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【少年野球】謎の伝統行事は変えられるか

 地域に根ざした普通の少年野球チームには、往々にして「謎の伝統行事」がある。コロナが5類に移行したこの夏は、こうした謎の伝統行事を復活させたチームも多かったのではないだろうか。
 
 合宿、お祭り、BBQ、OB会等、「やりたくてもできない」という状況が数年続く中で、多くの親が実感したのは「別にやらなくても困らない」「むしろやらなくて良い」という現実だっただろう。
 
 本来はこの機会にあらためて「謎の伝統行事」の本質を問い直すべきなのだが、長年チームに在籍している幹部や指導者たちは当たり前のように復活させる道を選ぶ。それも見直しなど一切するつもりもなく、ただ無邪気に「今年はようやくやれますねぇ」と笑顔を見せたりするから救いようがない。

 「謎行事」とは言わないまでも、親たちの負担が重い伝統行事はやはり見直しが必要だ。
 
 例えば2泊3日の合宿で、これまでは大型バスを貸し切って1時間半もかかる避暑地まで大移動していたものを、近い場所に変えたり、一泊に減らすなど、少しでも見直すことは出来るはずである。

 チームの幹部や指導者がそうした見直しに消極的な理由を考えてみると、まず自分たちが実際に準備や片付けをするわけではないからであり、また、過去に経験したその行事の楽しかった記憶の断片が、年月と共に集約・補正され「美しい思い出総集編」としてインプットされてしまっているからだろう。つまらなかった代、うまくいかなかった代もあっただろうが、それは完全に消去されている。

 美しい思い出の中に生きている人間に「時代に合わなくなってきているので少し見直しましょう」と言ってもまず通じない。
 ではどうやったら相手を現実に引き戻し、心を動かすことが出来るかといえば、現実的な「お金」の問題にすり替えることだ。

 「お金がかかりすぎる」や「お金が足りない」は、誰にとっても分かりやすい懸念材料だ。
 係になってしまった親たちの負担感を最初に持ち出してしまうと「他の係はもっと大変だ」とか「私たちも昔やったが楽しくやった」などとすぐに反論されてしまう。

 また「こんな行事は必要ない」といきなり切り込んでしまうと、その行事を「楽しかった」と記憶しているOBすべてを敵に回すことになってしまう。
 まずは多くの人が共有できる「お金の問題」にすり替え、その切り口から少しずつ「本当にこの行事は必要か」という本質に迫っていく方が、無駄なエネルギーを使わないで済むだろう。
 
 しかし、多くの場合変えることは難しい。現役当時に係として苦労したOBでさえ「喉元過ぎれば・・・」で記憶を補正してしまうことが往々にしてあるからだ。
 また「実際にやれば楽しい」というのは事実であろう。ただ参加するだけ、ちょっと手伝うだけなら楽しいのだ。
 その陰で準備や片付けに奔走する犠牲者を「少年野球チームにこの程度のことはつきものだ」と突き放すことが、結局「野球離れ」の一因となってきた。そのことをチーム側は今こそ真剣に考えなければいけない。
 
 そして親も、もし本当にチームのためを思うのであれば、自分がOBになったときこそ「あの行事は必要ない」と言ってあげなければならない。自分たちがOBになったとたん「意外と楽しかったから続けて欲しい」と無責任に言い始める人がいるから、「謎の伝統行事」が続いてしまうのである。


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