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SNSで大反響。未来の消費体験ができる店舗「The Label Fruit」はいかにしてつくられたのか。

2021年末に東京・原宿にオープンしたフルーツオレ専門店「The Label Fruit」。スマートフォンによるモバイルオーダーを通じてドリンクの味や中身、ラベルをカスタマイズし、店頭で商品を受け取るという未来の消費のあり方を体現するこの店舗において、バスキュールは店舗ロッカーのサイネージやスマートフォンでの注文フローなどデジタル領域の演出、体験設計を担当しました。これらを手掛けたバスキュールのアートディレクター・春日 恵、リードエンジニアの和田教寧が、The Label Fruitを運営するShowcase Gigの取締役・中野 彰さんとともに、プロジェクトがどのように進められたのか、振り返りました。

Showcase Gig 中野さん  リードエンジニア 和田  アートディレクター 春日

中野 彰さん
Showcase Gig 取締役
商社物流システムエンジニア、広告代理店、ミクシィを経たのち、2013年にShowcase Gigに参画。飲食・小売向けモバイルプラットフォーム「O:der」をはじめとするプロダクトのUX/サービスデザインを担う。ラベルフルーツでは、店舗全体のプロデューサーとしてバスキュールと設計や演出を密に連携しながらサポートしていただきました。

和田 教寧
バスキュール リードエンジニア
大阪オフィス勤務。面倒見のよさはバスキュールイチ。宇宙からリアルイベントまで幅広く演出や開発を担っています。ラベルフルーツでは、デジタルサイネージのアプリケーション設計、演出、実装を担当。

春日 恵
バスキュール アートディレクター
紙媒体出身のタイポグラフィオタク。宇宙、イベントやロゴデザインなど何でも受け止めてくれるオールラウンドデザイナー。ラベルフルーツでは、3DのディレクションからUI/UXの設計も担当。

モバイルオーダーによる新しい店舗のカタチ

ーまずは、The Label Fruitをオープンした経緯を聞かせてください。

中野 Showcase Gigは、スマホから商品の注文や決済を行える「O:der(オーダー)」というプラットフォームを通じて、飲食店や小売店に業務効率化、顧客体験向上のためのソリューションを提供することを主な事業としています。

同時に、モバイルオーダーをテーマにオープンした「THE LOCAL COFFEE STAND」や、サントリーさんと共同で手掛けた「TOUCH-AND-GO COFFEE」など、新しい消費体験の場をつくる取り組みも行ってきました。

The Label Fruitはこうした取り組みの一環として生まれたもので、モバイルオーダーを通じて新しい消費体験と、未来の飲食店の姿を提案することをテーマにしていました。

TOUCH-AND-GO COFFEEもShowcase Gigさんと一緒に取り組んだプロジェクト

ーなぜ、バスキュールと協働することになったのですか?

中野 実はバスキュールさんとは、前職の頃から色々なプロジェクトでご一緒させて頂いていて、個人的にもご縁がありました。

今回のプロジェクトでは、自動釣り銭機や駅のコインロッカーなどで高いシェアを持ち、当社が資本業務提携を結んでいるグローリーさんと共同で研究・開発しているデジタルロッカーを用いた完全BOPIS店舗にしたいと考えていたんですね。

そのため、店内ではロッカーを軸にしたコミュニケーションやお客様の体験をどれだけ楽しいものにできるかが肝で、その部分をインタラクティブ表現や体験づくりにおいて世界トップクラスだと感じていたバスキュールさんにご相談させて頂きました。

春日 今回バスキュールでは、ロッカーのサイネージやスマートフォン上の注文フローなどのデジタル演出を担当しました。

中野さんをはじめShowcase Gigさんとは、The Label Fruitと同じく非対面型店舗だった「TOUCH-AND-GO COFFEE」でもご一緒していて、今回も同じメンバーをアサインしています。

そのため、お互いに気心が知れているチームであり、色々なことを気兼ねなく言い合える関係性がすでにできていました。

店舗でスマホをかざして注文したドリンクを受け取る

ドリンク受取り演出まで自分だけにカスタマイズされた体験

ーThe Label Fruitの概要について教えて下さい。

中野 ユーザーはスマホの注文ページから、ドリンクの味や中身、ラベルをカスタマイズした商品をオーダーし、オンライン決済を行います。そして、指定した時間に店舗に行き、QRコードをロッカーにかざすことで商品を受け取ることができます。

特にいまの若い世代は、「自分仕様にできる」「オリジナルにカスタマイズできる」という要素を持つ商品を求める傾向が強く、The Label Fruitでもその点を重視しています。

これは店舗においても同様で、商品を受け取る体験自体も自分仕様にパーソナライズされているということが重要なポイントでした。

バスキュールが担当した注文画面:細かな味の設定はもちろん、ラベルもカスタマイズができる

春日 体験を設計する上で最初に行ったのは、店舗におけるロッカーの役割を整理することでした。

そこでまず考えたのは、街を歩いている人たちにユニークなサービスを提供しているお店があることを伝える「看板」としての役割でした。他にも、商品のバラエティを伝える「商品棚」としての役割や、商品をお渡しする「店員」としての役割もあります。また、無人店舗ということもあり、「お店のにぎわい」を伝える役割をロッカーに担わせることも大切だと考えました。

当初お話を伺った時は、ロッカーにプロジェクターをあてるというものだったのですが、ロッカー自体がコミュニケーションの大事なツールになるのでより再現性が高くなるよう、ロッカー1つ1つをサイネージにすることも提案させてもらいました。

そして、これら4つの役割を満たすようなサイネージの表現、商品受け取りまでのコミュニケーションを考えていきました。

ユーザーとのコミュニケーションツールになっているオリジナルのディスプレイ付きロッカー

中野 The Label Fruitのロッカーは一つひとつがディスプレイになっているのですが、これは今回の店舗用にワンオフで開発したものだったので、試作前段階から工場に足を運んでフィジビリティなどを確認する必要がありました。

また、店舗レイアウトも並行して企画していたため、ロッカーを設置する位置や間口数などの前提条件もなかなか定まらない中で、体験の設計や演出を考えていく作業はかなり難易度が高かったと思います。

和田 店舗には複数のロッカーが並んでいるのですが、中野さんが仰ったようにロッカーの設置場所や数が読めない状況の中、ロッカー全体でひとつの演出を考えるのは難しいところがありました。

そのため、一つひとつのロッカーを個別に演出しつつ、全体として見た時にも成立するような表現を考えることにしました。そして、ユーザーがカスタマイズしたボトル一本一本を主役に据えながら、それらが集まることでお店としての賑わいも伝えられるような演出をつくり込んでいきました。

春日 注文者が商品を受け取る際には、自らがカスタマイズしたボトルが3Dでリアルタイムに表示されます。受け取る時のロッカーサイネージも、注文したユーザーにカスタマイズされた演出が体験できるようになっているんです。

また、それらが店舗演出の素材として蓄積されるようになっています。つまり、ユーザーが使い続けている間はどんどんコンテンツが変わっていくわけで、ここが完パケしたものを納品するCMやポスターなど広告のクリエイティブなどと大きく異なる点だと思います。

デザインとエンジニアリングが一体化したものづくり

ー今回のプロジェクトのように新しい体験を設計する上で大切にしていることはありますか?

和田 常に体験者の目線で考えることが大事だと思っています。体験者がどんなシチュエーション、どんな気持ちでコンテンツに接するかを考え、その条件下でより楽しめる、驚ける体験にするためには何が必要なのかということを考えるようにしています。

The Label Fruitでは、春日も話したように常に変化することで新しいお店であり続けるということを意識していました。また、ユーザー体験を阻害しないことも大切なことだと思っています。

今回であれば、スマホからオーダーし、期待感を抱いて来店した人たちが、ロッカーにQRコードをかざして商品を受け取り、SNSに投稿するという一連の流れをいかに気持ち良いものにするかということを意識していました。

大阪オフィスからリモート参加したエンジニア和田

中野 「こういうロッカーがあるから何か楽しいものをつくりましょう」ということではなく、一連のカスタマージャーニーの中でユーザーの体験がどうあるべきか、その中でロッカーが果たす役割は何かということから考え、演出に落とし込んでくれるところが、我々がバスキュールさんに絶大な信頼を置いている理由でもあります。

これまでにない体験をつくり続けてきた豊富な経験があるからこそ、そこでどんなことが起こり得るのか、それは体験を阻害することにならないのかといったことを高い解像度で考えられるのだと思っています。

和田 体験の設計とエンジニアリングを分けて考えるのではなく、一連の流れの中でつくっていることがバスキュールのものづくりの特徴です。

まずはプロトタイプを形にしてみて、何か違うところがあれば修正してまた試してみるというトライアンドエラーのサイクルを、できるだけ小さく、スピーディに回していくことでより良い体験が追求できると思っています。

春日 今回のボトルの3D表現では、エンジニアと話しながら演出をつけたのですが、お互いに隣の席で作業をしているんですね(笑)。

だから、「ボトルの動きが気持ち悪いから演出を少し抑えよう」「もうちょっと動きにメリハリつけたらよくなるかも」などといった細かいやり取りができるんです。そうしてつくったイメージをShowcase Gigさんにも共有して意見をもらったりもしましたよね。

中野 そうですね。今回は、お店全体としてテーマパークのような、ある種おとぎ話の中にいるような設えを意識していたので、リアリティのある動きよりも、クレイアニメーションのような手触り感のある動きの方が馴染みそうだということなどを意見させてもらいました。

予め動きのバリエーションを想定し3Dモデルを作成
CGで動きのイメージを模索

動きの検証:フルーツのカットの仕方に合わせた動き

表示確認:ロッカーに組み込まれる同型モニターをつかった検証

受発注の関係を超えたコラボレーション

ー制作プロセスにおいても、両者で密にコミュニケーションを取っていたのですね。

中野 はい。まだ世の中にないような体験をつくっていくためには、密に連携しながら柔軟な動きが取れる体制で進めることが重要だと思います。その点今回は、こういうことがしたいというプランニングの部分と、それを実現する方法としてのクリエイティブの部分がしっかり連携できていました。

和田 Showcase Gigさんのモバイルオーダーのシステムと、グローリーさんのロッカー解錠システム、弊社で開発したサイネージアプリケーションそれぞれが連携する必要があったので、エンジニア同士も常に連携しながら開発を進めていきました。それぞれが離れた場所で並行して開発を進め、すべてのシステムがつながったのはオープンの2週間前くらいでした。

中野 両社のエンジニアもSlack上で頻繁にやり取りしていましたよね。それぞれの役割の中で連携したチームだったからこそ、色々な課題を乗り越えられたのだと思います。

取材はShowcase Gigさんのオフィスにおじゃまして行った

春日 僕がかつて在籍していた広告制作の会社では、クライアントの依頼を受け、こちらがクリエイティブの提案するまでのおよそ1ヶ月間、やり取りをしているのは広告代理店の営業とクライアントの担当者だけで、クリエイターはそこに一切入らないということがよくありました。

そうなるとクライアント側もプレゼンの日に初めて提案を目にすることになり、そこでもし気に入ってもらえなかったら一からやり直しになるんです。それは明らかに効率が悪いし、つくる時間が減ることでクオリティも下がりかねません。

今回のように制作段階から共有・改善ができれば認識のズレや無駄な時間は生まれないし、お互いが安心できると思うんです。今回お店をつくるにあたっては、Showcase Gigさん側も色々悩んだはずですし、それらも共有してもらいながら、一緒に解決していけるチームでありたいという思いがありました。

ーそうした密な関係を築いていく上ではどんなことが大切になると思いますか?

中野 「O:der」のようなプラットフォームのプロダクトも、バスキュールさんが実践してきたことと同様に、小さな失敗・改善を繰り返していかなければより良いものにならないんですね。そうした認識をお互いが持っていたからこそ、良い関係性をつくれたのではないかと思います。

まだ世にないもの、予測が困難なものをつくるプロセスでは、依頼者、受託者という枠組みを超えた関係を築くことが大切で、それは我々が携わっているDXの現場などにおいても同様だと感じます。

和田 それぞれが自分の役割や業務の範囲を割り切って進めた結果、いざ蓋を開けてみたらクライアント側のイメージとクリエイターがつくったものに大きなギャップがあったというのはよく聞く話です。

そうならないために大切なことは、最初の段階で目指すところをすり合わせた上で、一緒にゴールに向かっていくことだと思います。それができていれば、仮にどこかで転んだとしてもその先にどう起き上がればいいのかという判断にブレが生じないんです。

春日 今回は最初のオリエンテーションで、単なる無人のドリンクショップではなく、同じような業態の人たちに目指される存在になりたいという話を伺いました。

そうした高い目標が掲げられていた中で、最初の提案書の1ページ目に、海外のセレブやShowcase Gigの方々、大人から子供までさまざまな人が自分の名前の形になったストローでフルーツオレを飲んでいるイメージを入れたんです。

飲んでいる人全員が主役になれる楽しい世界や素敵な飲み物をつくりたいというイメージが共有できたことで、それを実現するためにどうしたらいいのかということをみんなで考えていけたのだと思います。

予想を大きく上回る反響

ーオープン後は、SNSなどでもかなり話題になりましたが、反響の大きさについてはどのように受け止めていますか?

中野 多くの方に楽しんで頂けているのは、来店されるお客様の表情やSNSの投稿などから見て取れますし、店舗での体験がシェアされ、新しいお客様が足を運んでくれるという状況が期待以上に実現されていてうれしい限りです。

新しい体験を世の中に提案し、それが受け入れられている様子を見ていると、やってよかったなと強く感じますし、成功の大きな要因としてバスキュールさんのクリエイティブがあったことは間違いないと思っています。

Twitterでは #ラベルフルーツ で推し活の様子が多数投稿されている


春日
 デザインの段階から、ラベルにアイドルやアニメのキャラクターの名前を入れたりしていたのですが、実際にそのように楽しんで頂ける方が多くてうれしいですね。

今後は、ユーザーが自らつくったオリジナルのボトルを通じて、さらなるおもてなしができると良いなと思っています。例えば、スマホをオリジナルボトルにかざしたら、ARでキャラクターが出てくるような演出ができたら、いまよりももっとSNSにフィードしたくなるかもしれない。
スマートフォンに特化したサービスだからこそ、スマホで簡単にできることでさらなる付加価値がつけられるといいなと考えています。

和田 ひとつお店をつくって終わりではなく、今後の展開も見据えながら、お店の体験をアップデートしていくようなことができるといいですね。

そういう意味では、お店に入ってから商品を受け取るまでの流れにまだ改善の余地があると思っていますし、さらに今後はメタバースのような実店舗以外の場所からお店を感じられるような体験にまで手を広げられると面白いなと思っています。

中野 お店に着いてからスマホでオーダーして、受け取り時間になるまで周辺でショッピングを楽しまれているような方も多いので、今後は店頭でスムーズに注文・決済ができるKIOSK端末のようなものを用意してもいいかもしれないですし、ニーズに合わせた機能をアドオンしていくことで、より多くの方にご利用頂けるお店にしていきたいと思っています。

また、我々の運営ではないですが、現在金沢に2店舗目のオープン準備を進めているところです。(※取材時点。現在はすでにオープンしています。)それとは別の話として、いずれは店内のテーブルオーダーに特化した新しい消費体験もつくりたいと考えています。

その機会が来たときには、ぜひまたバスキュールさんにご協力頂きたいですね。

春日 ぜひ!こんなおじさんたちがおしゃれなお店のサイネージをつくっていると知られたら、若い人たちががっかりしてしまうのではないかと懸念していますが(笑)、今後も楽しみにしています。

[取材・文]原田優輝(Qonversations)



バスキュールではワクワクする未来を一緒につくるデザイナー、エンジニアを募集しています。まだ誰も見たことがない未来の体験を一緒に考え、カタチにしていくことにチャンレジしたいと感じ方は、ぜひコンタクトください。



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