには変化量や投球コースの要素もあるが球速も重要な要素であることに間違いなさそうだ。

縦変化量編へ続く。

今回の記事を書くにあたっては2019年のMLBを対象としデータはBaseball Savantから入手した。

(注1)

カウントが打者・投手に与える影響についてはsninさんの以下の記事が非常に参考になります。

カウント毎の得点価値の解釈

いいなと思ったら応援しよう!