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連載 | BASE ART CAMP interview vol.1 【矢津吉隆】

《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》

BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。

今回は、BASE ART CAMPの発起人である矢津吉隆さんにお話をうかがいました。自身も美術家でありながら、アートスペースである「kumagusuku」も運営し、芸術や創作が集う場づくりにも携わっている矢津さん。BASE ART CAMPを立ち上げた経緯や、講座のなかからどんなことを受講者には得て欲しいか、お話をお聞きしました。

京都にある民間の芸術拠点を守るための担い手育成として


ーまずは、BASE ART CAMP開講の経緯などを教えていただけますか。

運営母体となる一般社団法人BASEは、アーティストの創作活動および、ギャラリーやライブハウス、小劇場などといった芸術拠点を守っていくための基金として、京都にある5つの民間の芸術拠点によって設立された団体です。その拠点のひとつに、僕が運営するアートスペース「kumagusuku」が入ってるんですけども。

京都の文化を担ってきた民間の芸術拠点を守っていくため、持続的に運営されていくための、ある意味で仲間づくりと言うか。京都の芸術文化を支えていく担い手の人たちをつくっていくためのひとつの手段として、社会人向けのアート塾をやろうということがきっかけですね。

BASE ART CAMPの発起人である矢津吉隆さん

ーBASE ART CAMPのなかで、矢津さんはどういった関わりをされているんでしょうか?

僕の役割としては、簡単に言えば「プログラムディレクター」ですね。全体でどういったプログラムを組んで、どういった内容の授業をするのかっていうことを、各回の講師と相談しながらつくっていく立場にあります。


拠点に何度だって立ち返って、山頂へのアタックを目指すためのベースキャンプ


ーいままで京都のさまざまな場所でアートに関する講座は開講されてきましたが、BASE ART CAMPが他と異なるところはどこですか。

まずビジネスパーソンに特化したアート塾であること。もうひとつは「新しい芸術学校」という表現をしているんですが、決してアーティストになりたい人にむけた講座ではないということでしょうか。

芸術学校……いわゆる芸大って、基本的にはアーティストや表現者になりたいっていう人が通う場所を指すと思うんですけど「新しい芸術学校」はそうではありません。いま生きて働いているなかで、自分自身が持っているアート的な思考や、自分が抱えている芸術的な側面に気づくことで人生を豊かに生きていくことができる。それらをいずれは仕事に発揮したいなどの展望も含め、人生を豊かにするための芸術や、その表現を実践的に学べるような場所としてBASE ART CAMPをつくっています。


ーBASE ART CAMPという名前に込められた意味は何ですか?

BASE ART CAMP、アートの言葉を抜くと「ベースキャンプ」っていう言葉になるんですけども、これは登山の用語ですね。標高の高い山において、いったん資材を置いておいたり、高地に慣れるための滞在拠点になったりする、山を登り切るために必要な基地がベースキャンプ。山の中腹にカラフルなテントが並んでいて、登山者たちはベースキャンプに滞在しながら、高地順応という訓練をするんですね。山を登ってはまた戻ってを繰り返して、身体を高地の環境に慣らしていく。ベースキャンプへ立ち返ることを繰り返しながら力をつけて、最終的に山頂へアタックするわけです。

そんな登山におけるベースキャンプに、BASE ART CAMPはなぞらえていまして。日本は、芸術が身近なものではないと感じる人が多い国です。自分の生活とは少し離れたところにあると思っている人が多いと思うんですね。そういった、アートに関して苦手意識があるとか、アートに関して興味はあるんだけれども気軽には触れられない人にとっては、まずアートそのものに慣れてもらうことが重要かなと思っていて。アートに対して順応していく段階すらも学ぶことの重要な位置づけとして定義できないかなということで、登山の用語とかけて、BASE ART CAMPという名前をつけました。

ベースキャンプになぞらえ、プログラム自体も、順応編と登頂編の2段構成になっています。登頂編に進んでからも順応編で学んだところに戻れるし、プログラム全体を終えて卒業した後、いつでもBASE ART CAMPそれ自体に立ち帰ってこれる……そんな思いもあります。


人の根源的な営みであるものづくりの思考を学ぶ


ーどんなプログラムを考えているんでしょうか?

順応編である前半の3ヶ月は、3つの講義と5つのワークショップというプログラムで成り立っています。順応編のファシリテーターとして入っていただく、佃七緒さんという美術家と一緒にプログラムを考えました。一般社団法人BASEは演劇・美術・映画・写真・音楽の拠点が手を取り合っている団体なので、それらのジャンルに近い人を各回の講師に選んでいます。

アート思考を学ぶことができるスクールっていうのは他にもたくさんあるんですけど、基本的にはアーティストの話を聞くとか、アート思考とは何なのか講師が話すのを聞くという内容のものが結構多いんです。僕が今回やりたいなって思っているのは、「つくる」というところに着目して、アーティストのものづくりの裏側や、その思考を学んでもらうこと。

苦手に思う人も少なくないんですけど、ものづくりって人の営みのなかですごく根源的な行為なんですよね。もともと道具や建物などは、自分や集落で暮らしを共にする何人かでつくってきていた。つまりものづくりは、人の生活にすごく近いところに本来あったと思うんですよ。それが現代は、どこかわからない場所で他人が作った、いわゆる工業製品を我々は買って使うというようなことをしている。そうしたなかで、何か抜け落ちてくるものがあるんじゃないかなと思っていて。

それは単に技術や技巧だけではなく、思考する行為自体も含まれている。そこに開講のポイントがあるんじゃないかなと。ものをつくるなかで絶えず思考することを、実践的に学べるプログラムをつくりたいと考えています。


明確な答えが用意されていないからこそアートは世に必要とされている


ー:ものをつくるという行為には、技巧だけではなく思考するということが内包されているんですね。

言いたいこと全部いっときましょっか(笑)。ものをつくることについて、もう少し話しておきたいんですけど。

ー:どうぞどうぞ(笑)。

「ロジカルシンキング」という言葉があるように、いま、ものごとを人に伝えるときって、具体的に分かりやすく論理的に、即効性のある方法をとるということに価値があると多くの場面で思われていますよね。YouTubeなどの動画コンテンツはその最たる具体例で、短い時間のなかに情報をぎゅーっと詰め込んで、なるべく分かりやすく多くの人に多くの情報を伝えるという手法が取られている。

アートっていうのはそれが真逆かなと思っていて。すごく抽象的なことや、曖昧で言葉にならないような感情や思考っていうものを、言葉ではなくてオブジェクトや平面、インスタレーションなどいろいろあると思うんですけど、さまざまな形にアウトプットされている。鑑賞者は作品と対峙し、それを読み解いていくということを通して作品と関わっていく。それこそがアートの本質的な構造だと思うんです。しかも、明確な答えへ辿り着かなくてよくて、それぞれが答えを持っていいものなんですよね。

アーティストは考えて作品をつくるんですけども、展示された、いわば世の中に出た瞬間にアーティストだけのものではなくなってしまっていることがじつはあって。アーティストが考えたことが全てではなく、鑑賞者が解釈したその作品の意味もまた真実だと思うんですね。そういう事はなかなかアート以外の場で受け入れられないことなんですよ。例えば、とある企画書の解釈が作り手が言いたい事と乖離していた場合は、それ誤読してるよって言われてしまうように。

アートの場合は、必ずしも上位概念である作り手の意図を受け取る側が理解しようと努めるものではなくて、フラットな立場で作品の解釈を言い合えるのがアートの良いところ。ひいてはそれが、一見するとわかりにくいものであるにも関わらず、世の中でアートが必要だとされる一因なのかなと思うんですよね。

持っていたけど忘れてしまった「アート思考」を引き出して、自分の新しい武器にしてほしい


ー:各々が解釈するアート思考を実践的にBASE ART CAMPでは学べると思うんですが、ロジカルシンキング的な思想は捨てた方がいいんでしょうか?

いや、そういう訳ではないですね。ロジカルシンキング的な考え方って、ビジネス界隈でも流行りとしてあったし、実際すごく機能することもたくさんあったと思うんですよね。それらを捨ててアート思考に移行してくださいっていう話ではなくて、今まで持って使ってきた武器に加えてもうひとつの武器……この場合はアート思考ですね。それを手にしていくことを受講生には身につけて欲しくて。

アート思考って、もともとみんな持っているんだけれども、規範的に生きる事を強いられながら成長していく過程で忘れられてしまったり、持ってはいるけどうまく使えなくなったりした能力じゃないかなと。自分の内面にある、欲求みたいなものに蓋をしているという大人は少なくない。

多くの人には備わっているけど、表に見えてこない考え方や感情を引き出すためのプログラムをBASE ART CAMPではおこなっていきたいなって思っています。そういえば昔、自分はこういう感情や感性を持っていたなと思い出したり、興味があったのに忘れてしまった感覚を取り戻していったりすることを、ものをつくる過程からいかに引き出していくか。そこも、今回のプログラムで重要なところかなという風に思っています、はい。

▼インタビュー動画



▼プロフィール

矢津吉隆 (やず よしたか)
美術家 / kumagusuku代表 / 株式会社kumagusuku代表取締役

1980年大阪生まれ。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)非常勤講師、ウルトラファクトリープロジェクトアーティスト。京都を拠点に美術家として活動。また、作家活動と並行して宿泊型アートスペースkumagusukuのプロジェクトを開始し、瀬戸内国際芸術祭2013醤の郷+坂手港プロジェクトに参加。主な展覧会に「青森EARTH 2016 根と路」青森県立美術館(2016)、個展「umbra」Takuro Someya Contemporary Art (2011)など。2013年、AIRプログラムでフランスのブザンソンに2ヶ月間滞在。アーティストのアトリエから出る廃材を流通させるプロジェクト「副産物産店」やアート思考を学ぶ私塾「アート×ワーク塾」など活動は多岐にわたる。

http://kumagusuku.info/about
BASE ART CAMP interview vol.1に関わったメンバー

主催:一般社団法人BASE
イラストレーション:土屋未久
ライティング:ヒラヤマヤスコ(おかん)
音楽:武田真彦
映像撮影・編集:三輪恵大
写真撮影・編集:井上みなみ

《 一般社団法人BASEとは?》

京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。

◆BASE ART CAMP について詳しく知りたい方はこちら


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