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BASE ART CAMP Story vol.1 [西尾浩紀]

《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》

BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。

今回は、かつて同様の講義を受けた卒業生へのインタビュー。

「日本の物流をカッコよくする」をコンセプトに、物流領域のコンサルティングや人材育成をおこなう「株式会社CAPES」の代表、西尾浩紀さんにお話をうかがいました。西尾さんは、効率性だけではない体験のひとつとしての配送をサービスに掲げる「サンタデリバリー株式会社」の代表や、物流に文化を届けるブランド「MERRY LOGISTICS」のオーナーもつとめています。

 BASE ART CAMPの前身となる連続講座「アート×ワーク塾」を受講した西尾さん。講座を通して「アート思考のフレーム」を身につけたことが、かねてより構想していた新しいサービスを始める後押しになったと語ります。

 ビジネスパーソンが芸術に触れ、アート思考を学ぶことで、仕事にどんな拡張の可能性があるのか、自身の体験をもとにお話をお聞きしました。


アートを学んで、新しいモノの捉え方、考え方を獲得したかった


ー:お名前とプロフィールをお願いします。

西尾浩紀です。経営している会社はふたつあって、ひとつが「株式会社CAPES」という、物流に関する会社です 。物流の見え方を変えるというか、世界観を変えるということを重視していて、 物流の自動化や、人材配置などのコンサルティング事業、物流領域に関わる人材育成の事業。また、僕がオーナーをつとめている、物流業界の営みにアートやデザインなどの文化を取り入れるブランド「MERRY LOGISTICS」の自社商品の開発や、物流領域にデザインをインストールするデザインワークなどを事業としておこなっています。

西尾浩紀さん

もうひとつは「サンタデリバリー株式会社」というのをやっています。通常、物流って効率的であることだけに目が行きがちですけど、じつは「ものを誰かに届ける行為」って素敵な行為だと思っていて。受け取り手、送り手、届け手の気持ちに寄り添って、配送というサービスを考え直そう……というサービスを提供している会社です。

もともと株式会社CAPESはやっていたんですが、「アート×ワーク塾」を受けたことも影響して、受講後にサンタデリバリー株式会社を建てました。

ー:西尾さんが物流業界に入ったきっかけは何ですか?

そこを目指したというよりも、1社目に入った会社のジョブローテーションとして物流の部門に配属された経験があるのが物流との出会いですね。そこで、物流って面白い世界だなと思って。


ー:どういういきさつで「アート×ワーク塾」を受講したんでしょうか?

もともと、矢津さんのことは存じ上げていましたし、いま一緒にMERRY LOGISTICSを運営している「マガザンキョウト」の岩崎くんも一緒に取り組んでいるっていうのも知っていたんですよね。知人が開講しているというのが理由のひとつとしてあります。とはいえ、最大の理由としては、既存のビジネスとは違う視点や論理というか、理屈やものの考え方を獲得したかったっていうのはありますね。

ざっくり言うとビジネスっていうのは、誰かしらが抱える何かしらの課題を解決して、それに対して報酬をいただくというのが、本当に大まかな理屈ですよね。でも、それだけではなくて当時の自分はビジネス的な視点の他に、新しいことを始めるための別の視点が自分のなかに欲しかった。そんな時に、アート×ワーク塾の話を聞いて、なんだか面白そうだなあと思って受講しましたね。


ー:当時、西尾さんが会社の運営に対して悩んでいた時期だったとか?

いえ、悩んでいたとかではないですね。確か株式会社CAPESを立ち上げて1年目とかですかね。コンサルティングを一生懸命やっていて、次の段階として、教育的な事業なんかも始めようかななんて思っていた段階だったはずです。会社として、次何をするかの方向性を模索していたというより、いまやっている方向性のうえで、もっと面白いことができるはずだな、 面白いことをしていきたいなという前向きな考えでしたね。何かを変えたいとか、何かにすがりたかったとかっていうわけではなかったです。


出会ったことのないフレームワークで動く人たちの考えが、自分の壁を崩した

アートワーク塾のロゴ

ー:アート×ワーク塾では、どんな授業を受けられたんですか?

様々なジャンルでアート思考を実践していると言える個性的な講師の方々の講義やワークショップを通して、自分のなかにあるアート要素と向き合あっていこうというプログラムでしたね。

例えば、写真家の石川直樹さんの授業では、事前に出された課題(自分でテーマを決め写真を撮ってきたもの)を石川さんが即興的にレビューしていくポートフォリオレビューや、プロダクトデザイナーの吉行良平さんと副産物産店のコラボ授業では、アートの副産物(廃材)を使って、即興的に手を動かしてアウトプットを繰り返すラピッドプロトタイピングの手法を体験するなど、語感や身体を存分に使った不思議な授業を受けました。

受講すると気づきがたくさんあったんですけど、自分のなかにある既存のフレームを突破する、壁を崩すという体験がもっとも重要でした。皆さんが使われている言語はもちろんですが、構成、つまり思考や価値のフレームそのものも違うわけですよね。

自分がビジネスをするなかで当たり前だと思っていたことが、矢津さんが設計されたプログラムや、講師の方が話す言語のなかでは全く違っていた。お金になっていないのにどうしてこんな取り組みを……!?とか、そういう驚きもありました。ビジネス的なフレームだとまったく理解できない瞬間が各回に存在していた。

自分のフレームワークや駆動とまったく違うものが、アートにはあった。そのフレームを理解できたことが大きかったですね。

アートワーク塾の講義の様子

ー:今まで身近にいなかった人との出会いで、あたらしい価値基準が西尾さんのなかに付与されたような感じですかね。

そうですね。アーティストの方々って、僕がいままで過ごしてきたビジネスの世界にはいない人でした。そういった人の話をたくさん聞けたのが良かったですね。

「アート×ワークエキシビジョン#02」では、アートワーク塾1期生自らの内側にあるアートとの出会いから始まり、様々な方法で生のアート思考に触れ、実践してきたその成果(作品)を展覧会で発表した。


意思を形に表す力=アート思考をビジネスに転換する装置を自分のなかにもつこと

ー:自分とは違うフレームを持つ人の話を吸収して、西尾さんはどんな気づきを得ましたか。

まず、受講料は安くはない金額なので、 ビジネスパーソンとしての目線で言えば投資的な側面がある。学んだことを生かさなきゃいけないというハードルはありました。要は、受講する意味をどう捉えるかっていうところなんですけど。そこは受講経験がある身から言って、簡単ではないと思います。ハードルを上げてしまうようであれなんですけど、アートを学ぶ塾って、今日明日で身につく知識を得られるようなことじゃないと思うんですよね。

ビジネスパーソン向けの講義だったら、財務諸表が読めるようになるとか、明日から使えるマーケティング……みたいな、そこに対してお金を投じた結果、明確な結果が得られるものが多いと思うんです。アートワーク塾は、自分のなかでアートの考え方をビジネスの考え方にも活かすための変換装置を持っていないといけない。自分はたまたま、その転換装置を持つことができたから仕事に活かせたというのはあります。

ー:転換装置を持つための秘訣は?

矢津さんがコンセプトで語っている「自分で何かをつくって生み出すこと」って、ビジネスパーソンだけではないと思うんですけど、苦手とする人は多いと思っていて。 自分の意見を言うことすら苦手意識を持っている人も少なくないじゃないですか。

自分の意見がベースになって、それがしかも形になって世界に顕在化しているのがアートワークだとすると、外圧ではなく、自分としての考えや、自分はこうやりたいっていう、内側から出るもの……自分の意思にフォーカスする行為の難しさを乗り越えていかなければいけないっていうのが、ビジネスパーソンとしてのハードルかもしれないです。

その上で、アート的な思考、自分の意思をビジネスのなかに落とし込んで考えていくことが必要なんじゃないかと。意思の変換装置も、一朝一夕には手に入らないとは思いますが。

ー:なるほど。サンタデリバリー株式会社を立ち上げたのも、アート思考をビジネスに転換できたというところが大きかったですか?

アート×ワーク塾を受講する前から、「こういうことやりたいよね」っていうことは周囲と話していたんです。講座のなかでいろんな情報がインプットされたことで、もともとやりたいって思ったことを実現する方向に自然と流れていったって感じですね。


講義を受けるなかで生まれる「違和感」を無視しないことが新しいビジネスのきっかけになる

ー:アート×ワーク塾での経験が仕事に活かされた瞬間っていうのは具体的にありますか?

講座で繰り返し言われていたのが「自分の中の違和感を大切にしよう」っていうことですね。これはずっと一貫したメッセージとして言われていた。違和感を無視しないことが、新しいサービスをつくるきっかけにはなると思っています。アートのフレームを目の前にして、ビジネス視点で「なんでこんなことやってんの?」っていう違和感を僕が感じたように。違和感の正体や要因を考えるなかで、ビジネスのヒントも生まれてくるのかなと。

うん、僕の場合ですが、現状のサービスに違和感を覚えて新しいサービスを生み出しているっていうのはある気がしますね。

もともと人と同じことをしても仕方ないし、新しいもの・オリジナルのものを世に出した方が面白いとは思っているので。自分のそういう性格もあいまっていたと思うんですけど、それが加速した感はあります。

新しいサービスを生み出すための研修費としてアートを学ぶ価値はあるかもしれない

ー:BASE ART CAMPは、ビジネスパーソンの方々にも意義のあるプログラムにしたいと考えているので、ビジネスの現場にもアートの思考がよい影響をもたらすっていうのは、西尾さんのお話を感じてあたらめて実感しました。

僕が受けたのは前身となる講座でしたし、受講費も異なるので、ぶっちゃけ、BASE ART CAMP にどれだけの価値があるのか僕は「これだ!」って言い切れないんですけど(笑)。

ただ僕自身の経験のなかでは、新しいサービスの背景には、アート×ワーク塾で学んだアート思考が大きく影響していますし、それはサンタデリバリー株式会社っていう会社にもなっている。 これからもアート思考はサービスをつくるうえでのひとつの視点になりますし、社のメンバーにもアート思考を共有することで、組織の中にもビジネス視点だけではないものの考え方は醸成されていきます。

アートを学んだ結果、生み出されたサービスで売上をちゃんとつくっている事を考えると、 どこの企業でも実践できることだと思いますね。 新しいサービスを生み出せる可能性があるんだったら、ある意味では研修費みたいな形で、企業が社員に受けてきてもらう……ってパターンもありなんじゃないかなと。

もちろん今日明日で回収できるものではないんですけど、投資に見合う効果は生まれるはずなんで、いいきっかけになるんじゃないかな。


▼プロフィール

西尾 浩紀
株式会社CAPES/サンタデリバリー株式会社代表。物流に文化を届けるブランド MERRY LOGISTICS Owner.

この記事に関わった人々

主催:一般社団法人BASE
イラストレーション:土屋未久
ライティング:ヒラヤマヤスコ(おかん)

《 一般社団法人BASEとは?》

京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。

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